表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/103

維心と維月が居間へと出て行くと、維明と義心、それに今にも倒れそうなほど青い顔をした帝羽が頭を下げた。維心はそれを見て眉を上げたが、戸惑っている維月の手を引いて正面の椅子に座った。

「ご苦労だった。して、帝羽は胸をひと突きにされたようだが?」

帝羽は、驚いて顔を上げた。もう、傷はここの治癒の龍に一瞬のうちに手当てされて消えていた。桐は甲冑の隙間から巧みに突いたため、甲冑に損傷もない。義心が、それには答えた。

「はい。桐という軍神が、帝羽が死んだことにしようとわざと急所を外してひと突きにし、その時に気を流し込んで止血しておりました。なので命に別状はありませなんだが、今治癒の龍に手当てさせて参った次第です。」

維心は、頷いた。

「手練れであったようよな。瞬時にそこを突ける軍神はそれほど居らぬ。して、わかったか。」

義心は、頷いた。

「椎葉様でありました。」

維心は、眉を寄せた。

「始末したか。」

義心は、また頷いた。

「はい。そこに来ていた軍神は全て始末し、放置して参りました。」

維心は、軽く頷いた。

「ならばしくじったのが、なぜだが分からぬの。主が来ておったこと、誰も報告に戻れなかった。帝羽が全て滅して、仲間の軍神と消えたと考えるだろう。」と、帝羽を見た。「主の仲間は?」

帝羽は、まだ青い顔で顔を上げずに答えた。

「は…長であった桐という軍神は、自ら命を絶ちました。そうして、我に己の記憶の玉を取れと申し、ここに。」

維心は、また眉を上げて、帝羽が差し出す記憶の玉を見た。こやつは、これを取れるのか。

しばらく黙ってから、維心は手を上げ、その玉を気で自分の方へ引き寄せた。そして、手の上に浮かべると、言った。

「見るべきであろうの。おそらくこれには我の知りたかったことがあるであろう。」と、正面の壁を示した。「そこへ出す。見て居るが良い。」

維心は、何の動きもしなかったが、手の上の玉は光り輝き、そうしてそこから出た光は、正面の壁にまるで映写機のように、映像を映し出し始めた。



桐は、気がつくと回りは自分と同じような、孤児の集まりの、貧しい集落に居た。神は、何を食すこともなく、辺りの自然から気を吸収してさえいれば生きていけたので、飢餓に苦しむというようなことはなかったが、住んでいた辺りは治安が良くない、どの王の結界にも掛からない土地で、そこに居た男も女も、皆いつも何かに脅えて生きていた。

着物も満足に与えられない環境ではあったが、とにかくは寝るための小屋だけは与えられていた。なので、桐はいつも、同じ年頃の数十人と、重なり合うように狭い小屋で眠った。

気が少しでも強い男は、いつも守りに立っていた。桐も、まだ幼い頃から強い気を発していたので、何も教えられないまま、木の棒だけを持たされて守り立たされた。

時に、そこは略奪の神達の標的になった。何もない集落ではあるが、女は居たからだ。一緒に育った孤児の女達を守るため、桐は必死に戦っていた。満足に剣も与えられなかったが、桐にも失いたくないものがあった…一緒に育った皆は、生まれた時から独りきりらしい自分の、家族と言える仲間だったからだ。

そんなある日、集落は大規模な襲撃を受けた。桐はまだ50歳にも満たなかった。200歳で成人の神の世で、50歳はまだ10代にもならない歳だった。体は、人でいう10代半ばぐらいの大きさでしかなかった。

襲撃して来た軍神達は、大変な手練れの集団だった。男達は次々に殺され、老人も子供も殺された。若い娘達はひと括りにされ、残ったのは桐だけだった。

その集団の長らしき男が、最後まで棒切れ一つで生き残った桐を、珍しげに見てこう言った。

「おもしろい。主が我に従うと言うのなら、生きて行く術を教えてやろう。」

桐は、皆を殺したこんなヤツについて行くつもりなど、なかった。しかし、生き残っていた共に育った女がこう叫んだ。「あなたが死んだら、皆死んでしまう!生きて、あなただけでも皆のことを覚えていなくては!」

桐は、ハッとしてその女を見た。そうだ、こやつらを弔ってやらねば。

桐は、その長に頷いた。その後、桐はその賊の末席に座らされることになった。掴まった女達は、まとめて売られて行った…20人以上は居たのに、引き換えに酒樽三つが根城に持ち帰られた。桐は、何も出来なかった…だが、もう桐には何も残っていなかった。心に、何を感じることも無くなっていた。強くなければ、生きて行けない。もっと、いろいろなことを知って、そうして、誰の指図も受けずに生きることが、出来るようになるのだ。

そうして、200年もすれば、桐はそこの誰よりも強くなっていた。それまでに襲撃した集落は数知れなかった。皆、桐が居たような集落で、貧しい村だった。しかし、桐は命じられるまま、ひたすらに操り人形のように戦い続けた。全ては、力を蓄えるため。…だが、そこで桐のような境遇の子供を、拾うのは忘れなかった。

そうして、時が満ちたのを感じた桐は、ある日その賊の集団のうち、自分が拾って来た神以外の全てを殺した。そして、根城にしていた屋敷を離れて、初めて故郷へと戻った…200年前、襲撃されたままの荒れ果てた姿ではあったが、まだ形は残っていた。目に付く限りの残っていた骨を拾い集めて、桐は皆を弔った。このために生きて来た。しかしこれからは、自分が拾ったこの神達の、居場所を造るために生きて行く。

そして、北へと移り住み、近くにある小さな宮からの依頼を受けて、賊を退治する役を買って出た。治安維持のような綺麗な仕事だと、配下の者達の将来を考えての生き方だった。

しかし、そうして居られたのは、それから200年ほどだった。

宮からは、おかしな依頼が舞い込むようになった。近くの宮に、書状を持って行くという仕事。しかし、そんなことはそこの臣下がすればいいことだった。他に、どこかの誰かになりすましてどこかの催しについて行く、など、怪しい依頼が増え始めた。戸惑う仲間に、訳の分からない仕事はさせられないと、そんな依頼の時には必ず桐自らが出て行くことになった。

そうこうするうちに、桐は宮の側へと呼ばれた。何事かと思って一人で向かうと、そこにはいつも自分に用件を伝えに来る軍神と、全く違う軍神の二人が立っていた。

その、見たこともない軍神は、大変に良い設えの甲冑に身を包み、動きから洗練されて同じ神とは思えない軍神だった。おそらく、身分が高く育ちがいいのだろうと桐が頭を下げると、相手は言った。

「主が桐か。いつも聞いておるが、何事も抜け目のない仕事をするそうよな。主を見込んで、頼みがあるのだ。」

桐は、驚いて顔を上げた。こんな身分の高そうな軍神が、自分に頼み?

「…我に出来ることでありますれば。」

桐が答えると、相手は頷いた。

「出来る。」と、いつもの軍神の方を見た。「主はもう良い。下がれ。」

相手は、驚いたような顔をしたが、去って行った。そして、桐に頷き掛けるので、桐は仕方なく後について飛んだ。


しばらく飛ぶと、森の中へ出た。すーっと降りて行くのに桐も倣って付いて行くと、そこへ降り立ち、少し行った所にある、小さな屋敷を指した。

「あの屋敷には、女が一人、幼子が一人住んでおる。」

桐は、遠く気を読んだ。確かに、言われた通り龍のような女の気と、もう一つ、幼子というには強過ぎる気が居るのが分かる。その軍神は、頷いた。

「わかるであろう?その幼子は、皇子よ。どこの皇子などと詮索するでない。しかし、父に認められず、ここに居るのだ。恐らくは、父親はあれの存在を全く知らぬであろう。」

桐は、難しい顔をした。

「…事情があるのでございまするな。」

相手は、頷いた。

「そう。だが、そんなことは問題ではない。龍であって、皇子並の気を持っておるのが重要なのだ。龍でなければ意味はない。他の血が発現するようなら、不要と思うておる。」

桐は、何のことか分からなかった。龍であるのが、なんであるのだ。

「それで、それと我が何の関係があるのでございまするか?」

その軍神は、桐を鋭く見た。

「あの母親、もう長くは持たぬ。主は今からあれへ生活の物を届け、取り入るのだ。そして、いずれ孤児になった子を、我らが良しと言うまで面倒を見よ。殺してはならぬ…いずれ、必ず役に立つ時が来る。その時まで、側に置いて監視しながら育てるのだ。」

桐は、目を丸くした。我に子育てせよと申すか。

「…主の脇の女にでも頼んだ方が良いのではないのか。」

相手は、首を振った。

「冗談ではない。あれの存在を、時が来るまで誰にも漏らさず、それでいて殺さず育てねばならぬのだ。ある程度の礼儀や良識も教えておかねば、時が来た時に支障も出る。」

桐は、慌てて言った。

「それこそ無理なこと!我がきちんとした教育を受けておるとでも思うておるのか。」

しかし、相手は諦めなかった。

「ならば我が巻物を手配しようぞ。それを見て、あれを育てよ。受けねば、これを知る者として、今我は主を殺さねばならぬ。」

桐は、絶句した。これは、恐らくは大きなことに関わって来ることなのだ。自分には想像もつかない、大きな宮同士の何かがある…。

桐は、仕方なく頷いた。そうするしかなかったからだ。

「頼んだぞ。」

その軍神は、己の名も告げずに、去って行った。

桐は、その次の日から、着物などを持って、その屋敷を訪ねるようになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ