【01】始まりの話
始まりはキスだった。
ってのもあながち間違ってはいないけれど、まあそれなら多少は格好がついたというのに。
キスから始まる物語なんていかにもっぽいし。
ていうか始まりの定義ってどこ?って聞かれると
僕が生まれたところから?
もしくは転生したところから?
はたまた最終決戦始まってから?
むしろまだ始まってないの?
って話である。
僕の話なら生まれたところからするべきだと思うし物語としてのスタートなら転生した、もっと正確に言えば僕が死んだところからするべきだろう。
最終決戦の直前から始めても新規の読者には新キャラ多すぎて分かりづらいし俺たちの冒険はここからだ!ならもうそれは始まりじゃなく打ち切りだ。
もちろんこの中にキスから始まるものはないし──いや生まれた時に母親が額にキスしてくれたとかならまあなくはない話かもしれないけれど、少なくとも僕が覚えてる中にキスから始まる話はない。
それにキスから始まるって言ってもマウストゥーマウスって指定されてるなら口だけれど有無を言わさず追求の口を噤まなければならないけれど。
キス単体だけではそこまでの指定力は無いしどこにするかで意味合いも変わってくる。
マウストゥーマウスから始まる物語ならラブコメか純愛か、そんな要素が混じったファンタジーとかミステリーとかそんなのだ。
手の甲のキス始まる物語なら主君の為に忠義を尽くす騎士の英雄譚だろうし、幼少時のほっぺたのキスからならなんか青春とかスポーツとかいう言葉が似合いそうだ、足裏のキスから始まると……見たことないけどなんかマニアックそう。
閑話休題。
僕の物語がキスから始まったことが無いのは前述の通りだけれど僕の小話の一つがキスから始まったことはある。
転生した僕の話をするというのなら第一話ではなく三話目か四話目の話だ。
だがそれすら本当にキスから始まったのか?と言えば怪しいところだ。
例えば普通の高校生(※普通では無い)がドラッグに惹かれて死んで──おっと誤字った、現代っぽくはあるけど──トラックに轢かれて死んで異世界に転生して大暴れする話があるとしよう。
この物語は転生の話だと言えるだろうし始まりは転生したとこからとも言えるだろうが正確に言えば始まりはドラッグに惹かれたところだ。
ドラッグに惹かれて前後不覚に陥ったからトラックに轢かれたんだ。
始まりは転生じゃなくて死だ。
死こそが始まりなのだ!
やばそうなやつだ。
この方程式に当てはめれば転生に当たるイベント=キスは確かにあったけれど先にドラッグに当たるイベントもトラックに当たるイベントも発生してる。
でも得てして青少年の健全な成長のためにドラッグの話は伏せられてトラックに轢かれる話から始まるからそれらに倣って言うならば。
僕の話の始まりはパンツ(女性用)だった。
この話の先の方程式におけるトラックはパンツ(着用中)だった。
いや、よく思い返せばパンツに見る前にパンツにキスしてた気がするな。
じゃあやっぱり始まりはキスだった。
もっともスカートの中に顔突っ込んで女の子が履いてるパンツへのキスで始まる物語が何の話か僕は知らないけどな。
お色気ラブコメっぽい。