表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/103

王になるのは

維心は、居間で義心の報告を聞いていた。

「やはり、そうか。」維心は、側で膝を付いている義心の方は見ずに言った。「面倒なことよ。しかし此度も、どうにもならぬな。証拠がない。」

義心は、視線を落とした。

「は…巧妙なことでございます。」

維心は、小さくため息をついた。

「良い。とにかくは、あれらを滅したことで判はこちらに気取られたことを知り、それ以上のことは出来まい。あやつも判はもう使えぬと判断したはず。ここであの宮を滅しても良いが、それをすると神世に告示せねばならぬからの。しばらく泳がせるが良い…判の宮の方は、今後も見張らせよ。」

義心は、頭を下げた。

「は!」

そうして、そこを出て行った。維心はそれを見送ってから、険しい顔で庭を見つめ続けた。しかし、その目には庭の景色など映っていなかった。ここ数日、見張っていたにも関わらずあれは動く気配はなかった。判を先に消そうとするかと思うたが、思ったより慎重であるようだ。確かに、長い間叛意があることは気取っているものの、その動向が読めずに来たのだから、こんな所で尻尾を掴ませる訳はない。

すると、維月の遠慮がちな声が割り込んだ。

「維心様…?お邪魔でしょうか?」

維心は、我に返って声の方を振り返った。維月が、維心を心配そうな顔で見上げていた。

「おお維月。」維心は、維月を引き寄せて自分の袖の中へ抱き寄せた。「主が邪魔なことなどあるものか。いつなり、主は我の側へ寄れば良いのだ。」

維月は、しかし下を向いた。

「維心様が、私の気を煩わせたくないと思ってくださって、密かに世を乱す輩を始末して回っておられたのに…」維月は、維心から聞いて、維月に黙ってどこに出かけていたのかもう知っていた。「私は、そんな維心様のお気持ちにも気付かずに、あのように憤ったりして、宮を飛び出して。」

維心は、フッと笑った。

「もう良い。我も悪かったのだ。きちんと説明して参っておれば、主にあんな心配を掛けることもなかったのに。我は神を複数斬った後、気が昂ぶるからの…義心達、軍神もそうだ。闘神としての血が沸くのであろうの。それを抑えねば、主を傷つけることもあるかと、戻ってからあのような対応に。しかし、我は特別気が強いゆえ、簡単には収まらぬでな。湯殿で上手く誤魔化したつもりでおったが、どうにもならぬことよ。」

維月は、それでも表情を曇らせたままだった。

「やはり、蒼のあの沙汰のせいで、世を乱そうとする輩が動いておるのですか?」

維心は、苦笑して首を振った。

「蒼のせいばかりではない。前々から、叛意のある輩は居るのだ。しかし、我に抗う術が無うて黙っておるだけ。しかし、蒼があのような決定をしたので、案外に易いやもと思うて、動きが活発になっておることも事実よな。」維月が下を向いたので、維心はその顔を上げさせた。「しかし、これを利用しようとも我は思うておるのだ。」

維月は、驚いたように維心を見つめた。

「利用でございまするか?」

維心は、頷いた。

「今回、少し大っぴらに出て参っての。分かりやすかった。今まで事ある毎にどうにかして隙を突こうとしておった輩を気取ってはおったが、尻尾を掴ませぬからどうにも出来なんだのだ。だが、甘く見るということは油断しておるということ。ならば、これまでどうしようも出来なかった者達も、ボロを出すやもしれぬ。一網打尽にできるのではないかと思い始めておる。」

維月は、口を押さえた。

「まあ…。」

維心は、微笑んで維月を伴って窓際から離れた。

「なので、主はあまり憂いるでない。我がどうにかするゆえな。主は、ただ我の側に居れば良いのだ。」

維月は、微笑み返して、頷いた。

「はい、維心様。」

それを聞いて、維心は維月を抱き上げた。

「愛いやつよ。さあ、もう休もうぞ。」

維月は、維心の首に腕を回して、唇を寄せた。維心はそれを受けながら奥へと足を踏み入れ、考えていた。そう、どうやってあれを焚き付ければ良いか…。やはり蒼に言うて、あちらを利用するよりないか…。


式当日、維心は三日も留守をするというので、維月を連れて行くと聞かず、そうなると公式に出るので共の人数も半端ないことになり、龍の宮の出発口は大変なことになっていた。維月は、臣下達が疲れてどこか元気がないのを気取ってとても居た堪れなかったが、維心は涼しい顔で維月の手を引いて輿へと進んだ。そして、乗り込む前に、着いて来ていた兆加と維明、そして将維を振り返った。

「では、行って参る。主らにも、我の留守中滞りなく政務を進めておくようにの。」

維明が、頭を下げた。

「は。父上にも、つつがなくお戻りを。箔翔にも、我からも祝いを述べておったとお伝えくださいませ。」

維心は、頷いた。

「伝えようぞ。」と、その横に立つ将維を見た。「将維、のんびりと過ごしておったのにすまぬの。」

将維は、今生では維心の父になる。すっかり落ち着いた雰囲気で、ますます前世の維心にそっくりな風貌になっていたが、記憶がある限りどうしても、この前世絶対的な力を誇っていた父に対する尊敬の念は消えることはなかった。なので、やはり息子として答えた。

「我も、たまにはこういったこともあった方が気が晴れまする。いくら自由というて、我には退屈であったことも確か。久しぶりの龍の宮に、身が引き締まる思いでおりまする。」

維心は、やはり父として答えた。

「主は何事にも真面目よの。その性質は終生変わらぬのであろうな。しかし、主になら安心してここを任せられるというもの。頼んだぞ。」

将維は、頭を下げた。

「は。」

そうして、大きなベールを掛けられた維月の手を引き、維心は輿へと乗り込んで行った。

「ご出発!」

義心の声が響く。

その大層な行列は、龍の宮を次々に飛び立って行き、最後尾の軍神が飛び立った時には、もう先頭が出発してから10分以上経過していた…維明は、それを見送りながら、今、鷹の宮に居る箔翔へと思いを馳せた。いきなりに王になる箔翔…まだ、心の準備は出来ておらぬようだった。願わくば、箔翔が慣れるまで神世が混乱するような事が起こらねば良いが…。


その頃、箔翔は父から譲られた奥宮の、今までは父のものとして見ていた王の居間に座りながら、落ち着かない気持ちでいた。父が、この世から居なくなってから、自分はここに座るのだと思っていたのに。まさか、これほど突然に譲位されるとは、思っても居なかった。

箔翔は、ここへ戻ってすぐに目通りした、父との話を思い出していた。


箔翔は、何かの間違いではと微かに心に期待のような気持ちを持ちながら父が待つこの王の居間へと入って来ると、父は少し疲れたような様子で陽華と二人で並んで座りながら、こちらを見た。そして、微かに笑うと、言った。

「戻ったか。」

箔翔は、頭を下げた。

「はい。父上、璧から聞きましてございます。龍の宮に、即位式の案内が届いたのだとか…。」

箔炎は、頷いた。

「そうよ。最近、主の様子は臣下達に報告させておったが、大変に立ち合いの技術にも磨きを掛け、維心についての政務の学びも進んでおるようであるから、そろそろ良いのではないかと思うての。」

箔翔は、まだ立ったまま急いで言った。

「まだ、我は未熟でありまする。こちらのことは、これから深く学んで参らねばならぬというのに。確かに龍の宮で基本的なことは学んでおりまするが、宮の政務は各宮で異なっておるのだと聞きまする。まだ、我はそこを父上について学んではいない。」

箔炎は、苦笑して首を振った。

「ここは龍の宮ほど大したことはないわ。あちらが分かるなら、こちらなどすぐに分かる。そのようなことを案じる必要はない。」

しかし、箔炎は食い下がった。

「しかし父上…あの維明ですら、まだ王座には程遠いのだと言うておったのに。我が王座に就くなど…。」

箔炎は、じっと箔翔を見た。

「何を言うておる。維心はまだ数百歳、我はもう1800歳ぞ。確かに維明は、いつ王座に就くか分からぬが、主とは父の年齢が違う。今日明日にでも、我が亡うなったら何とする。どこの宮の皇子も、突然に父を亡くして王座に就くもの。我とてそうだった。まだ我が存命のうちに譲位されるのだから、主は恵まれておるわ。分からぬことがあれば、我にでも維心にでも聞けるではないか。」

箔翔は、それでも口を開いた。

「しかし父上…、」

「ならぬ。」箔炎は、強い口調で言った。「これは、我が決めたこと。王に逆らうことは、何人(なんびと)であっても許されぬ。我の最後の命ぞ。王座に就くのだ、箔翔。それが主の務めぞ。」

箔翔は、ぐっと黙った。今はまだ、父が王。それに逆らうことなど、皇子の自分でも出来ない。箔翔は、拳を握って黙っていたが、スッと頭を下げると、言った。

「はい。仰せの通りに。」

そうして、それから父は奥宮を出、一旦側の別宮へと居を移し、箔翔は奥宮を許された。譲位の後は、妃の実家である空き宮が近くにあるというので、そちらで暮らすのだという。

どんどんと進んで行く回りの動きに、箔翔はまだ戸惑っていた。

そうして、まだ戸惑ったまま、式当日を迎えてしまったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ