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解放と

維心と炎嘉は、鶴の宮地下の、牢へと降りて行った。

そこには、鵬明が張った結界があった。鵬明は、今は上から三つ目の序列の宮の王とは言っても、元は 二つ目の序列の王の血筋。緑青と鵬明では、やはり鵬明の方が遥かに気が大きく強いのだ。その気になれば、緑青を篭める結界を張ることなど、雑作もないことなのだ。

しかし、維心はスッと手を上げると、事も無げにその結界を解いた。炎嘉が、階段を降り切ってから先に立って地下牢を覗き込んで言った。

「緑青?居るか。」

地下の奥から、緑青の声がした。

「炎嘉殿か?」

結界が無くなったので、もはや地下には神を拘束するようなものはない。緑青は、奥から軍神達を背後に、歩いてそろそろと出て来た。もしや、誰かが様子を見に降りて来たのではないか、と思ったようだ。

「維心も居るぞ。」炎嘉は言って、緑青に歩み寄った。「助けに参った。そうか、主らはここへ篭められて、宮を利用されたのだな。」

しかし、緑青は首を振った。

「その実、鵬明はそのように見えるようにと思うたからこそ、我をこのような場所へと篭めたのだ。我には分かる…あれは、我を巻き込むことを、土壇場でためらったのだろう。」

維心が、炎嘉の後ろからゆっくりと歩いて合流した。

「よう分かっておるではないか。そうであろうの、あれらは死ぬつもりで居たようだったからの。もう、我から逃れられぬと思うたのだろう。」

緑青は、驚いたように足を踏み出した。

「殺してしもうたのか?!鵬明は、もう…、」

炎嘉が、首を振った。

「いや、殺すのは簡単ぞ。あれはまだ生きておる。ここの治癒の間に維心の気で縛られておるから、まずは逃げられぬ。少し話して参ったが…ま、あれも気の毒よ。しかし、責任はある。」

維心は、頷いて踵を返した。

「そう、さっさと始末をつけようぞ。緑青、主の臣下は無事であろう?そちらは主が何とかせよ。我らは上へ戻る。まだ魔方陣が解けておらぬしな。さっさと命じて、主も来るがよい。」

維心は、そのまま答えも待たずに来た道を引き返して行った。炎嘉は、息をついて緑青を振り返った。

「あれはいつなりああして他に興味などないからの。とにかくは、臣下のことは主が収めて、のち治癒の間へ来い。我らは、上に居る。」

炎嘉は、そう言い置くと、階段を上がって行った。緑青の横で、軍神筆頭の(かつ)が膝を付いた。

「王、では我らは宮の片付けを。」

緑青は、頷いた。

「ここは人数が少ないゆえな。すぐに終わるであろう。我は…鵬明がなぜにあのようなことをしたのか、理由を知ったゆえ放っておけぬ。何かあってはならぬから、治癒の間にはまだ誰も近付かぬようにせよ。我の結界は張り直しておくが、月の結界が戻るまでは女子供を一箇所に集めて主らが守っておけ。中央の大広間が良い。そこで待機せよ。」

克は、頭を下げた。

「は!」

それを見届けた後、緑青は急いで階上の治癒の間へと向かった。


維心が一足先に治癒の間に戻ると、鵬明はまだ放心状態でじっと柱に縛り付けられていた。上を見ると、嘉韻が誰か黒髪の、軍神らしくない男を連れて魔方陣の前に浮いていた。維心が入って来たのを気取った二人は、こちらを振り返った。

「王!」と、嘉韻ではない方の男が維心の前に下りて来て膝をついた。「お久しぶりでございます。玲でございます。」

維心は、驚いてその男を見た。髪にはちらほらと白いものが混じり、中年から初老の辺りに差し掛かっているので気付かなかったが、若い頃の姿は知っていた。これは、龍族だ。

「玲か。前世の記憶より、姿が変わっておるからわからなんだ。」

玲は、苦笑して顔を上げた。

「は、我は普通の神でございまするので。嘉韻や明人、慎吾に比べるとこうして老いが緩やかに参るのでございます。あれらは、止まっておるようでございまするが。」

維心は、頷いた。

「しかし、軍神でもない主がなぜにここへ?仙術に詳しいのは、主か。」

玲は頷いた。

「はい。我は研究などを得意としておりまするので、ずっと仙術を調べておりました。今では大抵の仙術ならば解き方が分かりましてございます。」と、上の魔方陣を指した。「あれは、月の結界を破壊する魔方陣で、再構成するのを妨げておりまする。十六夜は力を失ったわけではありませんで、新しく結界を構成することが出来ずにいるだけなのです。強力なものではありませんので、解くのは難しくありませぬ。しかし、お戻りになるのを待っておりました。」

維心は、また頷いて上に浮いたままの嘉韻を見上げた。

「では、それを解け。緑青も無事であったし、それを始末すればもうここには用はない。」

嘉韻は、小さく頭を下げた。その時、炎嘉が入って来て嘉韻を見上げた。

「嘉韻?消せるのか。」

嘉韻は、炎嘉を見て頷いた。

「は。玲がこれならば簡単に解けると申しましたので。」

炎嘉は、満足げに頷いた。

「ならばさっさと解くとしようぞ。まだ面倒が残っておるのだ、少しでも数を減らして行かんとの。」

嘉韻は、頭を下げた。

「は!」

そして、手を上げた。そして、その手から炎を出し、焼き始めた。それを見上げながら、維心はフッと小さく息をついた。炎嘉が、それを見て言った。

「どうした?主らしゅうないの。」

維心は、ちらと炎嘉を見て言った。

「あれはあからさまなのだ。主のことは敬っておるようであるのにな。」

炎嘉は、驚いたような顔をしたが、ふふんと笑った。

「元は鳥の宮に居た龍であるからの、嘉韻は。あれの父の嘉楠はまだ老いが来ず、我に仕えておる。我に対して敬う気持ちがあるのは当然のことであろうぞ。同じ恋敵であってもな。」

維心は、横を向いた。

「昔の我ならば許さなかった振るまいぞ。だが、そのようなことで罰したりしたら、維月が何を言うか分からぬしの。苛々はするが、まあ良いわ。」

炎嘉と維心が話している間にも、嘉韻は何やら炎で焼きながら紙を出して呪を唱えた。そうして最後に、それを左右の魔方陣に向けて投げ、それが魔方陣を焼く炎に触れた途端、カッと光り輝いて、そうしてすーっと消えて行った。

「ほんに、簡単だと聞いたがそのようぞ。」

すると、玲が維心を見上げて頷いた。

「はい。やり方と手順さえ知っておれば、仙術は簡単に解けるのでございます。」

炎嘉が、そこで玲に気付いて微笑みかけた。

「おお玲。主、最近は研究室にこもりきりだとかで、顔を見ておらなんだの。壮健か?」

玲は、炎嘉に微笑み返した。

「はい、炎嘉様。炎嘉様にも、最近ではお忙しいご様子で、ついぞお顔を見ることがありませんでした。」

炎嘉は、苦笑して視線を上へ向けた。

「王にされてしもうてから、気軽に外出というわけには行かぬようになってしもうたからの。」と、降りて来た嘉韻を見て、頷き掛けた。「嘉韻。これで解けたの?」

嘉韻は、炎嘉に頭を下げた。

「は。もう月の結界を張れる状態に戻ったはずでございます。」

炎嘉は、維心を見た。

「維心よ、月の宮へ戻るか。鵬明のやつの沙汰も考えねばならぬしな。箔炎が苛々しながら待っておるだろうよ。」

それには、嘉韻が答えた。

「は、箔炎様には、広範囲に軍神達が散らばっていて見張るのが面倒だとおっしゃって、皆をまとめてコロシアムへと運ぶように命じられ、そこへ積み上げておりました。我が宮の軍神達が拾い集めて亡骸は袋に入れて回収しておるところ。とにかくは、生きて気を失っておる者を、コロシアムにまとめて篭めておる状態でございます。」

維心は、側で呆然としている鵬明を柱から放して、単独で縛ったまま気で持ち上げた。

「あやつはほんに何もせぬヤツよな。ちょっと見ておれと言っただけではないか。まあよい、戻ろうぞ。」

炎嘉が頷こうとすると、そこへ緑青が駆け込んで来た。

「維心殿!鵬明を、どこへ連れて行かれるおつもりか!」

維心は、ちらと振り返った。

「月の宮。ここで主の宮を荒らす訳には行くまい?事は大きくなっておるからの。二万の兵が居るのだぞ。」

鵬明は、緑青の声にハッと我に返って振り返った。

「…緑青。」

緑青は浮き上がって、維心の気で宙吊りになっている鵬明に飛びついた。

「鵬明!主は、何も悪くはない!ただの被害者であるのに!」

鵬明は、それを聞いて、見る見る目を潤ませた。

「このようなことをした我を…主は、庇うのか。」

緑青は、同じように涙を堪えながら言った。

「我らは友ではないか。主を止めることが出来なんだのは我の力の無さのせい。幼い頃からどこか影があったのは知っておったのに…もっときちんと話しておりさえすれば。」

維心は、それを見て面倒そうにした。これはまた、沙汰に困るパターンぞ。

「とにかくは月の宮へ行く。気になるのなら主も来ればよいわ。」

維心は、さっさと飛び上がった。維心に引きずられて浮き上がった鵬明に、緑青もついて飛んで行く。炎嘉も慌ててそれについて飛び上がった。そして、嘉韻と玲に言った。

「主らも、蒼の元へ戻るのだ。2万の軍神を気を失っておるとはいえ捕らえておるのだから、軍神達も慌しくしていようぞ。」

嘉韻と玲は顔を見合わせてから、一緒に飛び上がった。

そうして、月の宮へと向かって行ったのだった。

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