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鷹の宮では、箔炎のそんな様子も全く知らず、新しい王の箔翔のもと、政務は進んでいた。

今日は、初めて迎える事になった妃の宮の臣下達が来て、玖伊と璧は忙しくしていた。そこそこに大きい会合の間に向かい合って座り、相手の宮の挨拶を受けていた。

「この度は我が王、公青様の妹君、結蘭様と、箔翔様のご婚姻、誠に喜ばしきことと、我ら臣下一同謹んでお喜び申し上げ上げまする。」

玖伊が、頷いた。

「我らも西の地を統治する王、公青様と縁が結ばれるこのお話に、大変喜ばしく思っておりまする。ご挨拶の品と、公青様からのご挨拶の書状は、王にもお渡ししておりまする。お返事は、後ほどお渡し致しまするので、とにかくは日取りなどを詰めて参りたいと思うて、こちらへお運び頂きました次第。まずはそちらのご希望をお伺いしたいのですが。」

相良が、顔を上げた。そして、他の臣下達が固唾を飲む中、どうあっても誰より早く、という公青の命を思い出し、力を入れて言った。

「こちらでは、準備は整い、いつなりとお輿入れ出来る状態でございまする。他の妃の方々より、早く入れる日にちで調節していただきますればと。」

玖伊は、両眉を上げた。そして、隣の璧を見る。璧も、驚いたようだった。

それを見た相良は、性急過ぎたかと思ったが、こちらの意気込みは伝わったはず。とにかくは、誰より早く!なのだ。

しかし、玖伊は言った。

「そのように急がずとも、まだ他の方が宮へ入るご予定はありませぬので、公青様の良い日でと思うのでございまするが。」

玖伊は、焦った。それは、まだ皆着物やら調度やらの準備が追い付かぬからだろう。しかし、こちらは何しろ力がある宮。そんなものはすぐに準備出来る。

「王は、結蘭様をそれは大切に思われており、どうせなら誰よりも早くとご希望でありまして。後で他の方が先の日取りになることを、懸念しておられるのでございます。」

玖伊は、首を振った。

「いやそうではなくて、確かに王にはたくさんの婚姻の打診が参っておりまするが、お受けになられたのは結蘭様お一人なのでございます。後はまた、いずれご縁がありましたらということで、ご辞退されておられます。なので、お急ぎになることはないかと。」

相良も他の臣下達も、それを聞いて仰天した…つまりは、数ある縁談の中から、我が宮だけが選ばれたということなのか!

確かに、結蘭は大変に美しく、玖伊とて他にあれほどの姫を見たことはないほどだ。しかし、絵姿すらない状態で、選出されたことに驚いたのだ…しかも、こんなに早く。

「箔翔様が、そのように?」

玖伊は、頷いた。

「我らも驚くほど迅速に。」

相良は、まだ信じられなかったが、しかし頷いた。

「その…ならば我らは、申し上げることはございませぬ。こちらの良いようにお決め頂ければ。」

玖伊は頷いて、手元の書を見た。

「では、日取りはこちらで。結納の品は、まだ正妃と決められておるわけではないので、形ばかりとなりまするが、ひと月以内にご準備を。その後のお輿入れとなりなするので、おってご連絡を…」

玖伊は、まだ話していたが、相良はまだ驚いたままだった。これはどう判断すればいいのだろう。公青様のお力だろうか。しかし、まだ話も満足にしていないとおっしゃっていたのに。確かに王は力がおありになるが、こちらでは、新参者扱いなので序列も決められていない。それを、なぜに鷹王が。

相良達の戸惑いなど気付かぬように、玖伊は話を進めて行ったのだった。


その他いろいろと、全て鷹の宮主導で決めて戻って来た相良は、公青に報告するために居間へと向かった。公青は、居間でまた隼と話をしていた。

相良が入って来たことを知った隼が、そちらを向くと、公青は視線をこちらへ向けた。

「相良。戻ったか。」

相良は、頭を下げた。

「はい、王よ。」

公青は、頷いた。

「良い、先に話せ。」

隼が、黙って公青の横で膝を付いてこちらを見ている。相良は、頷いて答えた。

「はい。鷹の宮の方では、滞りなく結蘭様を迎えるご準備を進められており、もう賜るお部屋のお話まで決まっておりました。奥宮でも南に面した、王のお部屋とも遠くはない位置でございまして、良い待遇かと思われまする。」

公青は、満足げに頷いた。

「そうか。ならば他の妃に結蘭が気圧されることもないの。我も、輿入れ後に何度か行って、他の妃に対して牽制せねばならぬかと考えておったところであったが。」

相良は、顔を上げた。その戸惑うような様子に、公青は驚いた。

「何ぞ?」

相良は、言った。

「それが王、あちらへ入るのは、結蘭様ただお一人だということでございまして。」

公青は、一瞬意味が分からなかった。しかし、その言葉の意味がわかって、目を見開いた。

「…何と申した?!たった一人と?」

隼も、横で驚いた顔をしている。相良は、頷いた。

「はい、王。確かにたくさんの縁談があったようでございましたが、皆断ったそうでございます。箔翔様が、その中から結蘭様を選ばれて、それでこちらには承諾のお返事が来た次第で。」

公青は、眉を寄せて隼を見た。隼は、公青を見上げた。

「やはりこちらと、他の宮が縁付くことを嫌ってのことでございましょうか。」

公青は、頷いた。

「そうやもの。」

相良が、何のことか分からずに居ると、公青は言った。

「隼が、最近よう我に報告に参っておるであろうが。我は、あちらへ行っても何やら龍王達とは違う、叛意のあるような気を気取っておってな。気になるゆえ、調べさせておったのだ。龍王は表立っては出て来ぬが、しかし水面下でその輩と攻防があるようでの…最近、少し不穏な状況になっておったのだ。」

相良は、驚いて公青を見上げた。

「では、鷹王は王が、その輩と結ぶのを懸念してこちらと先に結ぼうと?」

公青は、頷いた。

「恐らくはの。鷹は龍寄りであるから。しかしあちらで最も高い序列に入っておるのも事実。志心殿の白虎と並んで、鷹の力は強い。結蘭がこれから先も安らかに暮らして参るには、これほど良い縁はないであろう。しかも、一番最初の妃ぞ。正妃になる可能性もある。それに、そういう理由であれば、結蘭が無下に扱われることもなかろうぞ。我はこれよりのことはないと思うておる。」

隼は、頷いた。相良も、そういう理由があったのかと、少しホッとした。なぜ結蘭だけがと、ずっと思っていたからだ。

「ならば、お輿入れのご準備を進めて参りまする。御前、失礼を。」

相良が出て行くのを見送ってから、公青は横に控える隼に言った。

「…我の立場、決まったの。やはり我は、世に準じる方向へ行く。民や結蘭のことを考えても、龍王に逆らうのは得策ではない。ならば、まだ序列のつかぬ今、少しでも上の序列を狙い世を平定することに力を貸し、世に対する発言力を付けた方が余程利口よ。」

隼は、頭を下げた。

「は。では、我らもそのように心積もりを。」

公青は、満足げに頷いた。

「やっと方向が定まったの。」

公青は、空を見上げた。月には敵わない。あの慈愛の月と呼ばれる一族は、神には考えられない考え方をする。蒼の穏やかさは、見せ掛けではなかった。自分は事を急がせ過ぎたのかもしれない…もっと知ってから神世に関わって行っていたのなら、今の自分なら戦を仕掛けようなどとは考えなかっただろうに。

公青は、西の大きな島を統治するその宮で、やはり変わらず見える月に思いを馳せていた。

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