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判明

次の日の朝、維心は維月と共に炎嘉の居間へと訪ねた。炎嘉は、維心がすっきりと穏やかな表情をしているのを見て、驚いたような顔をした…確かに、昨日我は結界の中で維月が侍女から、あの事実を知らされたのを見たのに。だからこそ、維心は慌てて自分の客間へと戻って行ったのではなかったか。

「炎嘉。」維心が、炎嘉に薄っすらと微笑んだ。「維月は、我を信じてくれた。我らは、本日宮へ戻ろうと思う。」

炎嘉は、目を丸くしたまま維月を見た。維月は、炎嘉に微笑みかけた。

「炎嘉様、お庭に美しい花畑を作ってくださってありがとうございまする。とても美しい場で、華やかなところが炎嘉様を思わせると和みましたわ。あの…宮へ帰って、事態を見守ろうと思いまする。」

炎嘉は、維月の思いのほか落ち着いた様子に、偽りがないと見て取った。そうか…維月も、転生して成長しておるのだな。

「良かったことよ。しかし、帰る前に茶でも飲んで参れ。」と、側の侍女に頷き掛けた。「さあ、そこへ座るが良いぞ。」

維月は、維心を見た。維心は頷いて、二人で並んで炎嘉の前の椅子に座った。炎嘉は、二人を見てホッとしたような、しかし維月は自分の側に置きたいような、複雑な気持ちがした。それでも、やはり維心と維月が穏やかな顔をしているのが一番だと感じていた。

「しかし、根本的な解決にはなっておらぬ。誠、維心の子ではないのなら、誰がなぜにこのようなことをしたのかを判明させねばならぬ。しかし、本人は期待しておるだろうしの。利用されただけだとして、不憫であるように思うが。」

維心は、それには頷いた。

「確かに、そのように。どのような筋か知らぬが、龍玉を手に入れて帝羽に渡したやつは、何を思うてそうしたものか。そして、どうやって我に気取られずそれを手にしたものか。」

維月は、首をかしげた。

「でも、維心様の結界が張ってあるのでしょう?それなのに、維心様に気取られずに入るなど、不可能ではありませぬか?」

維心は、それにも頷いた。

「そうなのだ。なので、我の子だろうと皆が言うわけであるが、しかし絶対にそれはない。」

維月は、じっと考え込んだ。

「…その、龍玉とはどんなものでしょうか?」

維心と炎嘉は驚いたような顔をした。そうか、維月にわざわざ見せることもなく来ていた…見たことがないか。

維心は、片手を上げた。

「大きさは、我の手に乗るぐらいか。球体で、深い青色から、紫のような色にも見えることがあるし、緑に見えることもある。特有の波動があっての…代々の龍王は、皆これを一度は手にする。即位の時にな。」維月が、どうも想像できずに居るようなので、維心はその立体映像を浮き上がらせた。「これよ。」

維月は、それを見て歓声を上げた。

「まあ…きれい!」

維心は、微笑んだ。

「気に入ったか?では、宮へ帰ったら実物を見せようの。炎嘉とも話していたが、何かに役に立ったという記録はないがの…とにかくは、受け継がれて来たので、継いでおるだけ。普段は、巾着に入っておって、それをまだ厨子に入れて保管しておるのだ。」と、立体映像を変化させた。玉が巾着に入り、そして、厨子に入った。「このようにな。」

維月の表情が、ぴたりと固まった。この、厨子って…。

「維心様…この厨子は、どちらに?」

維心と炎嘉は、顔を見合わせた。

「…宮の、宝物庫に。他の鏡、それに我が使っておる刀の一つに大層な造りの刀があろうが。あれは龍王刀というのだが、それを収めるための厨子と並んで、置いておるのだ。」

維月は、自分も手を上げた。

「あの…」維月の手から、光が出て画像になった。「それは、こんな場所でしょうか。」

そういえば、宝物庫になど連れて行ったことがなかったか。

維心がそう思いながらその画像を見ると、確かに維月はきれいに宝物庫の中を映し出していた。

「おお、そうよここだ。普通の宝物庫の奥にあって、続き間ではあるが、普通は足を踏み入れることが出来ぬ。なぜなら、そこに我の結界が張ってあるからだ。」

維月は、両手で口を押さえた。炎嘉が、眉を寄せて維月を見た。

「維月?どうしたのだ。」

維月は、我に返って炎嘉と、そして維心を見た。そして、言った。

「維心様…私は、確かにそこへ入りました。」維心も炎嘉も、目を丸くした。維月は、続けた。「あの、茶会があった日ですわ。ひと月前になりまするかしら。維心様は例によってお留守でありましたけれど、私が出て…他の宮の陳情や、いろいろなことで兆加達臣下は大変に忙しくしておりましたの。それで、私も一緒に立ち働いておりました。その時に、頼まれて確かに奥へと入って、その端の厨子を持ち出したのですわ。」

炎嘉は、身を乗り出した。

「主が、そこへ入ったというのか。」

維月は、頷いて炎嘉を見た。

「ええ。確か、次々に来客達の要望を聞いておる時でした。宝物庫から、着物やらを持ち出しては渡す侍女達が大変そうだったので、私が手伝っておりました。そうしたら、脇からとても急いでいる風の、初老の神が声を掛けて来て…言葉に訛りがありましたから、きっと遠い宮から来て帰りを急いでおるのだろうと、気の毒になって、順番抜かしかなと思ったけれど、聞いてやりましたの。そして、書状を見せて、王からの命で、奥に預けてあるこのような厨子を持って帰らなければならないのだと言うから、私はそれを見て、奥へと探しに入りました。確かに、書いている通りの物が書いてある通りに置いてあったので、これかと思って、持って出て渡しましたの。その神は、何度も何度もお礼を言って、急いで帰って行きましたわ。まさか、あれが奥の宝物庫であるなんて、私には分かりませず…。」

維心は、炎嘉と顔を見合わせた。

「…維月か。維月ならば、我の結界に掛からぬ。月は、結界に掛からぬのだ。十六夜も、いつも我には気取れぬから。」

炎嘉は、謎が解けたとばかりに頷いた。

「では、主は無実ぞ!維月が見ておる。ひと月前のその時までは、龍玉はそこにあったのだ!主が、100年前に己の子にとその母へ託したのではない!」

維心は、思わず立ち上がった。

「おお!では、これで我への疑いは晴れるの!」と、維月の手を握った。「維月、でかしたぞ!」

しかし、維月は困惑した顔をした。

「ですが…元はと言えば、私がそれを持ち出してしもうたからこうなってしまっておるのであって…。」

しかし、維心は首を振った。

「そのようなこと!もう良いのだ。主がそのように立ち働かされておったこと自体が問題なのだ。本来王妃はそのようなことをする必要はないのに。」と、炎嘉を見た。「炎嘉、では維月が見たその初老の神とやらも探れば良いの。」

炎嘉も、興奮気味に頷いた。ここ数日、ずっと維心の冤罪を晴らすために考えて来たので、それが報われたような気持ちだったのだ。

「おお、賊を探す手がかりが増えたの!ああ、良かったことよ、すっきりしたわ。おー何か飲みたくなったの。維心、もう少し居らぬか。酒でも飲もう。」

維心は、上機嫌で頷いた。

「おお、良いの。では夕刻まで。」

「え?」維月は、慌てて言った。「あの、宮へ戻って解決策を…、」

しかし、炎嘉が振り返った。

「維月、息抜きも必要なのだ。我らこればっかり考えておったので、疲れておったのよ。夕刻までぞ。本日中には帰れるゆえに。」

維心も、維月の肩を抱いた。

「少しだけぞ。の、維月?主の見たその初老の神のことも、よう聞かせてもらわねばならぬしな。」

維月は仕方なく、頷いた。それにしても、神は酒が好きなんだから。維心様も、前世はそれほどでもなかったのに、今生は炎嘉様とよく飲むこと…。

そうして、維月は維心と炎嘉の酒盛りに付き合って、夕方まで座っていたのだった。

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