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検証

庭へ降り立った三人の大きな気の持ち主に、宮からは大勢の軍神が出て来た。そして、降り立ったのが龍王と鷹王、そして、南の王だと知った軍神達は、慌てて膝をついた…そんな王達が、一斉に宮を訪れるなど、公式には絶対にあり得ないことだったからだ。

清が、慌てたように駆け出して来て、深く頭を下げた。清が何も知らず、そして何の関わりもないことを知っていた炎嘉は、言った。

「主に用があるのではない。ここに、頼と実久、蒔がまだ居ろう。」

清は、小刻みに震えながら頷いた。

「はい。しかしながら、皆気を失って庭に倒れておりまして…訳が分からず、ただ今宮の治癒の者達に見せておる状態でございます。」

すると、いつもは黙っているだけの維心が進み出て言った。

「あやつらは我が妃に大変な無礼を働いたかどで罰する。だが、その前に申し開きの機会を与えてやろういうのだ。寝て居る場合ではないわ。」

箔炎が、維心の横へ進み出て言った。

「こら主は。そのようにいきなり上からでは清には訳が分からぬわ。何も知らぬ顔をしておるではないか。」

炎嘉が、頷いて箔炎を見た。

「ああ、清は何も知らぬ。」そして、清に向かって三人の記憶の玉を見せた。「これを戻さねばあやつらは気付くことはない。我の術が掛かっておるからの。案内せい。」

清は、戸惑いながらもまた頭を下げると、先に立って宮の方へと歩いた。その後を、炎嘉を先頭に、維心、箔炎は並んでついて入って行った。


客間には、三人が並んで寝かされていた。回りに、この宮の治癒の龍達が囲んでいる。清が入って行くと、皆こちらを振り返った。

「良い。」清は行って、手を振った。「後は、こちらの王が。主らは、ここを出よ。」

治癒の者達は驚いた顔をしたが、王の言うことなので頭を下げて次々と出て行った。炎嘉は、それを見てからすぐに三人に近寄ると、記憶の玉を宙へと浮かべた。そして、目を閉じると、炎嘉の体から出た白い気がその玉へと流れ込んで、その後目の前に横たわる三人それぞれの体へと飛び込むように流れ込んで行った。

「…うまく戻るかの。」

箔炎が、誰にとも無く呟く。維心は、ぐっと眉根を寄せてそれを見ていた。自分も、何度もやったことだが、記憶の玉はなかなかに戻らないことの方が多かった。維心がこんなことをするということは、その相手は間違いなく世を動かすような悪事を働いたからで、その悪事の記憶を抜き去っていた訳なのだから、それを戻そうとすると本能的に拒絶することが多いのだ。誰も、罪の記憶など欲しくはないということなのだろう。

しかし、自分がしたことが間違っていないと思っていたのなら話は別だった。驚くほどすんなり戻る…それは、罪を償おうという強い意志を持っている場合でも同じだった。つまりは、すんなり戻った時は、このうちのどちらかということだ。

炎嘉からの、光が収まる。維心が、言った。

「すんなり受け入れたの。さて、こやつらの場合はどちらかの。」

箔炎は、怪訝な顔で維心を見た。維心は、箔炎にふふんと笑って見せた。

「主のように長く篭って面倒を引き受けて来なかった王には分かるまいの。こやつらは簡単に記憶を受け入れたであろう…これは珍しいことぞ。それでこの記憶に対しての、こやつらの思いが分かるというもの。」

次々に、首を振って頼が、実久が、蒔が身を起こした。まだふらふらとしているが、それでも皆命に別状がないのは見て分かった。清が、三人に近寄って言った。

「いったい、何をしたのだ!ここに炎嘉殿始め龍王、鷹王まで迎えるほどの大事など、我は父王の代でも聞いた事がない!頼…兄上がいらしたら、いったい何とおっしゃることか!」

頼は、やっとはっきりして来た頭を振って、清の後ろに居る三人を見た。そして、覚悟を決めた。

「主には関係のないことぞ。黙っておれ、清。」頼は言って、立ち上がった。「炎嘉殿、記憶を見られたか。」

炎嘉は、厳しい顔つきで頷いた。

「皆の。維心も、碧黎も…ああ、主が知っている碧黎ではないがの。皆、主らの記憶を見て全て知っている。」

維心が、怒りを押さえ付けて三人を見た。それでも充分に圧力を感じた…何しろ、心底怒っているのだ。

「一族もろとも今すぐにでも滅してやりたいが、妃が助かれば皆殺しはせずにおく。のち、一族が神世で生きにくくなるのを避けるため、告示も控えてやろうぞ。しかし、我が妃に何かあろうものなら我が直々に何もかもを殲滅し、神世へ見せしめとしようぞ。書庫で、主らのかけた術の書を調べよ。このままでは、月の二人が黄泉へと引きずられる…陽が陰を助けようと、自分の命の中に取り込んで留めておるが、どこまで持つかわからぬ。」

頼は、じっと黙っている。しかし、実久が答えた。

「頼の宮の、書庫でございまする。」頼が、驚いた顔で実久を見る。実久は、頼を見た。「頼、我らの責務は民を守ること。いくら友のためと言うて、あれらを犠牲になど出来ぬ。我らの勝手な感情のせいで、ここまで来た。だが、発覚した今、優先するのは民の命ぞ。栄は、決して民を危険には晒さなかった。」

頼は、下を向いた。確かにそうだ…栄は、何事にも冷静で考えが深く、自分のように何でも思い付きで行動するような神ではなかった…。

「こちらへ。」頼は、窓に歩み寄った。「ご案内し申す。」

そうして、頼、実久、蒔について、維心、炎嘉、箔炎は頼の宮へと向かった。


頼の宮でも、いきなり大きな気の神達が三人も来たので大騒ぎをしていた。しかし、頼はそんなことに構うこともなく、書庫へと直行した。書庫は、あの記憶のままに、最後に三人が術を掛けた後のそのままの状態でそこにあった。維心が、ずかずかと記憶の通りの場所へと歩み寄ると、辺りを見回した。

「どの巻物ぞ!」

炎嘉が、同じように後ろから来て言った。

「背が深緑のものぞ。お、あれか!」

すると、蒔が横から違う巻物を差し出した。

「いえ、こちらに。皆でこれを見て考えていたので…。」

実久が、側のいくつかの開いたままの巻物を指した。

「こちらが、香料として使った術のもの。こちらが、風味を増す術でありまする。」

維心が、蒔から受け取った巻物を調べながらそれを聞いて眉をしかめた。

「…またいろいろと掛けおってからに、鬱陶しいの!解くのにややこしいではないか。」

箔炎が、ため息をついてそのうちの一つを持ち上げた。

「そうでもないぞ、維心。これがあるから、術が薄まる可能性もあるゆえ。にしても、短い間によう考えたものよ。感心するわ。」

性転換の巻物を見ていた維心が、どんどんと眉を寄せて行く。横から見ていた炎嘉も、同様だった。箔炎は、顔を上げた。

「どうした?解き方が分かったか。」

炎嘉が、こちらを見た。

「だから、これは掛けたら最後、解けぬ術なのだ。通常なら術者が死ねば終わりであるのに、死んでも解けぬ。ただ一つの元に戻す方法、それが、もう一度術を掛ける方法。だが、そうすると命を落とす。なので、かける前に重々聞けと書いていあるのだ。」

維心は、宙を見て言った。

「ならば…どうやって維月を連れ帰る。」維心は、必死だった。「今頃黄泉に居よう。我が行って連れ帰っても、月なので、勝手が違う。術が掛かっている限り黄泉が呼ぶとなると、また行ってしまう可能性がある。どうにか出来ぬのか…我が力がこれほど役に立たぬとは。」

箔炎が、その巻物を手にとって見た。

「ふむ…これは薬として煎じて飲ませるのだの。仙術も仙人によって方法が変わるとは面白いことよな。」

維心と炎嘉が、驚いたように箔炎を見た。箔炎は、びっくりしたように二人を見返した。「…何ぞ?」

「今、主仙人によって違うと言うたな。他にこんな術はあると申すか。」

意外なことに、箔炎は頷いた。

「ある。彎の巻物を覚えておるだろうが。あれを、一度片っ端から読んだ時に確かにあったわ。あっちは解き方があったぞ。」箔炎は、頭の中の文字を読むように目を上へ向けた。「ええっと、『共通の術の解き方その六』。」

またそれか。

維心は思った。しかし、確かその共通の解き方の巻物は月の宮にあった。

「それで解けぬかの。」

炎嘉が、首をかしげた。

「違う種類の術であるぞ?無理ではないか。何しろ術を作った仙人が違うのだ。」

維心は、眉を寄せた。

「しかし試してみて損はあるまい。この仙術は解けぬと、こっちの仙人は書き残しておるのだ。性転換の術など、波動は同じではないのか。」

箔炎が、割り込んだ。

「乱暴な。そのような単純なものではないから、我ら昔から苦労しておるのではないか。仙術はの、簡単にかけるものではないのだ。何しろ、仙人とは言うて人が作ったもの。自分でも扱えぬような術を、人は使うものであるからの。」

それを、じっと頼と実久と蒔は聞いている。維心は、それをちらと見てふんと鼻を鳴らした。

「神であっても同じことよ。人ばかりが後先考えぬのではないわ。」

箔炎は、ため息をついた。

「そのようなこと、今言うても仕方があるまいが。では、我はその術が記されてあった巻物を持って参ろうぞ。主らは、月の宮へ念を飛ばして聞くが良い。蒼が答えるであろうから。」

そう言うと、箔炎はそこを出て行った。炎嘉が、維心に言った。

「維心、怒っておっても先へは進まぬのだ。主は維月のこととなるとそうやって感情的になるであろうが。少し冷静に物事を考えるのだ。」と、書庫の窓を開けて空を見た。「十六夜?主、落ち着いておるようよな。」

すると、意外にも十六夜が答えた。

《何か維月がじっとしててくれてるのか、あっちから引っ張る力が緩くなったんでぇ。今は、おとなしくオレの命の中に留まってる状態だ。で、解けそうか?》

炎嘉は、首を振った。

「いや、やはり一筋縄では行かぬようよ。この仙術を考えた仙人は解けぬと書き残しておる。術者が死んでも駄目らしい。なので、箔炎が今宮へ、彎が遺していた巻物を取りに行っておるのだ。その中に、同じく性転換の術があったらしくてな。全ての術に対する解き方とか何とか言う項目が載った巻物、月の宮にあったの。その六を調べるように蒼に言うてくれぬか。」

《またあれかよ。わかった、調べるように言うよ。じゃあな。》

十六夜の声は、途切れた。炎嘉は、維心を振り返った。

「こんな単純なことで解けるのか。我はならぬと思うがの。」

維心は、眉を寄せたまま言った。

「しかしそれしかないのだから、とにかくは試してみるよりあるまいが。だが、碧黎に聞いてみるのが良いの。あやつは波動を読むことに誰よりも長けておるから。」

炎嘉は、頷いた。

「よし。」と、宙に向かって言った。「碧黎!聞きたいことがある。」

すると、周囲の空気が一瞬のうちに集まって人型になった。

青い髪に青い瞳の、碧黎がそこに浮いていた。

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