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家族会議

「では、エルは聖女候補として教会へ属するという事ですか」


 聖女候補の件について父から聞かされた兄は、確認するように聞いてきた。はじめこそ多少の驚きがあったみたいだけど、今では落ち着いて事実の確認に努めようとしている事が分かる。

 姉の方は…何やら考え込んでいるのが見て取れる。母も気づいていて、姉から私へと視線を向けてくる。


 ――私が見ているから、あなたは話へ集中しなさい。


 私はそれに軽く頷くことで、母から視線を戻す。事実、私に関する話なのだから集中するべきだよね。


 

「そうだな。そもそも選択肢は有って無いようなものだ。仮にだが拒否した場合、教会がどのような対応をしてくるか」


「…考えうる最悪の可能性ですが、破門ともなれば私達は国を追われる事になりますね」


 国教と定めている教会からの追放。それは、つまるところ帝国民ではなくなる。私としてはそこまでするのかな?と思うけど、父の後を継ぐべく政務にも携わっている兄が言うなら、可能性はあるのかもしれない。


「破門宣告があったとしても、すぐにどうなるわけではないがな。だが、宣告されれば覆すことはほぼ不可能である以上、何があろうと回避せねばならん」


「ええ」


 そこまで言い、二人の会話は途切れる。



 そして、その場に少しの沈黙が流れたとき、姉が声をあげた。


「ねぇ、エルは聖女になりたいの?」


 その声は、いつもの姉らしい静かな、けれど皆の意識を惹くには十分なものだった。


「さっき自分から引き受けたと聞いたけれど、その理由にはどんな利点があるかだけだわ。もちろん、それによって生じる問題についても考えたのよね。その上で、いえ…実際には選択肢はなかったのだから、エルは聖女候補になるしかなかったと言えるわ。エルの意思は関係なく」


 それは皆が分かっている事――仕方がない事。確認するまでもないと思うのだけど、姉は何が言いたいのだろう?


「それは言ってしまえば、結果なのよ。でも、そこで終わりじゃないでしょう? 聖女候補になったエルは、その役目を全うしなければならないわ。聖女への階段を上るというね。

 その中で、エルはどうしたいの? 聖女になるために、女神へ自身を捧げる? それとも、聖女は目指さずただ日々を浪費するつもり?」


「それは…」


「そうね、まだ見えてこないでしょうけど、一つだけ言える事があるわ。聖女候補なんて、曖昧な存在だからこそ自分自身が何者であるか、何になりたいか明確にしておかなければならないのよ」


 ――なんて、それは誰もが持たなければならないものだけどね。


 そう言いながら、姉は自嘲気味に微笑んだ。



「…エレンといいミーネといい、我が家の女性はどうしてこうも芯の強いのばかりなのだろうな?ライル」


「それは何とも、と言いたいですけど母上のご実家の方々を思うに、そういう血なのかもしれませんよ」


「ふむ、たしかにな。だとすれば…エルも、か?」


「おそらくは。…あぁ、そう言われてみれば」


「ほう、何か心当たりがあるみたいだな?」


「はい、あれはたしか――」


 姉の言葉に何か思うところがあったのか、なにやら男性陣は先程までとはうって変わって面白そうに話し始め――それを母と姉がどこか生暖かい眼差しを送っているのを意識の端に知覚しながらも、私はそれどころではなくて。



 ――私は何になりたいのだろう?


 その言葉に囚われていた。



 ………。

 ……。

 …。



「――と言う事があってだな」


「それは、また…母上らしいといいますか、そういうところはミーネもそっくりで…」


「ちょっと、いつまで二人で盛り上がっているのよ。そろそろ話を戻しません?」


 いつまでも終わりそうにないのを感じたのか、姉はやや呆れた声音を二人へ投げかけた。


「…あぁいや、すまん。ここ最近ライルとも仕事の話ばかりで思わずな…」


「ミーネ、すまない。そういうつもりはなかったんだ…」


 姉はそんな二人にため息を付きながら、


「あぁ…はい。分かりましたから、そういうのはまた今度にしましょう。とりあえず、エルがこの家にいるうちに済ませなければならない事は何があるかしら?」


「色々とあるわよ。司教様へのお返事と、それに伴う準備や手続き、その後はエルが教会へ属する事への関係各所への連絡や調整ね。特に後者になるほど忙しくなるわ」


「うむ、そちらは基本私とライルに任せてもらおう。二人にもそれぞれやってもらわねばならない事もあるが、それは追って伝える。エルは後日、私と共に教会へ。いつ出立になっても構わないよう、身辺の整理をしておきなさい」


 父の言葉に皆が頷く。


「では、ひとまず解散とする」


 そう言い、父は兄を呼び二人して食堂を出て行った。きっとこれから必要な書類の確認等に取り掛かるのだろう。普段の政務では扱わない書類であろう事は予想に難くなく、少し申し訳ない気持ちになった私は、あとで二人の休憩時間にお茶菓子でも持って訪ねようと決めた。



 さて、私も部屋へ戻ろうかと席から立つと、母から声がかかった。


「エル、あとで私の部屋へ来てくれないかしら? 無理なら明日でも構わないのだけれど」


「いえ、大丈夫です。――ではまた後ほど」


 ここでは話せない内容なのかな?と内心頭を傾げつつ、後で訪ねれば分かる事だと棚上げし私は食堂から出た。


 私は今日という一日はまだ終わりそうにない事に、若干の疲れを感じながら部屋への道を歩くのだった。






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