【01】パンツの話
目を開けると真っ暗だった。
いや、正確に言えば何か肌色とか白とかそんな系統の色が何となくは見えてたような気がする。
別に灯りが全くなかったと言うわけではなく薄手の布かなんかで光を遮り、それを透過してきた僅かな光明を頼りに薄ぼんやりと何かが見える、って感じだ。
その時僕は膝を折り曲げて足の裏を地面につけ、両手も体の前に起き、まあ一言で言うなら犬がお座りしてるような体勢をしていた。
全然一言じゃねーけど。
その体勢でちょうど口元に何か生暖かいものがくっ付いてたのでまあ食べた。
食べたと言うか食んだ。
あくまでも名誉の為に言わせてもらうが!
悪魔の名誉の為に言わせてもらうが!
舐めてはない!
いや間違えた、その時僕に何の下心もなかった!
だってそうじゃないか?いきなり何も見えないところに放り込まれて口元に温かいものが押し付けられて。
薄ぼんやり見えた肌色があれこれ肌じゃね?とか白いのがうっすら見えた時その形からあれこれパンツじゃね、とか思ったけれど。
状況確認の前にその天才的な頭脳を回してなんか若そうな女の子だというところにたどり着いていたけれど。
若い女、スカートの中、多分召喚されたっぽい、口元にパンツ──なんか暗いって思った瞬間にはそこまでしかたどり着いていなかった。
まだ僕はその一瞬ではそこまでしかたどり着いてなかったのだ!
ならばその程度の認識で口元の温かみ(推定女の子のパンツ)の正体を確認する前に食感、じゃなかった触感を確かめる。
そこになんの下心が存在すると言うのだろうか?
僕は確信犯ではない!
故意犯だ!
なんの弁解にもならないことを今更させてもらうが、と言うか傷口広げてる気しかしないが。
まあとりあえず僕はその謎の物体(パから始まりツで終わる三文字の女性用下着)を確かめた。
まあ唇の触覚が優れていると言うのは多分一般的だし即時確認しなければ忽ち窮地に陥ってしまう可能性だってなくはないのだ。
命のやり取りが日常茶飯事どころか三度の飯より多い環境に身を置いている、ちょっと油断したから死んじゃいましたなんて珍しくも面白くもない話である。
平和ボケした感覚で白い目で見ないでほしい、これがこっちの現実だ。
辛い現実からも目を背けないでほしい。
はむっ、はむっと。
唇で挟むように噛むことを表す言葉が何かあったと思うが忘れてしまったので唇で啄ばむと言っておくが。
歯も舌も出さず唇で何度も確かめる。
まあつまらないことを言ってしまえばそれは大して感動的な未知の体験ってわけではなかった、だって詰まる所ただの薄めの布だぜ?
確かに特異性、特別だと言うことに否定の余地は無いが、要するに触感としては布だとしか言いようがなかった。
確かめて見たけりゃその辺の布唇で啄ばんでみるといい。
しかし僕が感動がなかった、と言ったのは触感のみに限っての話であり他の五感を駆使してもいいのなら話が違う。
もっとも視覚は遮られてられてるし味覚はさすがに人としての道を踏み外しそうだからやめておいたけど。
人の道を踏み外すと言う表現もおかしいが。
そこからは人の匂いがした。
甘い香りとか言うまるでチョコレートでも塗りたくってるのか、ってほどの態とらしい香りでもなければ酸っぱいような嫌な汗臭い匂いな訳でもない。
どちらかと言えば無臭に近い、けれど確かにあるようなまあ言い表すとするならば『女の子の匂い』がした。
これが女の子の匂いって奴なんだろう多分。
さらにそこには温度もあった、確かな温もりがあった。
確か温度も触覚に数えられたような気もするけど。
唇という過敏な触覚器官で受信したその刺激は、それは、僅かだが僕の体温よりも温かいような気がした。
実際は女の方が男よりも体温が高いんだったか低いんだったか忘れたが確かに人としての温かみがそこにあった。
触感自体は布と変わらないがそれらの要因が、有りとあらゆる要素が、
『女の子のパンツをスカー……よくわからない暗闇の中ではむはむしてる』という事実が、実感が。
僕に多大なる喜びを与えてくれた。
これが現実だ。
夢のようなリアルな感触だ。現実だ。
つまり一言で言えば、
良かった、とても。
本当に何言ってるんだろうかこいつ。