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裏側

蒼は、緑青と輝重の宮の、王の動きなどの報告を受けていた。

元々、蒼には全く興味のないことだったので、気もそぞろだった。それに気付いた筆頭重臣の翔馬が、書状から顔を上げて言った。

「王…こうして、毎日お二方共きちんとご報告を下さるのです。せめて、気を入れて聞いてくださらないことには。」

蒼は、軽く翔馬を睨んだ。

「元々、オレがそうしたいと思ったことじゃあないんだ。だいたい、そんなことをして何になるって言うんだよ。信頼関係が、崩れただけじゃないか。」

翔馬が、困ったように顔をしかめると、そこに十六夜が入って来て言った。

「おいおい蒼、いつまで拗ねてるんだよ。維心と炎嘉に仲間外れにされてるからってさ。」

蒼は、顔を赤くした。

「べ、別に仲間外れだなんて言ってないじゃないか!」

十六夜は、苦笑した。やっぱりそうか。

「あのなあ、今度のことは、いろんなことが絡んでるんでぇ。蒼、お前は神世に関わらないって判断を下して、公青に目に見える沙汰を下さなかった。それで、乱れた世が浮き彫りになって来た。その後始末をあの二人はさせられてるわけだ。黙って見てな。オレですら黙って見てるってのによ。こうして緑青と輝重を監視することで、何らかの手助けになるってんなら、それぐらいしてやってもいいんじゃないか?尻拭いを頼んでる側なんだからな、オレ達は。」

蒼は、横を向いた。分かっている。だからこそ、言う通りにしてるんじゃないか。

「もう分かったよ。十六夜だって、見えてて知ってることが多いんだろうが。オレには、全く教えてくれなくてさ。」

十六夜は、呆れたように言った。

「お前も月を使えばいいだろうが。見ようとしないのは、お前の方だ。親父なんて、月と地、両方で世の中を見てるんだぞ?そりゃあたくさん見えてるんだろうなあって思うよ。」

蒼は、ため息をついた。そうなのだ。月から見たらいいのは分かっているが、それが監視しているようで、それ自体が嫌なんだから仕方がない。相手が話してくれるまで、待つ方がよっぽど楽なのだ。

「わかったよ。オレは、待ってることにする。だが、緑青だって輝重だって、きっといい気持ちはしてないと思うんだよな。それでも、二人共ああやって、素直に知らせて来る。それに、最近はなんだか違和感を感じたりするんだよなあ…特に、緑青。どうしてだろう…。」

十六夜は、肩をすくめた。また、蒼お得意の勘というやつか。

「お前の勘か?良く当たるから、変なことは言わないでくれよ。」

蒼は、膨れっ面で十六夜を見た。

「好きで勘が働くんじゃないよ!もう、十六夜には言わないからな。」

十六夜は、慌てて蒼をなだめた。

「こら蒼、お前はまた拗ねるんだからよ。そんなところが維月そっくりだ。」

十六夜はそう言いながらも、なぜだが嬉しそうだ。蒼は、ため息をついて、そんな十六夜に背を向けていた。


地の宮では、箔炎が身が軽くなったと、その宮に住む(せい)という、碧黎が作ったと聞いてる人型の、立ち合いの指南をしてやっていた。聖は、大変に素直で気立ての良い神で、箔炎が教えたことを真面目に覚えて精進していた。なので、箔炎も退屈しなくて済むと喜んで、今日も聖の立ち合いの相手をしていた。陽華は、そんな箔炎の様子を、気が気でないように見ていた。何しろ、元気になったとは言っても手に死斑は出たままなのだ。つまりは、気を抜くとすぐに老いて、朽ちてしまう身なのだ。陽華は、じっと箔炎を見つめて、ひたすらに自分の気と碧黎の力を、箔炎へと流し込み続けていた。

すると、背後から聞き慣れた声が言った。

「勝手に我の力を使いおってからに。それほどまでに、あれを世に留めたいか?」

陽華は、慌てて振り返った。そこには、碧黎が、陽華の記憶より若い姿で立っていた。陽華は、どっと懐かしい感情が突き上げて来て涙ぐみそうになったが、ぐっと堪えて碧黎を見た。

「咎めるために来ましたの?」

碧黎は、陽華に歩み寄った。

「我の宮で何やら行なわれておるようであったからの。陽蘭…いや、今は陽華か。主、どうしたのだ。もはや、あれの寿命は切られておる。それでも、主はそれに抗うか?」

陽華は、頷いた。

「我にも、それぐらいのことが出来ようほどに。碧黎、あなたはただ、世の流れしか見ておりませぬ、しかし、我は神の生き方も見ておりまするもの。箔炎様のような生き方で、終わってしまって良いはずなどないではありませぬか。」

碧黎は、眉を上げた。

「陽華よ。ならばそんな境遇の神を皆、長生きさせるのか?いくら我が大地が作り出す命の気が多いとは言うて、そのようにたくさんの神の命を支えられるほどに多くはないぞ。ならば、生まれ来る命が無くなるように計らわねばならなくなる。世にある命の気というのは、循環しておるだろう。量は変わらぬのだ。あれが生きることによって、生まれることが出来ぬ命もまたあるということぞ。分かっておろう。」

陽華は、首を振った。

「分かっておっても、我には出来ませぬ!碧黎、我には力あるのですもの。力ない神の女なら、逝かせるしかないゆえ諦めもついたでしょう。ですが我には、力がある。留めずには置けぬのですわ!」

すると、箔炎の声が言った。

「…碧黎の言う通りよ、陽華。」陽華は、ハッとして振り返った。箔炎が、聖と共に刀を手に、いつの間にかこちらへ戻って来ていた。「我は長く生き過ぎた。我のために生まれて来ることが出来ぬ命など、あってはならぬ。」

陽華は、力なく箔炎を見た。

「箔炎様…。」

碧黎は、箔炎を見た。

「諦めがついたか、箔炎よ。」

箔炎は、頷いた。

「我は、よう抗った。陽華のお蔭で、このように若い姿を保つことが出来た。しかし、息子に無事代を譲ることが出来、こうして穏やかに暮らし始めて思った…我は、このように幸福に暮らすだけのことを、して来なかったのではないかとの。維心は前世、世を平定した。その褒美として、ああして維月を手にしておったのだと思うておる。しかし、我は逃げておっただけ…最後に、息子を世に送り出すという責務だけはこなせたがの。」

碧黎は、じっと箔炎を見ていたが、スッと手を上げた。陽華が、小さく悲鳴を上げた。

「やめて!何をするの?!」

咄嗟に、箔炎の前に飛び出して、碧黎から庇おうと抱きついた。碧黎は、ため息を付いた。

「100年、やろうぞ。」碧黎は、言った。「その間、責務を果たせ。」

箔炎は、驚いて自分の左手首を見た…死斑が、なくなっている。

「責務とて…我は王座を退いた。何をせよと申す。」

箔炎が戸惑っていると、碧黎はすっと浮き上がった。

「主には、責務が残っておったのだ。100年ぞ。その間、主の身は人のように穏やかに老いて来る。そうして、最後は老衰で旅立つことになろう。それ以上は、主は世に留まれぬ。先ほども言うたように、後がつかえておるのだ。」

陽華は、碧黎を見上げた。

「何をしたら良いの?!どんな責務が残っておったと言うのです?」

碧黎は、飛び立ちながら言った。

「何を言うておる。誰しも、己の責務など知らずに生きる。探すのだ。すぐ側に、それはあるからの。まずは、友の宮を訪ねて回るが良い。」

碧黎は、飛び立って行った。陽華と箔炎は、ただ呆然とそれを見送った…新しい、責務。それはいったい、何なのだ。100年で、果たせるようなものなのか…。


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