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脱出

公青は、慌てて月達を見上げた。

月は、蒼も含めて回りの軍神達を一層することに気を取られ、こちらを振り向こうとしない。公青は、必死に考えた。月には、力で抵抗しても敵わない。ここで隼が飛び出しても、一瞬にしてあの光にやられてしまうだけだろう。あの、月の力を断つ方法はあるまいか…。

公青は、潜みながらこちらを見上げる隼に、下を見ずに指で待て、と合図して、三人の月を見上げた。王の蒼の気は、青銀の髪の月の人型と同じように強大なものと感じる…あの二人には、気取られてはいけない。しかし、あの女の人型…陰の月である、龍王妃は?

気配を探って、それが陽の月とは比べ物にならないほど小さなものだと感じた公青は、驚いた。同じ月なのに、陰の月は力が弱い。そうか、陰の月…月の、裏側か。もしかして、二人で一つの体を共有しているので、全開の力は二人一緒でなければ使えないものの、ほとんどは陽の月の力なのではないのか。

この状況を破るためには、あの陰の月を崩すよりない。しかし捕らえるためには、エネルギー体を篭める膜が必要だ。複雑な術…出来るのか?

迷っている暇は無かった。公青は決心して、隼に指でサインを送った。始めは少し目を見開いて驚いたような顔をした隼も、決心したように一つ、頷いて構えた。公青は、その瞬間を待った。


蒼は、十六夜を振り返った。

「粗方片付いた。どうする?十六夜。」

十六夜は、蒼に肩をすくめて見せた。

《お前が王だ。お前が決めな。》と、維月を見た。《さ、維月、宮へ帰ろうか。》

維月は、頷いて十六夜から手を離すと、飛ぶ体勢になった。そして、気になってちらと公青を振り返った。

その時、その足元から軍神が一人飛び出して来た。

「え?」維月は、慌てて蒼に向かって叫んだ。「蒼、まだここに一人!」

蒼は、公青も光に当てようと篭めていた玉を閉じて、手を上げたところだった。その軍神は、真っ直ぐに蒼に刀を真正面に持って突っ込んで来た。串刺しにするつもりだろう。

「蒼!」

十六夜も叫んで、手を上げた。しかし蒼は、簡単にその軍神の刀を気で止めた。蒼の手前数十センチで止まった切っ先が、目の前で揺れている。十六夜が、ホッとしたように肩の力を抜いた。

「ああ、驚かすなよ。」

蒼は、その刀をまた気で叩き落しながら言った。

「月の光も不便だな。届かないところがあったってことか。」

そしてまた手を上げ振り返ると、そこに居たはずの公青が居ない。驚いた蒼の耳に、十六夜の声が響いた。

「きゃあ!」

「維月!」

隼が勢い良く飛んで、いつの間にか十六夜達の背後に回っていた公青に並んだ。公青は、維月を大きな玉に篭めて、引きずるようにして飛び始めた。

「この陰の月を消滅させたくなかったら、黙って見ておることぞ!」

公青は叫んでぐんぐんと遠ざかって行く。十六夜が、それを追って飛んだ。

「何てことを!維月を月と分断しやがって!返しやがれ!」

しかし公青は、自分と隼もその玉に一緒に入って、そのまま飛び続けた。

「返さぬ!こやつを龍王妃の座に就けてなるものか。」

公青は、見る間に西の空へと消えて行った。

十六夜も、それを追って見えなくなる。蒼は、月からその状況を見ながら、歯軋りしていた…甘かった。油断した!



一夜明け、月の宮の回りには、10万の軍神達が地上を自分の宮へ向けて歩いていた。何が起こったのか分からないが、命に別状はなく傷もなく、それなのに飛ぶことも気を使うことも出来ない。念も使えず、辺りを探ることすら出来なかった。山深い地であるので、前に進むこともままならない状況で、月の宮の回りの森を、右往左往する様は異様だった。

それを上から見下ろした維心は、運動会を思い出して苦笑した。そうか、皆から気を使う能力を奪ったか。結界外でも、力を篭めれば出来るのだとは。

それを確認してから、月の宮へと向かうと、なぜか軍神達が忙しない。戦は、こちらの完全勝利なのではないのか。

維心が怪訝に思いながら宮へと降り立つと、蒼が慌てて出て来て維心に開口一番、言った。

「維心様!申し訳ありません…母さんが、月と分断されて玉に篭められて、連れ去られてしまいました!」

維心は、俄かに顔色を変えた。

「何と申した?!なぜに維月が…十六夜と、主が居ったのではないのか!」

蒼は、力なく下を向いた。

「一人軍神が残っていて、それがオレに向かって来たのに気を取られている隙に、公青が母さんの背後に回って術の玉へ篭めたのです。十六夜が追って行ったのですが…まだ、戻らない。今、嘉韻も数人の軍神と共に西へ飛んだところなのです。」

維心は、拳を握り締めていたかと思うと、すぐに踵を返した。蒼が、慌てて言った。

「維心様?!」

「我も出る!」

維心は言いながら、凄いスピードで飛び上がって言った。そうして、上空で自分の宮へ向かって飛ばす念が、蒼にも聞こえて来た。

《出撃ぞ!軍を出せ、西ぞ!我が妃を取り戻すのだ!》

「維心様!そんなことをしたら、全面戦争に…!」

蒼は叫んだが、考えたら念で叫ばないと今の維心には届かない。あの速さなら、もう龍の宮に着いただろう。

一瞬の油断が、戦を引き起こしてしまった…。

蒼は、碧黎の言う試みに失敗したのだと、自分の不甲斐なさに歯噛みしていた。

すると、そこへ碧黎がパッと現れた。

「ややこしい事になったの、蒼よ。して、どうするのだ?このまま維心を行かせるか。あやつが行けば一瞬であろうがの、軍を動かすほどのことか?」

蒼は、驚いて碧黎を見た。母さんが、連れ去られたのに?

「でも…公青は母さんを消そうと考えているかもしれない。そうでなくても、月から分断されては長くはもたない。」

碧黎は、ため息を付いた。

「冷静によう考えてみよ。今、月の宮の回りで、逃げようと必死にもがいている神達は何ぞ?」

蒼は、淡々と答えた。

「オレが気を奪った神達です。公青が連れて来た…」

蒼は、そこで気付いた。そうだ、皆ここへ来たのだ。では、公青の宮に残っていたのは、誰だ?軍神が居たとしても、そう人数はいないはず。そんなところへ、龍の大軍が攻め寄せるまでもないということなのだ。

では、まだ戦にしないチャンスはある。でも、急がなければ…。

蒼は、走って窓へと向かった。

「碧黎様!必ず、戦にはしませんから!」

蒼は、大きくそう叫ぶと物凄い勢いで飛んで行った。碧黎は、それを見上げて目を細めた。

「ふむ、孫はかわいいとはよう言うたものよ。甘やかしすぎたかもしれぬが。」

蒼は、公青の宮へと必死に飛んでいた。


その頃、十六夜は、元々気配を気取られにくい月であることもあり、あたかも月の光のような気配で潜み、公青を伺っていた。

維月を取り替えそうと思えば、恐らくすぐにでも出来た。しかし、公青が何をするつもりなのか、見極めようと思ったのだ。

公青の宮はそこそこに大きく、龍の宮ほどではないものの、志心の白虎の宮ぐらいの規模はあった。ほとんどの軍神は出撃していたようで、ここに居る軍神はほんの数十人だ。他は、あまり力を持たない重臣達ぐらいだった。

もし、ここに誰かが攻め入ったら、終わりだな。

十六夜はそう思って、宮の様子を伺っていた。しかし臣下達は、とても月を討って世を治めようというようなことを考える風には見えなかった。皆、穏やかな気を発していて、今は非常時なので不安そうではあるものの、黒い霧も憑いてはいないし、温厚そのものだった。

…しかし、このまま維月を捕らえ続けていたら、維心に皆殺しにされる。

十六夜は、どうにかして皆を守らねばと思った。今にも維心が維月を連れ去られたと激昂してここへ来るのではないかと気が気でなかったが、よくよく考えて、ひとつ、頷いた。

「よし。これしかねぇ。」

十六夜は、すーっと宮の中を移動し始めた。

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