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【02】妹の話

「きゃっほーい!妹トークだ!」


 と、彼女が突き上げた右手からはダルンダルンの袖が垂れ下がる。

 もうそんな袖切り落としてしまえよ。


「それじゃあ議題を決めよっか」


「妹についてじゃねーの?」


「はぁ、これだから素人は……いい、お兄ちゃん?一口に妹と言っても奥が深いんだよ血の繋がりから始まりツンデレや無口などの様々な個性、兄との関係性など妹というだけで千差万別十人十色なんだよ!」


「よって妹マイスターこと妹スターでもなければ妹というジャンルについて語るのは荷が重いんだよね」


 奥が深いんだな妹。


「よって今回の議題は『妹のパンツに顔を埋めるのはギルティか否か!』に決定しました!」


 『いえーい!パチパチ!』なんで自分の口で言ってる彼女は高らかに宣言した。


 なるほど妹スターどころかマイリトルシスターもいない僕にとって妹という未知のジャンルへ一抹の不安を抱いていたがこれならまだ話せそうだ。


 妹という存在が中心にありつつかつ本題はその行動が善であるか否か、妹初心者の僕に対する配慮だろうか?


 子供扱いされてるようなある種の悔しさというかそういうものは感じるけれどやっぱり有難い申し出だった。


「でもそれって前提条件によって変わって来ないから」

 

「前提条件?」


「ほら、親公認の血の繋がらない彼氏彼女の関係の兄妹ならまあいいんじゃないか?とも思うし」


「成人した兄がまだ年端もいかない妹で性欲を満たしてるとなるとどんなバックグラウンドがあってもヤバイだろ?」


「なるほどなるほど、前提条件ね、じゃあそれから決めていこうか!」


「じゃあ兄と妹の年齢は?」


「お兄ちゃんって何歳?」


「え?えーと……726、7?17年と7年半と501年とちょっとに3日と203なんとちょっとで誕生日まだだから727歳か」


「ほうほう、ならば私は何歳に見える?」


「えっと、14、5歳?」


「じゃあ兄は727歳で妹は14歳ね!」


 兄すげー年寄りだな、じいさんかなんかなんだろうか?

 巨人で平均寿命300年、エルフで400年くらいなのに、悪魔は寿命ないんだっけ。


「二人の血の繋がりは?」


「そりゃもう水よりも繋がってるよ!でも初対面!」


「へえ生き別れたって感じなのかな?じゃあ後は故意性だな」


「微妙なとこもあるけどどちらかと言えば濃いかな?」



 なるほどなるほど、つまり727歳の兄が生き別れの14歳の実妹のパンツにわざと顔を埋めたのか。


 やばい絵面だ、でもこれは前提条件にすぎないのでこれが罪か否かを問われてるんだ。

 だとすれば。



「ノットギルティだな」


「ギルティだよ?」


 さっきまでの高いテンションではなく頭の悪い子を見るようなちょっと心配そうに言われた。

 全く関係ないのに少し心が痛む。


「おいおい、おかしなこと言うなよな。自分の年齢の1/52の実妹のパンツにわざと顔を突っ込むことのどこがおかしいんだよ?」


「頭どころか言ってることがおかしいよ」


「大体妹キャラってのは得てして『お兄ちゃん大好き!』なんだからその程度のTo LOVEる許容範囲だろ?」


「To LOVEるが起きたら顔埋めるほどじゃ済まないけどね」


「そんな程度でごちゃごちゃ言うような奴は妹じゃない!そんな奴がいたら僕はこう言いたいね、全国のお兄ちゃんに謝れ、と」


「誤ってるのはお兄ちゃんだよ」


「うるさいな、パンツぐらいでガタガタ騒ぐなよ」


「開き直った!?」


 むしろ長年一緒に暮らしてきて妹のパンツ見たことありませんって方がおかしいとさえ僕は思うね。


 僕の場合は姉だったけれどうっかり下着姿見て『おい見んなよ』『見たくないもん見せんなよ』くらいのやり取りはどこのご家庭でもやってるはずだ。


 思春期に姉のおっぱいに手が当たって一日中気まずくなるなんてエピソードくらいありふれてる。


「だいたい女に未だって書いて妹なんだぜ?」


「妹などという未だ女じゃない分際でお兄ちゃんのエッチだのなんだの僕に言わせればちゃんちゃらおかしいね」


「はっ、これだから妹素人のお兄ちゃんは妹にも漢字についても造詣が浅いね」


「妹には(いもうと)以外にも(いも)という読みがあるんだよ!いもの意味は愛する恋人」


「つまり英語で『honey』が蜂蜜って意味があると同時に蜂蜜のように甘い関係の恋人を呼ぶ言葉として存在るように」


「昔の人々は恋人を妹のような間柄に例えて愛を囁いてたんだよ!」


「平たく言えば妹は性欲の対象だったんだよ!」


「……マジで?」


「どこまでとは言わないけどマジで」


 マジか……昔の人進みすぎだろ。

 やっぱり先人の足跡を辿ったら、進みすぎた昔の人を時代が追いかけて追いついてようやく人類は妹萌えのジャンルを獲得したのか……。



「例えば姉妹って言葉あるでしょ?姉には女性に対する敬称の意味もあるからね」


「つまり姉妹ってのは身分違いの恋人を『いやこの人姉妹なんで』って傍目ごまかしつつその方への敬意も忘れない封建社会の隠語だったんだよ」


「そうなのか?」


「妹婿ってのもあるでしょ?あれは昔からあるNTRのことだね」


「……そうなのか?」


「小野妹子も小野さんの愛人の子供だったんだろうね」


「そうな──いやそれはさすがに違うだろ」


 名は体を表すどころか名で生い立ちを表したら学校でいじめられる事請け合いじゃねーか。


「つまり妹は古来から兄の恋愛対象って事でいいのか?」


「そういう事だよ!古来から妹って字には俺の嫁って意味が入ってるんだよ!」


「ちなみに近年では『姉』より『妹』って入ってるタイトルだと売り上げが少し伸びるんだよ!」


 やはり姉などおそるるに足らず……我が強敵ライバルにふさわしいのはやはり姪か……。


 などと厨二病モードに入った彼女を無視して僕は一つの結論に達した。


 妹(恋愛対象)のパンツに顔を埋めるのはギルティか否か?


「じゃあやっぱりノットギルティじゃないか!」


「え?あぁ……パンツ云々のやつ?ギルティに決まってるでしょ?」


 ふっ、笑わせてくれやがるぜ。


 僕の論の正当性を確固たるものにしてくれたのは彼女自身だというのに。

 妹は古来から兄の性欲の対象とされていたのならばなんら問題内ではないか。

 

 昔からそうだから今もそうみたいな前時代的発想はあまり好きではないがことこの場においてはその考えに倣わせてもらおう。


「妹への情欲が合法化した今となっては僕の正しさを否定する事はできないぜ?」


「いやいやお兄ちゃんそんな理論とか筋道とか合理性とかどうでもいい(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)んだよ」


「……え?」


 彼女は妖しく嗤った。


 僕の体を、世界最強を自認し自負し自戒する事実として世界最強のこの僕の体を見えない圧力が包み込んだ。


 こ、こいつ……!


「お兄ちゃんと妹が恋人関係とほぼ同じ関係性だということについては私も異論ないよ?」


「でも。」


「お兄ちゃんと妹の間には一つ決して破れない鉄の誓いがあるんだよ?」


「て、鉄の誓いだと?」


「そう、それは『妹の言うことは絶対』」


「い、『妹の言うことは絶対』だって!?」


 そんなの聞いたこと……いや確か一度だけ聞いたことあるような。

 でもあれは絶滅したはずじゃ!


「絶滅なんてしてないよ、絶えてなんてないよ、最近は従順な妹が増えてきたから表面化してないだけだよ」


「もっとも表面化してないだけだからその従順な妹にすら行使する絶対の法だけどね」


「お兄ちゃんに問おう、『妹の言うことを聞かない兄がいるか?』」


 いない、と言うのは簡単だ事実聞かない兄的キャラもたくさんいるだろう。


 しかしそれはその一部分を切り取っての話だ、お嬢様より幼馴染それこそ妹より実はツンデレ率が高い兄兼主人公のNOは方程式に当てはめればYESにひっくり返る……!


 妹の頼みを、妹のお願いを、妹の言うことを無下にする兄など居ないのだ。


「そう!つまり妹がスク水萌えだと言えばお兄ちゃんはスク水萌えだし貧乳ツインテは正義だと言えば貧乳ツインテは正義なんだよ!」


「そ、そんな!兄の人権は……!」


「はっ、悔しかったらその無様なYの染色体をXに変えて若返りの薬でも飲んでみるんだね」


 ……くそっ!こんなことって!こんなことが……!


 彼女の無慈悲な眼差しに僕は反論の言葉を発することができず、ただ心の中でありとあらゆる罵倒を繰り返す。


 僕は


 無力だ


「妹のパンツに顔を埋めるのはギルティ、これが最終決定だよ」


 そして悪意ある宣告が下された……。



 以上、茶番終わり。

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