【02】お兄ちゃんの話
我を呼び出したのはお前か、人間?
「括弧ついてないよ?」
「おっと、我を呼び出したのはお前か、人間?」
「格好もついてないよ?」
目の前の少女はそう言った。
薄いピンクの壁紙、フローリングの床、ファンシーな赤とピンクのクッションが大きな犬のぬいぐるみと一緒に転がって居て壁際には黒くて四角いちゃぶ台が追いやられてる。
まあ平たく言えばそこは女の子っぽい部屋だ。
プラスチックっぽい時計とかもうなんか普通にテレビとかあるから一瞬『あれ?現実世界?』って戸惑ったけれど広さといい内装といいワンルームマンションの女の子部屋って感じの場所だった。
僕の知識によればそれはちゃぶ台って名称で正しいはずだけれどちゃぶ台と言うとちゃぶ台返し出来る丸いのを思い浮かべるかもしれないので便宜上低いテーブルとでも呼んででおこうか。
多分本来の居場所は僕が今現在おわする部屋のど真ん中であろうに突然の来客で部屋の片隅に追いやられてすこし可哀想だ。
まあ僕がと言うか僕の足元にある本が原因なんだろうけど。
あ、よくみればこのくろいまどうしょはあくましょうかん、それもさいこういのあくまをよびだすうるとられあのまどうしょじゃないか!
つまりぼくはめのまえのしょうじょにしょうかんされたんだ!
ちくしょうきづかなかったぜ!
なんたるどんでん返しだ。
気付いてなかったんだからしょうがない、諸々しょうがない。
「ああ、もうそう言うのいいから話しようよお話」
と、彼女は両手を僅かに広げながらそう言った。
僕より頭三つくらい小さい彼女にはサイズが三つくらい大きいのかダボダボな制服の袖が重力に従って下に垂れる。
色は悪趣味な赤いカッターシャツ、グレーのスカート、薄ピンクと白の縞パン。
学生かなんかの制服なのかなー縞パンは知らんが。
何にせよ悪趣味な。
そもそも袖を垂らして両手広げるポーズは魔王的存在がしてこそ映えるんだ。
パンツ見られたくらいで生娘なような声を上げてた奴が──
「えいっ」
ローファー(これまた学校指定)の右足側が顔面に飛んできた。
しかし制服のスカート、しかも丈を詰めてるのか折り曲げてるのかミニ仕様になってるスカートでそんなことすればまたピンクと白のしましまが──
「えいっ」
左側が飛んできた。
いやと言うかおかしくないか?なんで室内で、フローリングの上で靴履いてんだよ。
そういう整合性はちゃんとしてもらいたいもんだぜ、やれやれ。
僕をやれやれ系主人公にするつもりか?
しかしそんなやれやれ系主人公のことを知ってか知らずか彼女は器用に左足を前に突き出したまま静止して居た。
そしてその左足を地面につけず何故か折りたたんで右の太ももに足裏をくっつけ器用に一本足で立っていた。
僕と立ち会っていた。
そして彼女は、
「初めましてだよお兄ちゃん」
と言った。
ちなみにそんなアクロバティックなポーズなのにも関わらずパンツはチラリとも──
「えいっ」
今度は黒いハイソックスが飛んできた。
いやノーモーションでそれはおかしいだろ!?