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力の喪失

少し前、十六夜は公青と隼を探して宮の中を移動していた。行く先々で、そっと公青の臣下達から気を奪いつつ、十六夜はひたすらに公青の気を探って飛んだ。

すると、どうやら地下の維月の所に居るらしいことが分かった。維月に何かしようと思ったら、あの膜を解くしなかない。しかし、膜を解いたら維月は月へ帰ることが出来る。だから、維月に何かしようがなかった。

なので、階上でそれを伺っていると、公青が隼と共に階段を上がって来るのがわかった。

…後二秒。

十六夜は心の中でカウントして、さっと階段の出口を塞いで立った。すると、あまりに唐突に何の気配もなく目の前に現れた十六夜に面食らって公青は逃げようと浮き上がった。しかし、逃げ道は後ろしかないので、そちらへ向かおうとした瞬間、背後から何かの光が二人を捕らえ、途端にその今上がって来た階段の上を転がり落ちて行くよりなかった。

「う…。」

公青は、体を強く何度も打ち付けて、地下の床の上で呻いた。隣りの隼も、必死に起き上がろうとしているが、体が重そうにしている。

落ちて来た音にびっくりしてこちらを見ていた維月が、牢の格子にくっついて叫んだ。

「ちょっと?!何、どうしたの?!」

すると、十六夜が上からすーっと飛んで降りて来た。そして、維月を見て苦笑した。

「維月、元気だな。とにかく、そっから出てこっちへ来い。維心が来ちまうからよ。」

維月は、回りを見てハッとした。膜が、消失している…この膜を作っていた、公青が気を失ったから?

維月は、そっと牢の格子を抜けると、十六夜の横へ来た。エネルギー体なのだから、物理的にはどこかへ篭められることはないのだ。

公青は、重い体を必死に起こして、言った。

「何をした…なぜにこれほどに体が重い。」

十六夜は、頷いた。

「皆にしたのと同じだ。お前達の気を封じさせてもらったのさ。だが、これでお前達は命拾いするんだぞ?ちょっとは感謝してもらいてぇな。」

公青は、相変らず重い体を引きずるように立ち上がった。

「なぜに感謝など。」

十六夜は、途端に険しい顔をした。

「あのな、お前の結界がいとも簡単に破られたのを知ってるだろうが。維心だよ。あいつが来た…めちゃくちゃ怒ってるんだぞ?そんなあいつに、維月以外なんか目に入るはずないだろうが。ここの神という神は殺されちまうところだったんだからな。」と、公青を睨んだ。「お前は、今神じゃねぇ。神なんだが、気を一切使えねぇんだ。気配もけどれねぇし、念も使えない。もちろん飛べないし、気弾だって打てない。そんなヤツを相手に、軍なんか投入してこれねぇだろうが。」

十六夜は、維月の肩を抱いて二人を促した。

「さ、上へ行こうや。今は蒼が止めてるようだが、あいつはそんなんで止まるやつじゃねぇからよ。」と、上に向かいながら言った。「お前、炎嘉に似てるんだってな?その饒舌さってので、維心と蒼が納得するように持って行きな。炎嘉なら、恐らくどうにでも言いくるめるぞ?お前のお手並み拝見と行くか。」

公青は、十六夜をぐっと睨んだが何も言わずに従った。気を奪われては、何も出来ない…まさか月に、こんなことが出来るとは…。


十六夜に呼ばれて、蒼と維心が宮の窓から中へと到着すると、公青の臣下達が脅えて一塊になって、隅でじっとこちらを見ていた。その前に、公青が立っている。維心は、思わずそちらへ足を踏み出した。

「公青、主…!我が妃をどこへやった!」

維心は、ただでさえ冷たいその瞳を怒りで青く光らせて怒鳴った。しかし、人のように気も何も感じない公青には、確かに力があるのは分かるのだが、殺されるという実感は湧いてこなかった。しかし、臣下達はさらに脅えて壁際へと縮こまった。

「維心様!」維月が、慌てて横から出て来て維心に走り寄った。「維心様、私はこの通り無事でございますわ!どうか、お心を沈めてくださいませ!」

維心は、それを見てパッと表情を変えた。

「おお!維月…どれほどに案じたことか。どこも何もないか?大事ないであろうの。」

維心は、すぐに維月を抱き寄せて頬を撫で、頭を撫で、異常はないか確かめている。維月は、首を振った。

「何もありませぬ。気も、そんなに減ってはおりませぬし。後で月へ上がって、繋がりを復活させれば済むことでありまする。」

維心は、ホッとして維月の頬に自分の頬を摺り寄せた。

「ああ、安堵したぞ。主の身に何かあってはと、我は…蒼と手を出さぬと約したこと、後悔しておった。どうあっても、我が主だけでも守るために参っておるべきであったと。」

維月は、首を振った。

「まあ維心様、本当に何でもありませぬから。ほら、人型も崩れておらぬでしょう?あれらは、月が何たるかを知りませぬ。なので、此度のようなことも起こってしまったのだと思いまするわ。」

十六夜が、やっと割り込めると呆れ顔で言った。

「そうそう、公青は、ただ月が世を乱す存在であると思ったようなんだ。何しろ、お前を閉じ込めてまで月を嫁にって押し付けるようなものなんだぞ?話を聞いてて、オレもそりゃそうだなあと思ったところだったんでぇ。」

公青は、ごくりと唾を飲んだ。ここまでは、月が言っていた通りだ。自分達は、そう言ってお前を庇うから、後はお前が、一族の命のために何とかしろと言った。

ちらと後ろで縮こまっている臣下達を見た。力のない、弱い者達。自分を王と慕い、ついて来てくれていた者達…皆殺しにされるわけにはいかぬ。

公青は、遠い空に龍の軍神達が大勢浮いているのに目をやりながら、背筋を伸ばした。ここで、自分がやらねば。自分の力は、何も気の強さだけではない!


その頃、炎嘉と志心は、公青の宮の上空に、軍を率いて到着していた。維心からは何の連絡もなかったが、烈火のごとく怒って西へ向かった事は伝え聞いたからだ。そこに居たのは、上空を取り巻く龍軍の兵士達と、嘉韻と明人だった。炎嘉が待っていると、自分の筆頭軍神の嘉楠が嘉韻を連れて戻って来た。

「王、嘉韻を連れて参りました。」

炎嘉は、頷いて嘉韻を見る。嘉韻は、炎嘉に頭を下げた。

「炎嘉様。」

炎嘉は、嘉韻に顔をしかめて言った。

「して、なぜに維心は全軍率いてここへ来た。蒼は、手を出すなと言うておったのではないのか。慌てて来てみれば、本人は居らぬし軍はこんな所で浮いておるし。」

嘉韻は、頷いた。

「は、維月が隙を突いて公青に膜に籠められて連れ去られ、十六夜が後を追って戻らないのを知り、すぐに出撃されました。今は我が王と共に、十六夜によって制圧された宮の中へ公青の話とやらを聞きに参っておりまする。先程から維月の気も気取れまするし、無事でおるようでございます。」

炎嘉は、隣に浮く志心を見た。

「よりにもよって維月をさらうとは面倒なことを。これでは維心も感情に踊らされて平常の判断が出来まい。困った事よ…知らぬとはの。」

志心は、苦笑して炎嘉を見た。

「確かに。最初思うておったようには事は進むまいに。普通の申し開きでは、維心殿は納得されまい。何しろ、頭に血が上っておるだろうからの。」

炎嘉は、ため息をついて嘉韻に視線を戻した。

「話とな。それは我らも聞かねばならぬの。主らはここに居れ。そのうちに蒼から命も下りよう。では志心、参るか。」

志心は、頷いた。

「後に立会人が居った方が事は上手く行こう。我らも参ろう。」

炎嘉は、嘉楠を見た。

「ここで待て。すぐ戻る。」

「は!」

そして、炎嘉と志心は、宮へと降りて行ったのだった。

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