鈴虫が歌う夜。
鈴虫が歌う夜、彼女は星を食べて過ごす。
それは無味無臭で
脆い枯葉みたいにパリパリと崩れる。
彼女はそんな食感が堪らなく好きらしい。
毒にはならないから誰もが放っておくけれど
丸くなった月をいっしょに食べようとしたときは
みんな慌てて止めたっけ。
丸い月とパリパリの星は食べ合わせで猛毒になるって事
今時赤子でも知ってるのに!って
長老が青い顔してこぼしてた。
彼女は恥ずかしそうにしながら
でもキラキラ笑ってた。
もうすぐ、鈴虫の歌も止んでしまう。
そしたら彼女は眠って過ごす。
何も食べないし、笑わない。
季節が一巡して戻ってくるまで彼女は眠る。
それは自然なことで、
いつものことなので誰もが放っておくけれど
僕は寂しいな。
でも無理に起こすと空が割れてしまうから
いつも僕は
次に鈴虫が歌うまで待ってることにするんだ。
ああ。
次の年は早く鈴虫が歌うといいな。
そして彼女が笑うといいな。
過去の文章を加筆修正して投稿。