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元へ

何かの力が、三人を捕らえた。

しかし、いつまで経っても思っていたような衝撃はない。ただ、自分の体の全体から何かが抜け去って行くような感覚があった。

命が抜ける感覚か?

頼は思っていたが、それにしてもおかしい。自分はしっかりとまだ立っているし、隣の二人も倒れるような様子もない。

そのうちに、その光はすーっと消えて行った。

維心が、言った。

「さ、終わりぞ。で、沙汰であるが、主ら一ヶ月謹慎しておったゆえそれで不問に臥そう。」

頼は、びっくりしたように維心を見上げた。どういうことだ?

「そのような…あのようなことをしでかしたのに、でございまするか?!」

維心は、手を振った。

「主らの、結界を無事に抜けて参った時点で、我はもう主らが心に何も持っておらぬことを知ったのだ。あの結界、抜ける時身の内を何かに探られるような気がせなんだか?そこで腹に何か持っておったなら、その何かを消そうと我の術が主らを殺しておったろうの。しかし我の結界は、常そんな風ではない。あれは主らのために特別に作ったもの。主らの心から身の隅々まで調べさせてもろうたが、このひと月で、まあ王らしゅうなったことよ。維月にひと月待てと言われて待っておったが、待った甲斐があったというもの。」

三人は、呆気に取られている。実久が、言った。

「しかし…しかし維心殿、では今の光は?」

維心は、頷いた。

「ああ、我の気の残照を始末したのだ。何も隠せぬように隅々まで見たと言うたであろうが。そのままでは具合が悪うなるゆえの。」

頼と実久は、蒔を見た。蒔の顔色は、よくなっていた。

「そのような…維月殿を、滅しようとした我らなのに。」

それには、維心は眉を寄せた。

「我は、決して許さぬと思うておった。だが、維月がの。あれは簡単に殺すことを否と言う。なのでひと月待ったのではないか。感謝するが良いわ。」と、ふーっと息をついた。「まあ、主らの一族のことを考えると、主らはまだ世に残ってしなければならぬことがある。それに、まだ未熟な若い王。此度だけは多めに見ようぞ。だがしかし、次はない。次は一時も待つことなく一族諸とも瞬時に滅する。主らの宮ごと消滅させることが、我には一人で出来るからの。それをゆめ、忘れるでないぞ。」

頼は、まだ半信半疑だった。あれほどに激怒していた龍王が、これで済むはずはない。何かあるのでは…背を向けた途端に、背後から消されるとか。

しかし、別に背後から襲わなくても、簡単に自分達を殺してしまえるだろうことは、頼にも分かっていた。維心は、玉座で伸びをした。

「さて、さっきも言うたが我は妃を待たせておるのだ。」と足を出口へと向けた。「これからの主らの動向、よう見させてもらうゆえの。重々心得て行動するが良いぞ。ではの。」

そうして、維心は出て行った。

茫然とする三人に、慎怜が歩み寄って来た。

「では、出発口にご案内致しまする。」

慎怜に引きずられるように、三人はただ茫然としたまま龍の宮を後にせざるを得なかった。


「維月!」

維心が、機嫌よく戻って来た。維月が、パッと明るい顔をすると、維心に急いで歩み寄った。

「お帰りなさいませ!」

維心に抱きつくと、維心は嬉しそうに維月を抱き寄せて頬を摺り寄せた。

「僅かな間であるのに主は…そのように。」

そう言いながらも、維心はそれは嬉しそうだった。維月は、気遣わしげに維心を見上げた。

「お仕事はうまくまとまりましたか?」

維心は、頷いた。

「ああ、あれらも成長しておることが分かったゆえな。我は、未来に掛けてみることにしたのだ。主と話しておった通りにの、維月。あれらにも、機を与えねばならぬのだ。」

維月は、ホッとしたように肩の力を抜いて、そして維心を抱きしめた。

「その通りでございまするわ。維心様には、大変にお心が大きな良い王であられること。」

維心は、さらに機嫌よく維月を抱いて椅子へと腰掛けた。維月は、そんな維心の胸に身を寄せながら、ひと月前ここへ戻って来た時のことを思い出していた。


ひと月前、十六夜と炎嘉も共にここへと戻った維心は、開口一番、言った。

「此度は栄の体に障ってもと思うたし退いたが、本当ならあの場で滅してやりたかったほどぞ!維月を黄泉へ送るなどと恐ろしいことを考えるような輩を、生かして置いては先々何をしよるか分からぬ!」

炎嘉は、そんな維心をなだめるように言った。

「主の気持ちは分かる。我とて維月を殺すなどという輩は、滅してしまって然るべきだと思う。だがの、あやつらは殺すという気持ちではなく栄に会わせたいという気持ちであったのだ。そのように感情的になるでない、主は維月が絡むと途端に王らしゅうなくなる。あれほど冷静な主が、回りが見えぬようになるのよ。」

維心は、歯軋りした。

「何とでも言えば良いわ。我は、栄が落ち着いたならあれらを処刑する。」

十六夜が、維心を嗜めるように言った。

「こら維心、お前はもう、殺すなんていつでも出来るだろうが。まずは、あいつらにもチャンスをやれよ。まだ若いんだ、後先考えない時もあるさ。」

しかし維心は、聞く耳を持っていなかった。

「知らぬ!我から維月を奪おうなどという輩は、全て消し去ってやるだけぞ!」と、奥へと足を向けた。「維月、来い!もう休む!」

取り付く島もない。維月は、先に奥へと入って行く維心を見ながら、十六夜に耳打ちした。

「とにかく、任せて。どうにかしてみるわ。」

炎嘉は、そんな維月を同情気味に見た。

「主も苦労するの、前世も今生も。」

そんな炎嘉に、困ったように微笑んで見せた維月は、まだ怒って呼んでいる維心の元へと、足早に入って行ったのだった。


維月は、維心にひと月だけ沙汰を待って欲しいと申し出て、渋々了承させた。

そして、それから維心にべったりで過ごした。

常に維心を見て置いて、何かあったら言う前にすぐに横へ駆けつけて身を摺り寄せた。そして、言う前に茶を出し、言う前に側に行き、言う前に自分から維心を探し、夜も維心を逆に押し倒すぐらいの勢いで接した。

そうして、政務にもついて行くと我がままだと知っていながら無理を言い、立ち合いも謁見も全て一緒に出た。果ては会合も一緒に行くとついて行った…いつも、維心だけで行く神の王の会合であるのにだ。

そうして、維心のストーカーのごとく一緒に居るうちに、維心はすっかり穏やかになり、幸せそうな気を発するようになった。

二週間も経った頃、居間でべったりと座っていると、維心が言った。

「それにしても…最近はどうしたのだ、維月?ずっと我について参っておるではないか。常はいつなり庭や宮の中をうろうろとしておって、我の方が探すのが大変なほどだったのに。」

維月は、そんな維心に身を摺り寄せた。

「まあ。此度のことで、維心様がどんなに大切であるか、実感致しましたの。確かに頼様達がしたことは悪いことかも知れませぬが、私にとっては、それに気付かせてくれた、良い経験でございましたわ。」

維心は、驚いたような顔をした。

「男にされた上、死に掛けたのに?」

維月は、頷いた。

「はい。まず男になったことで、私はもう、維心様に愛される資格がないのだと思いました。なので、必死に女に戻りたいと思いましたの。なのに、維心様は私が男でも良いと言ってくださった。維心様が身を変えるからと。」

維心は、頷いた。

「主が主であったら良いからの。」

維月は、維心の頬にそっと口付けた。

「そんな風に思うてくださっていたなんて…私はとても嬉しかったのですわ。維心様を愛しているのだと、あれでまた再認識致しましてございます。」

維心は、考え込むような顔をした。

「…そのように思うたのか。」

維月は、頷いた。そして、続けた。

「それから、栄様のことですわ。私は、自分で自分の気を扱えないから、栄様を死なせてしまったのだと己を責めておりました。維心様は、栄様を連れ帰って命を戻してくださった。私の憂いを、ああして消し去ってくださったのですわ。あれは、維心様でなければ出来ぬことでした。」と、維心の頬に優しく触れて、撫でた。「そのように貴重な素晴らしいかたですのに。私はお側を離れて居れるでしょうか。いつなり側に居たいと思うのですわ。」

維心は、維月の真剣な目に、思わず抱き寄せた。

「おお維月よ。そのように思うてくれておったとは…。いくらでも側に居れば良いぞ。何処へなりと連れて参るゆえ。会合の宮へは連れていけるゆえ…会合の間にまでは無理であるが。」

つい最近で困ったのがそれだったので、維心は言った。維月は、それを聞いて密かに苦笑した。確かに、あれは言いすぎたかも。会合の間には、王しか入れない決まりになっているのに、私を置いて行かれるのですか、と駄々をこねたのだ。維心は困った末に神世の理だけは曲げられないので、一人で入って行き、ものの30分もしない間に飛んで出て来た。会合を最速で済ませて出て来たのだ…炎嘉によると、苛々と外ばかり伺っていて、とても話など聞ける状態ではなかったのだそうだ。

そこまで想ってくれる維心を維月は本当に愛していた。しかし、こうしてストーカーを演じているのは、ひとえに頼達のためだった。維心は、余裕が出て来ると、本来の神世の王としての判断が出来るようになる。普段、維月がらみでさえなければ、維心は普通に神の王の王で、それは的確で早い判断が出来るのだが、維月が絡んで来ると感情的になってしまい、ましてその命を狙うなど、維心が何より恐ろしい、維月を失うことに直結するので、余裕がなくなって正常な判断が出来なくなってしまうのだ。

そんな訳で維月は、維心の心に余裕を取り戻させようと、必死に維心について回っていた。すると、三週間目が終わる頃には、頼達の沙汰のことにも、維月の話を聞くようになり、そして、炎嘉ともそのことについて落ち着いて論じられるようになっていた。

「まだ、200歳を越えたばかりと聞いた。」維心はある日、維月に言った。「ならば、まだ判断は付かぬの。死んだ友の想い人に会わせたいと単純に考えてもおかしくはない。許されることではないが、機を与えても良いか。」

維月はその時も隣りに居たので、微笑んで頷いた。

「はい…。若気の至りというものもございますし。きっと、謹慎しておるこの間にも、きっと成長しておることでしょう。」

維心は、考え込むような顔をした。

「…そうよの。ここへ呼ぼう。」維心は、維月に微笑み掛けた。「あれらの胸のうちを、調べる方法があるのだ。我が結界に、細工をしようぞ。それで見極める。もしも悪い気持ちがあるなら、己で己を殺すことになろうがの。結界を抜けて来れたら、我はあれらに猶予を与える。しかし、二度はない。」

維月は、微笑んだ。

「まあ、良い考えであること。」

維心は頷いて、兆加に書状を書かせた。

そうして、頼、実久、蒔は龍の宮へと呼ばれたのだった。

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