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当夜

公青は、思ったほど神が集まらなかった事に険しい顔をしていた。自分に心酔している神の王達を使って、ほとんどの下位の王に遣いを出したのだが、自分についたのは150ほどの宮。200以上の宮の王が、決起を呼び掛けるまでは自分に同意していたものをと、歯ぎしりしたい気持ちになっていたのだ。

しかし、約半数の宮が公青についた。

これは、大きなことだった。龍王に逆らうとなればこれほどに集まらなかったであろうが、あくまでも龍王を力付くで押さえて妃を送り込んだ月の宮を討つためと、ふれ込んだ事が効を奏しているのは明白だった。

それでも、公青の側につかなかった神も居る。

始めから話も聞かなかった、上位に座る宮々の王だった。彼らは皆、一様にこう言った…蒼は、そのように世を治める事など望む王ではない。

公青自身、月の宮の王である蒼とは、一度も話した事がなかった。しかし、維心にも似た大きな気を、抑えて穏やかに、ただ皆の話を聞くだけの、闘争心の欠片も見えない王だった。

上位の王達は皆、蒼、蒼と庇うように話し掛け、尊重していた…しかし、公青には、蒼にそんな価値があるようには見えなかった。ただ月であるから、あのように皆に尊重されているだけと考えていたのだ。

何しろ、最上位に座る維心を囲んだその数人は、あちらから下位の王達に話し掛ける事はなかった。もちろん、新参者の公青など、話し掛ける機もなかったのだ。

公青が物思いに沈んでいると、軍神の一人が入って来て膝をついた。

「王、全て揃いましてございます。合図と共に四方から、一気に月の宮結界に向けて進軍する由。途中、恐らくは輝重様の宮、緑青様の宮の領地を通りまする。」

公青は、頷いた。

「それこそが策ぞ。その宮はやはりこちらにはつかなかった。月の宮から気の供給を受けておると聞いている。それらが攻めいられているのを見て、黙っていられぬはずぞ。おそらく、月の宮王はあの、強固な結界を出て参る。」

軍神は、頷いた。

「は!」

公青は、その軍神を見た。

「して、龍の動きは?」

その軍神は、ためらったように公青を見上げた。

「は…それでございまするが、確かに炎嘉様から龍王、それに鷹や白虎にも此度のことは知らされたようでありましたが、それでもあちらには何の動きもなく、炎嘉様はこちらの決起に参加しなかった宮の求めに応じて守護には付いておられまするが、月の宮のほうには、全く。」

公青は、眉根を寄せて息をつき、考え込むように宙を見た。

「…月の、守護はせぬということか。」

軍神は、下を向いた。

「は…確かにそのように見えまするが…。」

公青は、黙り込んだ。龍族が、少なからず介入して来るだろうことを見越して、人質を取ることまで視野に入れて作戦を立てていた。しかし、その必要はないのかもしれない。もしかして、神世の力のある神達は、言わぬだけで月を面倒に思って来たのやも…。

しかし、備えはしておこうと思った。

「…とにかくは、策の通りに動くように申しつけよ。我も出る。」

軍神は、深く頭を下げた。

「では、ご指示をお待ちします。」

そうして、軍神はそこを出て行く。公青は、侍女達に合図して甲冑を持って来させると、それを身に着けながら暗くなった空を睨んだ…夜明け前に。月の宮を落としてみせようぞ。


炎嘉は、栄や頼を始めとする幾つかの宮から次々と訪問を受けて、事の次第は知っていた。しかし、今度の事は月の宮との取り決めで手を出さぬということになっている。

維心には知らせを入れたが、あちらも手出し出来ないのは同じ事だった。なので、とにかくは庇護を求めて来た宮には軍を送り、何かの折りには守れるようにとだけ計らった。

維心は、炎嘉からの知らせを受けて世を睨みながら、それが今夜の事であることを気取っていた。しかし、月の宮には知らせを送らなかった…月に、見えない事などないからだ。

「…行くぞ、十六夜よ。」維心は、小さく呟いた。「確かに、その力を侮る奴らに見せ付けてやるがよい。」

まさにその時、公青は宮を出ていた。


嘉韻は、ただ数十人の軍神だけを連れて、月の宮に隣接する宮の上空に浮いていた。先程から、おびただしい数の神の気を感じる…しかも、それはぐるりと月の宮を囲むようにして、じっと潜んでいるようだった。明人が、嘉韻に寄って来て言った。

「見たこともねぇ数だぞ、嘉韻。」明人も、数人の軍神を連れていた。「ざっと見ただけでも10万。いったいあいつらは何をおっ始めようとしてるんだ。」

嘉韻は、ちらと明人を見た。

「なんでも、月を討ち取るのだそうだぞ?龍王と神世のためだとか。己の利の為に、いろいろ考えるものよな。」

明人は、空に現れている月を見上げた。

「十六夜は、心配すんなと言ってたが、ほんとに大丈夫なのか?確かに結界は何人がかりでも破れないだろうが、ここらは結界外だ。戦になれば草も残らねぇよ。」

嘉韻は、同じように空を見上げた。

「王は、最初だけ念のためここに居ろとおっしゃった。後は見ていろとの。今まで何もして来られなかった王が、ついに手を下される。我らも心して見ておこうぞ。」

明人は、頷いた。

「本気になった月ってのを見れるいい機会だ。守ってばっかりだった月の宮の、実力が示されるなら、オレはこんなことも願ったりだと思うね。」

嘉韻はしかし、厳しい顔で明人を見た。

「…このようなこと、本来起こってはならぬのだ。しかし、碧黎様がおっしゃるには、起こるべくして起こったことだと。」

明人は、驚いたように両眉を上げた。

「起こるべくして?これが?」

嘉韻は頷いた。

「我はそこにおらなんだが、維月がそのように。」と、小さく息を付いた。「今まで、龍王や炎嘉様などが、我が王をお助けして、そうしてこの月の宮は成り立っておったであろう?我が王も、それが当然と、困られたらいつもあのお二人を頼っておった。あのお二人も、また当然のように我が王を庇護しておられた。しかし、そうではならぬと。神世に、力を示し、己の力だけでここを守り、歯向かうものを無くすことが此度のことが起こった理由であろうとの。」

明人は、難しい顔をした。

「…別に、今までそうしてやって来たじゃねぇか。なんで今更なんでぇ。」

嘉韻は、また月を見上げた。

「世は、刻々と変わる。」と、美しい顔を月の光に向けながら言った。「新しい神も現れる。そうすると、必要も変わって来るのだ。」

明人は、長く息を付いた。

「ああ、確かにそうだな。」と、嘉韻に並んで月を見上げた。「どっちにしても、オレ達にとっても初めてのことだ。王が、神を殺めるなんてことは、あり得ないと思っていたんだがな。」

その時だった。

嘉韻と明人、それにそこに居た全ての軍神達が、一斉に回りを見た。間違いない…今…。

「配置に付け!」嘉韻が叫んだ。「二つの宮を守れ!」

しかし、人数はほんの数十人。とてもこの人数では全てを止めるのは無理だった。しかし、王は念のため始めだけとおっしゃった。それだけなら、あんな寄せ集めでは今の月の宮の軍神達の敵ではない。

明人が、同じように叫んで軍神達を率いて自分の持ち場へと戻って行く。嘉韻は、まだ目視は出来ないそのおびただしい数の軍神達の闘気を、睨むように前方を見据えた。かなりの数が、この月の宮へ向けて一気に攻め上って来る…。

「来るが良い。」嘉韻は、不敵に微かに笑った。「王がお許しになる間だけ、相手をしてやろうぞ。」

そして、目の前に横一線に、果てが無いほどに並んだ軍神達が見えた。

嘉韻は、刀を抜いて闘気を解放した。

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