表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/103

会合の日

いよいよ、明日は会合だった。

蒼は、月を見上げながら、まだ考えていた。これから先の事を考えても、このままというわけには行かない。しかし、公青はどうあれ、それについてきた神達は、皆、己の信じた世を正す為と戦ったのだ。死人が出ていない以上、あれらを処罰するのはあまりに不憫に思えた。

捕らえて捕虜になっている王達も、おとなしくコロシアムの幕屋で過ごしている。神の力を失っている以上、そうするよりないだろうが、明日は会合に出るのだ、とそれぞれに着物を下賜した時も、神妙に従っていた。あれらは、沙汰を下したくない。

しかし、そうなると今度の事を全て公青に背負わせねばならず、そうなるとやはり命を奪うよりない。まだこちらの世に来たばかりで深く知らなかった公青に、機も与えず殺してしまうことも、また蒼はしたくなかった。

蒼が考え込んでいると、十六夜がスーっと現れた。

「…いよいよ、明日だな。」

蒼は、頷いた。十六夜はその様子に苦笑して言った。

「なあ、オレ達月は、神世じゃあ何だと思う?」

蒼は、いきなり何を言い出すのかと思ったが、答えた。

「龍王すら敵わない力の持ち主で、良くわからないってとこじゃないか?」

十六夜は、首を振った。

「いいや。違うと思うぞ。」と、月を見上げだ。「オレ達は、月だ。誰がなんと言おうと、神だろうと人だろうと、あっちから見たら月なんだよ。それ以外の、何物でもない。維心があんなだから、どうしても神世に関わっちまうが、月は月であって神じゃない。お前が王と名乗ってるのだって、頼る神達に神世での立場を作ってやらなきゃならないってだけで、オレ達には関係ない。どっちでもいい…だってよ、臣下達だって月の眷族じゃねぇんだからよ。求めに応じてやってるだけだ。オレ達は、維月とオレ、お前、親父とお袋、それに大氣と維織だけなんだぞ?恒や涼ですら、オレ達の眷族じゃねぇんだからな。」

蒼は、十六夜をまじまじと見つめた…十六夜が今挙げたもの達は、皆、神世に関わっていない。維心のために、維月はあちらへ嫁いでいるが、それでも政治には興味はない。十六夜は、常に神世に関わらない方へ考える…碧黎に至っては、何が起こるか見えていても言わない。別の生き物だという目で見ているからだ。大氣は、維織のために神世に居るだけ。維織は、はなから政治など知らない…。

「好きにすればいいんだよ。要はオレ達の暮らしを乱すなって事で。世の乱れなんかは、神達が何とかすらぁな。維心や炎嘉は、そのために居る。お前はお前のいいように決めて、後はあいつらに任せな。心配しなくても維心も炎嘉も、もっと乱れた世を正したんだ。ちょっとぐらい何ともないさ。大体あいつら暇だから維月ばっか追い回してんだからな。ちょっとは何かあった方がいいのさ。」

「十六夜…。」

蒼は、十六夜を見つめた。十六夜は、いつもと変わらず穏やかに微笑んでいる。その笑顔に、蒼は決心して、頷いた。

「わかったよ、十六夜。オレは好きなようにしたらいいんだな。何しろ、十六夜と母さんの息子なんだからさ。」

十六夜は、声を立てて笑った。

「そうだよ、気ままなオレ達の息子なんだぞ?お前って、生真面目過ぎるんだよ。神世がなんでぇ。あいつらのことはあいつらが何とかやらぁ。最近、殊に親父の気持ちが分かるんだよなー。」

蒼も、その言葉に笑い声を立てた。

「ははは、似て来たんじゃないの?」

十六夜は、おおっぴらに迷惑そうな顔をした。

「あの親父に?よしてくれ。」

そうして、夜は更けて行った。


次の日、蒼はいつもなら簡素に自分と軍神二人ほどで赴く会合の場に、輿をいくつも連ねた状態で到着した。何も、仰々しく装おうとしたではなく、未だ力を奪ったままで空を飛べない神の王達を連れて来るためだけだった。しかし、その行列を見た他の宮の王達は震撼した…ああして、まるで見せしめのように連れて来ることが出来るとは。

蒼は、そんな空気を感じ取っていたが、それでも何でもないように表面上は装って会合の間へと歩いた。すると、後から到着した維心が、蒼に気付いて後ろから呼んだ。

「蒼。」

蒼は、それに気付いて振り返る。炎嘉もその維心の後に続いているのが見えた。

「維心様、炎嘉様。」

蒼は、軽く頭を下げた。炎嘉が、進み出て言った。

「何かを決めた顔をしておるの。主も、さすがに此度だけは咎めなしと言うわけにはいくまい。先ほど、公青も到着しておった。主の軍神に連れられての。」

蒼は、頷いた。

「はい。迎えに参るように申しつけておりましたので。」と、維心を見た。「維心様…場合によっては、御手間をお掛けすることになるやもしれません。」

維心は、頷いた。

「あれらを滅するなど、指一本で出来る。案ずるでない、我に任せよ。」

蒼は、苦笑した。やはり、滅する方向へと考えていらっしゃる。

「とにかくは、こちらへ。もう皆先に到着して待っておるでしょう。」

蒼が促し、三人は歩き出した。大体、会合に来るのは炎嘉と維心が最後だ。先に会合の間に入って他の神を待つようなことは、この二人はしないし、神世の神達がさせないからだ。だからといって、維心達が遅れて来るわけではなく、他の神が時間より早く来るのだ…龍王を待たせる神など、居なかった。

つまりは、もう皆会合の間で待っている状態なのだ。

会合に使われる部屋の戸が開かれて、中の神が一斉に立ち上がった。ぱらぱらと空席が目立つのは、蒼の宮へと攻め込んだ王達の席だろう。維心を先頭にそこへ上座に向かって歩いて行くと、歩いた傍から神の王達が頭を下げて行く。いつもの光景だったが、いつもより緊張感が漂っていた。

席に着くと、先に席に着いていた箔炎が言った。

「手を出すなというから、我は高見の見物をしておったが、何やら厄介なことになっておったようではないか。今日、蒼が沙汰を?」

蒼は、頷いた。

「はい。オレの宮へ侵攻して参ったのですから。」

箔炎は、頷いた。

「面倒なことは先に始末しておくに限る。議題は後回しにするか?」

しかし、それには炎嘉が首を振った。

「いや、後にする。先にいろいろあっては、皆気もそぞろになってしもうて進むことも進まぬからの。」と、ずらりと居並ぶ神の王達の方を見た。「では、先に今回の議題を消化してしまおうぞ。主らも気にかかることであろうが、先の戦の沙汰はその後ぞ。」

一瞬、皆気が抜けたような顔をしたが、それでも目の前に出て来る議題もまた大切なことだった。下々の宮の王達が上位の宮の王に話を聞いてもらえる絶好の機会なのだ。

そして、会合は滞りなく進んで行った。

いつも通りに会合は進み、皆が沙汰のことなど忘れかけていた頃、全ての議題の処理を終えたのを見て、それまで黙って見ているだけだった維心が口を開いた。

「…では、此度の咎人をこちらへ。」

皆が、一斉に体をびくっとさせた。明らかに、これで終わりという雰囲気だったようだ。

維心の声と共に戸が開かれ、ずらりと一列に並べられ、しかし何の拘束もされていない状態の、今回の戦に参戦した王達が入って来た。先頭の公青は、幾分青い顔をしながらも、しっかりと顔を上げて歩いて来る。会合に参加していた王達は、それを固唾を飲んで見守った。

…気が、まるで人のようだ。

ひそひそと、小さな声で囁き合うのが蒼にも聞こえた。その隣りで、維心が言った。

「此度のこと、我らは月の宮から手出しは無用との要請を受けて参戦せなんだが、我とてはらわたが煮えくり返る心地であった…なぜなら、我が妃の里であるからだ。我が無理に妃と縁づけられたと思うておる輩も居るだろうからこの際はっきり申しておくが、我は維月を強く望んでおる。いろいろと行き違いあり、我自身が短慮にあれを離縁したしもうたゆえ、再縁が難しゅうてあのような形になってしもうたが、我としては願ったりであった。何しろ、早ようあれを宮へ迎え取りたくて仕方がなかったからの。蒼は、我のそんな気持ちを汲んだからこそああして我を閉じ込めてくれた。全ては、我のためであって、月のためではない。勝手に戦などを仕掛けおって、歯噛みしたい気持ちであったわ。」

炎嘉が、段々にヒートアップして来る維心に、まあまあと横から割り込んだ。

「まあ落ち着かぬか。とにかくは神世を騒がせる元凶を作ったのは主なのだから、ここは主の私情は抑えよ。」と、皆が、維心の機嫌の悪さにますます緊張するのを見て苦笑しながら蒼を見た。「では、蒼よりこれらへの沙汰を申し渡す。」

蒼は、立ち上がった。本当は、ここで公青の処刑を言い渡さねばならない。そうしたら、きっと維心か炎嘉が本当に指一本で気を発して一瞬にして滅してしまうのだろう。

蒼は、キッと顔を上げると、険しい顔で言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ