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責務

箔炎は、累々と積まれている軍神達が、目覚める度に術で失神させるを繰り返して、疲れて来ていた。一人、何度失神させても数分後には起き上がって来る軍神が居て、それに手こずっていたのだ。大概面倒だと思っていたら、またその軍神が朦朧とした様子で起き上がり始めた。必死に手足を動かして、起き上がろうとしている。箔炎は、呆れてその前へと舞い降りた。

「もう諦めよ。しばらく寝ておるが良いわ。どうせ沙汰が下る時には、目覚めさせられるのであるからの。」

箔炎がそう言って手を上げると、その軍神はまだよく見えない目を上げて言った。

「王は…我が王は…我は、王のお供をすると申し上げたのだ。王の御元へ行かねばならぬ。」

箔炎は、その顔を覗き込んだ。

「李俊か。」そして、ため息をついた。「主の忠義は知らせてやろうぞ。だが、鵬明の命のことに関しては、我にはどうにも出来ぬ。維心が決めることであろうからの。今、維心に捕らえられて緑青の宮から戻った所のようぞ。」

李俊は、どうにかして箔炎を見ようと必死に顔を上げた。

「では…王は、まだご無事か。」

箔炎は、頷いた。

「今はの。だが、風前の灯火よな。ここへ戻ったということは、沙汰を下そうとしておるのだろうし。」

李俊は、必死に訴えた。

「どうか、箔炎様。我を王の御元へ。王が沙汰を受けられるというのなら、我も一緒に。それが許されぬのなら、せめてそこへお連れくださいませ。動けぬように、縛り付けてくださっても良い。どうか、王の御元へ。」

箔炎は、あまりに必死に訴える李俊に、心を動かされた。どうせ殺すのなら、望み通り王と共にが良いのかも知れぬ。それぐらい、聞いてやるべきなのでは…。

そう思っていたところへ、嘉韻が降りて来た。

「箔炎様!」

箔炎が見上げると、嘉韻が地上へ降り立った。

「維心様と炎嘉様、鵬明様と緑青様を連れてお戻りになりましてございます。ここは我ら軍神が致しまするので、箔炎様はあちらへ。」

箔炎は、やっと解放されるとホッとして浮き上がった。すると、李俊が叫んだ。

「箔炎様!どうか我もお連れください!」

嘉韻が、ためらったような表情で箔炎を見上げた。箔炎は、しばらく考えていたようだったが、手を上げた。

「…では、主も来れば良いわ。」

箔炎は、気で李俊をぐるぐると縛りつけると、持ち上げた。

「あ、ありがとうございまする!」

李俊が言うのに、箔炎は苦笑した。

「根負けしたのよ。あれだけ寝ておれというておるのに、幾度も目覚めおってからに。」

そうして、箔炎は李俊を引きずるようにして月の宮へと飛んで行ったのだった。


月の宮の王の居間へと入って行くと、嘉韻が言ったように、維心と炎嘉、それに緑青と気で縛られたままの鵬明が居た。蒼は、正面の自分の椅子に座っていて、十六夜は窓際の椅子に一人、座っている。箔炎が入って来たのを気取って、皆がこちらを見たが、その箔炎が李俊を連れているのを見て、皆一様に驚いた顔をした。しかし当の李俊は、縛られたままでも、鵬明の顔を見て嬉しそうに顔を輝かせた。

「王!」

鵬明は、その声に顔を上げた。

「李俊!主…無事であったか。」

李俊は、頷いた。

「最後までお供をと、こうして箔炎様に無理を申して連れて来て頂きました。」

箔炎は、苦笑して頷いた。

「何度眠らせても数分で起き上がって来ようと暴れおってからに。根負けよ。これほど忠義に厚いと羨ましいのを通り越して暑苦しいよの。」

箔炎に気で縛りつけられたままだったが、李俊はホッとしたように鵬明の後ろに膝をついた。箔炎は、空いている椅子に座った。

「で?沙汰はこれからか。」

蒼は頷いた。

「はい。先に箔炎様、龍の宮の将維から書状が来まして、事が終わったらご確認頂きたいことがあるので、龍の宮へお立ち寄り頂きたいとのこと。知らせて参りましてございます。」

箔炎は、眉を上げた。

「確認とな?何のことであろうの。ま、分かった。帰りに寄ろうぞ。」

十六夜が、維心を見た。

「維心。それで、お前はもう決めてるんだろ?どうするんだ。」

維心は、十六夜に頷き、皆の顔を代わる代わる見ながら言った。

「我としては、一族を滅するには忍びないと思うておる。なので、此度のことは王の命ひとつで事足りるのではないかとの。」

炎嘉も、横で頷いた。

「それは、我もそのように。宮には皇子が居ろう。此度の戦に連れてこなんだのは、そういう意図ではないのか、鵬明よ。」

鵬明は、下を向いた。皇子には、何も知らせずに育てた。このような怨嗟、自分の代で終わりにしたいと…。

「…あれは、何も知らぬ。恨むというのは、想像以上に苦しいことぞ。なので、あれにまでこれを背負わせたくなった。我の代で、これは終わりにしたい。」

炎嘉は、頷いた。

「良い判断ぞ。主にしては、父親に事実ではないことで焚き付けられて、それゆえの怨嗟であったからの。それを知らずにここまで生きて、それはそれで哀れなことと我らも思うが、事が事ぞ。公青の時は、犠牲が出なかった。しかし、此度は1000人近くが亡うなった…皆、主の宮の軍神ではあるが。」

鵬明は、頷いた。維心は、更に言った。

「そのうえ、これまでの事ぞ。主、己の配下の下位の宮の王に命じて、我にちょっかいを掛けておったの。それで、何名の軍神が滅しられたことか。それなりの責は負わねばならぬ。神世が納得せぬのでな。」

鵬明は、また頷いた。どちらにしても、もう生きておっても何をして生きて行けばいいのかも分からない。今まで、恨みを晴らすことばかりを考えていたのだ。それが無くなって、生きていても仕方がない。

「元より、己の信じておったことが偽りであったと知った時から、我は生きる目的も無うなった。先ほど気付いたが、龍王が前世死んだと聞いた後、我はこれで恨みも晴らせなくなったと無気力になっておったのだ。それなのに、また転生しておると聞いた途端、身に力が湧きあがって来るようでの。生きていると実感したものよ。つまりは、我の生とはそんなもの。つまらぬことであろうが、生きている意味を恨みを晴らすことに見出しておったのだろうの。何もかも無くなった今、我は己の生にすがろうとは思えぬ。」

それを聞いた十六夜が、維心を見て言った。

「何を勘違いしてたって言うんだ?こいつは、序列を下げられてがっくり来て死んだ祖父の恨みを晴らすつもりで居たって聞いたぞ。違うのか。」

それには、炎嘉が答えた。

「いや、まあいろいろでの。その当時、鵬明の父の鵬利もまだ、幼かった。鵬明など、まだ生まれても居なかった。祖父の鵬来がどう思っていたのかなど、鵬明は聞くことも出来ずでな。それに、鵬来は恥じておったゆえ、宮では決してその事には触れなかったのだと聞いている。鵬明どころか鵬利すら、ことの真実など知らなかったのだ。鵬利なりに考えて、父のことを思うて恨んでおったのであろうが、それを鵬明は信じて引き継いでしもうたのだ。恨む筋ではなかったにも関わらずの。ちなみに鵬来は、あれから100年は生きたぞ。病がちではあったが。」

十六夜は、驚いた。箔炎も、驚いたようだった。

「なんぞ、そうであったか。我は、軍神達が持ち帰る情報しか知らなんだゆえ、噂話しか聞いておらなんだ。確かに、維心がたかが侍女一人を殺されたぐらいで激怒するというのも今から考えてもおかしなことよな。」

炎嘉は、頷いた。

「そうなのだ。そう見せねばと思うたが、厳罰に処すのもということで、序列を下げたまで。鵬来は、序列を剥奪せよとまで言うたのだぞ?他の王に会うのが苦痛であるから。しかしそこまでするほどでもないであろうが。あの大きな宮の、多数の臣下達はどうなるのだ。それから日が当たらなくなるのだからの。我らはそれを考えて、鵬来の望みは受けなかった。それだけぞ。維心など、転生のごたごたであの事件を思い出すまでしばらく掛かったほどであるからな。まさか、そんなことで恨まれておるとは。」

維心は、ため息をついた。

「もう良い。もう済んだこと。これからこれに煩わされずに済むと思うたら、此度の苦労も少しは意味があると思えようというものよ。」と、鵬明を見た。「覚悟は良いか。」

李俊が、後ろで身を硬くした。それを見た箔炎が、面倒そうだが気遣わしげに言った。

「ああ、李俊が一緒にやって欲しいと言うておったぞ。それぐらいは、聞いてやっても良いのではないか。」

維心は、ちらと李俊を見た。李俊は、慌てて頭を下げた。どうか、共に。

それを見た維心は、ため息をついた。

「そうか、一緒にの。まあ良い、そこへ並ぶが良い。」

十六夜も、蒼も身をこわばらせた。緑青も、鵬明の横で思わず構える。どうしても、殺さなくてはならないのか。

「…その、維心。」十六夜が、口を開いた。「どうしても、殺すって選択肢しかないか。」

炎嘉が、あからさまに嫌な顔をした。

「何ぞ、またか。あのな、神世はこうして成って来たのだ。何でもかんでも助けておったら、今頃あっちでもこっちでも謀反が起こって大変であるわ。太平を保つのが、どれほど大変なのか主には分からぬであろうが。そもそも、公青の件があってから、こやつも活発に動くようになったのだからの。また他の神を付け上がらせないためにも、ここは処刑しておかねばならぬ。黄泉は良い所であろうが。主は知っておろう。」

確かに知っている。だが、十六夜は言った。

「それでも、こいつの生きた道ってのが恨みだけってのが哀れだと思わねぇか。少しは、いい人生だったって思えることがあってもいいんじゃねぇか。」

鵬明が、言った。

「我は、特別不幸でもなかったぞ。まあまあ妃は居るし、友も居った。」

それでも、十六夜は言った。

「だがな、鵬明。お前が生まれた意味はなんだ?」

それを聞いた炎嘉と維心は、目を丸くした。意味だって?

それは、鵬明も同じだった。生まれた意味?

「そんなもの…我には分からぬ。王として、君臨することではないのか。」

十六夜は、首を振った。

「そんなことなら世の王は、王座に就いた時点で寿命が来て死ぬっての。そうじゃなくて、お前は何を成すために生まれたのかってことさ。お前の責務は何だ?」

鵬明は、戸惑ったように隣の緑青を見た。緑青も、同じように困ったような表情で鵬明を見返して来る。

「十六夜」緑青が言った。「我だって、己の責務など知らぬ。皆、知らぬのではないのか。」

十六夜は、頷いた。

「ああ、そうだろうな。だが、こうやって不自然な状態で死んで逝く神ってのは、二通りあるんだよ。オレには神の寿命が見えるが、同じ処刑されるのでも、戦場で死ぬのでも、それがそいつの寿命のヤツも居れば、まだ寿命が残ってるのに殺されちまうヤツも居る。鵬明は、まだ寿命があるんでぇ。つまりは、責務が果たされてないってことじゃねぇか?維心が殺したら、鵬明は寿命じゃねぇのに死んじまうことになる。それって、どういうことになるんだろうな?」

維心は、気を放とうと上げていた手を下ろした。十六夜の言うことには、なぜか真実味がある。それに、考えさせられる。確かに、そうだ。その責務は、どこへ行くのだろう。

「我が子のわりには、良い所に気付いたもの。」急に、パッと皆の目の前に浮いて現われたそれは、言った。「その責務はどうなるのか。殺したヤツが負うに決まっておろうが。」

皆が、突然のことだったので仰天して見上げる。

「親父!」十六夜が、先に我に返って叫ぶ。「びっくりするだろうが!戸から入って来い!」

碧黎は、肩をすくめた。

「じっと聞いておったが、疑問には答えてやらねばと思うての。」と、少し笑っているような、興味深そうな表情で維心をじっと見た。「主が負うのよ、維心。前世、嫌ほど背負ったよの。殺せば殺すほど、大きく重く多くなる責務を、ただ黙々とこなしておったわ。また、それも主の責務のためであったし、主はなかなかに死ねなかったよの。忘れたとは言わせぬぞ。」

炎嘉は、絶句して維心を見た。

維心は、黙って碧黎を見返した。

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