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沙汰

「今回の侵攻には、オレばかりではなく、月も地も面倒なことをと憤りを隠せずにいる。我らはあの地を龍より譲り受け、それ以降は月の結界を張って特定の者しか受け入れず、我らは神世に深く関わらずに生きて来た。維心様から強く求められたゆえに、月の維月は龍王妃として嫁いではいるが、それももしなければ我らはただ求めに応じてたまに宮から出て来るだけで生きておったと思う。月の考えは、自分たちに影響がなければ、神世で何があっても知らない、ということであるしな。」

神達は、それをじっと聞いている。確かに、月の宮が出来るまで、月はこちらからの呼びかけに答えもしなかった。聞こえているはずであるのにだ。

それが、蒼、維月が現れて変わった…龍と関わり、龍王と縁戚になり、月の力を求めることが可能になったのだ。しかし、考えれば月が自分たち神の力を欲したことは、なかった。

蒼は、続けた。

「そんなわけで、今回だけは迎え撃とうということになった。別に、月の結界を強化してそこから動かなければ、オレ達には何の問題もない。どんな神にも、月の結界は破れない。もし破ったとしても、中にはオレや月、それに地まで居る。どうにかなるはずもないからな。だから、無視しようと思えば出来た。だが、向かって来るのは面倒であるし、これからのために迎え撃つことにしたのだ…月の力を思い知らせようと。二度とそんな無駄なことをして来ないようにな。穏やかな暮らしを、邪魔されるのだけは我慢ならない。」

皆は、顔を見合わせた。どうも、方向が違うような。

それを感じていたのは、炎嘉も維心も同じようだった。どうも、沙汰を下すのとは違うような言い方だ。

蒼は、先を続けた。

「月とも話し合ったが、今度のことで、これらは月の力を思い知っただろう。神の力をいとも簡単に奪ってしまえる。このまま終生奪ったままで置くこともできる。これより先、月に抗おうなどと思わぬはずだ…次は、完全に神から人にされてしまうのを知っているから。」

維心は、蒼が何を言いたいのか分かった。なので、それに異議を唱えようと口を開きかけたが、炎嘉が維心の腕を掴んで首を振ったのを見て、留まった。しかし、このままでは…。

「月の宮は、これらに沙汰を下さない。」蒼が、核心を述べた。「月は、神世に関与しない。これからも我らに関わってこない限り、こちらも何もしない。これらが軍を退くならば、我らは別に良い。神の力も戻してやろう。だが、二度はない。次は完全に力を奪い去って、二度とその力を戻すことはないと思うが良い。」

蒼は、手を上げた。途端に、呆然とそれを聞いていた公青を始めとする咎人とされた王達は、自分に体に神の気が戻って来るのを感じた…体が軽い。気が戻って来たのか。

一斉に、公青以外の王達が、蒼に頭を下げた。蒼は、それを無表情に見ている。維心が憮然としてそれを見ている前で、公青が信じられないといった顔で蒼を見た。

「…無罪放免というのか。我らは、これほどのことをしたというのに。」

蒼は、面倒そうに言った。

「誰一人として死んではおるまい。オレは、面倒なことは嫌いでな。迷惑を掛けられて困ったものだとは思っているが、ただこっちに干渉するなということだ。命が絡んでいたら、この限りではなかったが、こっちも紛らわしいことをしてしまったことも事実。とにかくは、これからは面倒は持って来てくれるな。いくら死なぬとは言って、疲れるのだ。」

維心は、まだ納得していない顔だった。それは、炎嘉もそんな感じだったが、それでも黙っていた。また、入って来た時と同じように会合の間から出された公青達だったが、まだ夢を見ているような顔をして、そこを出て戸が閉じられた。

その戸が閉まるのを待って、維心が唸るように言った。

「…面倒とは、このことだったのか、蒼よ。」

蒼は、苦笑して維心を見た。

「申し訳ありません。オレには、あれらを罰する理由が見えませんでした。十六夜もそうです。だって、誰一人死んではいないし。後は、あれらが神世でどう扱われるかなんです。」

炎嘉が、ため息をついた。

「これほどのことをしておいて無罪放免など、聞いたこともないわ。今後、これに味を占めた輩が我らを甘く見て挙兵などが起こって来るやもしれぬぞ?面倒が増えたの、維心。」

維心は、頷いた。

「また世が乱れたらなんとする。戦ばかりの世など要らぬ。また皆殺しにして回らねばならぬではないか。」

維心は、冗談ではなく大真面目で言った。それを聞いていた他の宮の王達が、身震いするのを感じる。維心はそれを知ってか知らずか、立ち上がった。

「戻る。」

炎嘉も、横で立ち上がった。

「では、此度の会合はこれで終いぞ。」

一斉に、他の宮の王達が立ち上がる中、不機嫌な維心を先頭に、上座の一同は会合の間を後にしたのだった。



また、神世は元の営みを戻していた。

十六夜も碧黎も機嫌良くしていたが、龍の宮では維心がぴりぴりとしていた。維月は龍の宮へと再び無事に迎え取られ、神世の全てはそれを納得していたが、それでもあれだけ大きく挙兵した神世の王達まで何事もなかったかのように過ごしているのは、落ち着かなかった。今まで、こんなことの後には必ず誰かが罰せられ、それで挙兵したらあんなことになるのだと皆に知らしめたものだったが、何も変わらなかったからだ。神世は、未だ野蛮だ…隙あらばと狙っているだろう輩が、維心が知るだけでも何人かいた。それらの動向が気になっていたのだ。

維月が、居間で考えに沈む維月を見上げて言った。

「維心様…そのようにご機嫌を悪くなさっていてはなりませぬわ。」維月は、困ったように自分の肩を抱く維心の頬を撫でた。「神世の神達も、月の力は思い知ったのですから。いきなり挙兵するような者は居りませぬでしょう。」

維心は、ため息をついた。

「そうあって欲しいものよ。だがの、我は主らより長く神を見てきたゆえ。あれらの動きは、ようわかっておるのだ。まあ、何をしようとも我と炎嘉が揃っておって大事には至らぬだろうが、その際に消さねばならぬ命を考えるとの…落ち着かぬ。」

維月は、ハッとした。維心は、龍王として君臨したからこそ、非情にたくさんの神を滅して来たが、前世でも、そんなことは望んでいなかった。自分がやらなければと、ただその気持ちだけでやって来ていた…前世の維心が、神を罰して殺した後、たった一人で奥に篭り、その血を洗い流していた様を、維月は思い出していた。その度に心は荒んで凍り付き、誰も近寄らせなくなっていた、孤独な維心…。

維月は、思わず維心に抱き付いた。

維心は、驚いたように維月を見た。

「維月?どうしたのだ。」

維月は、目に涙を浮かべて維心を抱き締めた。

「申し訳ありませぬ…前世、記憶を見てどのようなお気持ちで世を治めていらしたのか、存じておりましたのに。また、世を乱すようなことを…。」

維心は、フッと笑って維月を抱き締めた。

「そんなことか。」そして、維月の涙を袖で拭いた。「そのように案じる事はない。今生は主が居るではないか。なので我は、楽に治めておれるのだと思うておるよ。それよりも我が案じるのは、失われた命を悲しむもの達の事ぞ。維月、我はもう、愛する者に先立たれる苦しみは知っておる。なので、ためらうのだ。己のために案じておるのではない。下々の神にも家族はあろう…それゆえぞ。」

維月は、維心を見上げた。

「はい…。此度のことは、我ら月の者のせいでありまするから。何かあれば、命を散らす事なく収められるように、尽力致しまするわ。どうか、お心を穏やかにしてくださいませ。」

維心は、微笑んで頷いた。

「わかった。我ももう、これ以上は考えに沈むまい。主まで苦しめるのは、本意ではないゆえな。」

維月は、ホッとして維心の胸に寄り添った。

「はい…維心様。」

しかし、維心は神世がそこまで甘く、成長しているとは思っていなかった。だが、維月を煩わせることがないように、早めにいろいろなことは手を打たなければ、と決心していたのだった。

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