はじまり
世界はまだ一つだった━━━
世界が誕生したのはおよそ数千年前
まだ人類は存在しない、透き通る澄んだ空気が広がり木々は生い茂り動物達の楽園
それがいつしか
人が現れる様になった
人々は互いに助け合い子孫を残し少しずつその数を増やした
はじめは良かったのだ
人々が暮らし生きてくに従い文明が生まれ発展し、その土地をまとめる長が現れた
発展し過ぎた人類は、次第に派閥を作り対立する者達が出てきたのだ。その結果、美しく綺麗だった森は穢れ、動植物達は棲む場所を奪われていった
醜い争いは絶えることなく数百年続いたという
神はいつの日か人々が目を醒ましてくれることを願っていた
しかしそれも世界が黒く渦巻く影の多さに、絶望し哀れんだ
“私の愛した世界は消えた”
と━━━
“美しく綺麗だった世界を還して”
と━━━
光が影に、闇に呑まれないよう世界を二つに分けよう
二度と交わることのない世界に…
表の世界は影や闇が一切ない明るく平和な世界
裏の世界は光などの灯りがない暗く淀んだ世界へ
━━━変えよう
それからだ
世界が二つに分かれたのは
しかし、元は一つの世界
故に各世界に存在するのは表裏共に同一人物
片方の世界でどちらかが死すれば、残った片方の世界の人物も死が待ち構える
死ぬ間際、残された方は青白い炎に焼かれる運命
どうすることも出来ない運命に嘆き哀しむ
神の怒りに触れてしまったのだと…━━━
同一人物とは言え、行動や姿形は多少異なる
双子の様な存在は、運命共同体
人々は神に乞うのだ
“自分の片割れが死にませんようにと”
「神様が…世界を二つに?」
「私は世界が壊れていくのを見ていられませんでした」
とても悲しい世界━━━
二つに引き裂かれた世界は、悲しみで包まれていて
神様が愛した世界は何処にいってしまったの?
私の足元に広がる二つの世界
助けを求めているようにさえ思えてくる。
「神様、私はどうして世界に存在してないの?」
「貴女は唯一私が認めた娘。世界が一つだった時の生き残りです」
…━━━生き残り?
私が?
信じられない、神様は何の冗談言ってるのかしら。
それが本当なら私はもう数百年生きている事になる。
この世界での人の寿命は、60~70歳が平均。私は嫌と言う程、人の死に直面している。だから数百年生きるなんて出来るわけない。
「あり得ない…数百年生きてる?私はてっきり…」
「生きてる人ではないと?思ってましたか。そう思うのも無理ありませんね。世界が滅びて暫くして私は赤子の貴女を見つけ加護を与えて貴女が18歳になる日まで人に育てさせたのです」
「見つけたって、まさか…」
「えぇ、貴女は捨てられていた」
私は捨てられた子…
人に育てさせたってどういう意味?
「貴女は世界が二つに引き裂かれる間際、私がここに呼び寄せ引き裂かれた後、貴女を娘とし子供がいない夫婦に育てさせました。18歳になると同時に夫婦と貴女の記憶を削除しここへ連れてきたのです」
記憶を削除って…だから私には世界を見守ってきた記憶しかなかったと言うの。
一体私は誰━━━━?
「申し訳ないと思ってます。しかし貴女には世界を見守って貰わねばいけなかった」
「…どう、て…どうして私なの!?生き残り?…知らない、知らない!私の人生を返して!…かえ、してよ…」
突拍子もない事を言われ、私は実は世界が一つだった最後の生き残りだの記憶を削除しただの言われたって、意味が分からない。
世界が一つだったのはもう数百年前の事よ、神様の言ってた事が本当なら私はもう数百歳という年齢になる。
見た目は18歳なのにね。
足元が崩れる様にバランスを崩し暗い空間に私の啜り泣く声が響いた。
私が生きた18年には、きっと家族と呼べる人達との思い出や人としての時間があった筈なのに。
今私がいる場所は思い出は勿論、生きる為の喜びなんてないに等しい。
この空間はきっと特殊になっている。
神様から言われるまま今まで世界を見続けてきたけど、足元は世界の二つが並ぶように見え空間全体に星達が輝く。世界の二つの廻りには大小様々な9つの惑星。
勿論、暗闇の中で…
「貴女は、世界が崩壊しようとしているのに希望に満ちた笑顔溢れる娘でした。そんな姿に私は惹かれ希望を託しました」
「いみ、が…意味が分からないよッ!」
「貴女ならきっと世界を元の一つに出来ると、してくれる娘ではないかと」
「そんなの勝手すぎるッ、勝手に希望抱かれても…」
「…えぇ、分かってます。だから私は貴女に選ばせようと思います」
「えら、ぶ?」
「世界を一つにし世界の中で生きるか、ここで変わりない世界を見守るか」
世界で生きるか、生きないか
なんて残酷な選択なんだろう
一つにしなければ世界の中では生きられず、今まで通り見守れば誰とも関わらず死ぬことが許されない。
それなら私は…━━━━