表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/103

栄と頼、実久、蒔は、幼い頃から父王に連れられて、同じように仲が良かった父王同士の繋がりで、しょっちゅう会っては遊び回って育って来た。父王同士も、同じぐらいの歳で、いつも相談し合っていろいろな対応などを決めていたので、頼達の代に代わってからも、同じように常に話し合っていろいろなことを決めて来た。もちろん、遊ぶ時も共にと、皆同じように人世などに出かけてみたりなどしたものだったが、やんちゃで何でもすぐに瞬発的に決めてしまう頼、そんな頼と同じような性格ではあるが少し落ち着いた実久、真面目で謹厳な性格の栄、そんな三人について来て皆に倣う、回りの空気を読むことに長けていて従順で優しい性格の蒔の四人は、政務のような話の時には栄が、遊びの話の時には頼が主導権を握って皆を取りまとめ、それでも上手くやっていた。

そんな時に、少し離れた所に住むが、同じぐらいの宮の格である麗鎖と崎が、月の宮の運動会という行事に当選したとの噂が駆け巡った。頼は、興奮した様子で、栄に会いに飛んだ。

「栄!聞いたか、麗鎖と崎が、月の宮の行事に出るのだぞ!あのような宮に、招かれるとは大変なことではないか!」

栄は、落ち着いた様子で居間の椅子に座って巻物から目を上げた。

「頼。主はまた…あれはクジであると聞いたぞ。月の宮は、何に対しても平等であるからの。何にしろ、我らには関係のないことぞ。」

しかし、頼は首を振った。

「各宮二人ずつであるなら、あの宮へ観戦に行けるのだぞ!事前に申し込まねばならぬが、そうしたらあちらから招待状が届くのだ。それを持って、月の宮の結界へ我らでも入ることが出来る!」

栄は、ため息をついた。

「我は良い。騒がしいのは何かと面倒だからの。それに、臣下達が妃の候補を連れて参るとか言うておった日と調度被るのだ。出かけるなどと言うたら、うるさかろう?」

頼は、腰に手を当てて呆れたように栄を見た。

「栄…だからこそよ。主、今まで女相手の遊びすらしたこともないではないか。いつなり誘いを断りおってからに。此度、たくさんの宮の女達も来ると聞く。一度外の世界の女達を見て、目を肥やしておくことぞ。さすれば、妃の候補の中から選ぶ際にも、間違いはなかろうて。」

栄は、それでも首を振った。

「主は行けば良かろうが。我は良いよ。興味もない。」

頼は、それでも食い下がった。

「月の宮へ一度行っておけば、それからの出入りがしやすくなろうぞ。」栄が、ぴくりと反応した。頼は続けた。「あの宮と、繋がりを持って置くのは宮のため。これから、政務もしやすくなろう。」

栄は、ちらと頼を見た。頼が、固唾を飲んで答えを待っていると、栄は、フッと息をついて、頷いた。

「分かった。それも道理。では、臣下に観覧の申し込みをさせておこう。それで良いの?」

頼は、ぱあっと明るい顔をして、窓から飛び立ちながら言った。

「では、実久にも蒔にも申して来るわ!ではの、栄!」

頼が飛び立って行くのを、栄は苦笑しながら見送っていた。


ほどなくして月の宮から招待状が届き、各宮二人ずつとのことだったので、頼と蒔は筆頭重臣を、実久は妹を、栄は清を連れて、月の宮へと向かって飛び立った。

軍神達は、中へは入れないと聞いていたので、外で待つようにと命じ、六人は逸る胸を押さえながら、初めての地、月の宮結界内へと入った。

そこは、今まで見たこともないほどに清浄な気が満ち、月の癒しの気が降り注ぐまさに神にとって夢のような地だった。龍王から贈られたという宮は石造りで強固なもので、それは大きく美しいものだった。こんなものは、見たことがない…。

六人は、ただただ圧倒されていた。

招待状をコロシアムの入り口で提示すると、席に案内された。それはたくさんの神がひしめき合う中、頼は興奮気味に言った。

「あれを見よ、何をするものかの?」

下の訓練場の上に、背の高い籠のようなものが二つ立てられてあるのだ。栄は、首をかしげた。

「見たこともないの。何やら気を取り上げられて、体の力のみで人のように戦うのだとか。」

実久が、顔を紅潮させて言った。

「月の宮の催しは、いつなり珍しいのだと聞いた。今日は、面白いものが見れようぞ。」

そうして、六人は、始まった競技に目を輝かせて見入って、声援を送ったりしながら、時が過ぎるのも忘れていたのだった。


競技の合間、栄がふと、横を見た。頼は、次は何かと実久とプログラムを見るのに必死で、そちらを見ていなかった。

「借り物競争と書いてある。これは何か?ああしかし、これが終わったら途中休憩に入るらしいぞ。」

しかし、隣りの栄に言っているのに、返事がない。頼は、プログラムから顔を上げた。

「栄?」

栄は、ハッとしたようにこちらを見た。

「え?ああ…少し、神の多さに酔ったようぞ。我は、席を外す。」

頼は、驚いて栄を見た。

「大丈夫か?ついて参るぞ。」

しかし、栄は首を振った。

「良い。子供ではあるまいに。すぐに戻る。」

栄は、いつもの栄らしくない慌てるような仕草で立ち上がると、まるで何かを追うようにそこを立って通路を上がって行った。蒔が、気遣わしげにそれを見送っていたが、立ち上がった。

「我が、見て参るよ。主らは、このまま観戦しておれば良い。」

そう言って、蒔は栄の後を追って行った。

蒔は、声を掛けようと思ったのだが、栄の様子がおかしかった。いつなり落ち着いている栄に似合わず、何かを探すようにきょろきょろと見回しながら、知らない建物の通路を進んで行く。怪訝に思いながら、蒔はその後を息を潜めるようにそっとついて行った。

すると、栄が不意に足を止めた。そして、そのまま根が生えたようにそこに立ち尽くして何かを見ている。蒔が、なんだろうと先を見ると、そこには驚くほどに珍しい気を放つ、美しい黒髪の女が階段を上がろうとしているところだった。最初は後姿ではあったが、その女は途中立ち止まって、横の壁に開いた窓からコロシアムの方の様子を見たので、立ち止まって横を向いたのだ。

蒔は、その驚くほどに心地よい気に、逆に危機感を感じてすぐに遮断の気を発した。しかし、栄はまともに浴びてしまっている…蒔はどうしたものかと思ったが、栄がそのままそこに立っているので、今更そこに出て行くことも出来なくて、黙って見ていた。すると、その女は昇りかけていた階段を上らずに、またこちらへ向かって歩いて来た。そして、栄を見て驚いたような顔をしたかと思うと、微笑んだ。

「あら。道に迷われましたか?」

栄は、いつも冷静な栄に似合わずしどろもどろに答えた。

「ああ…その、このように大きな建物、経験がないゆえに。」

相手は、微笑んで頷いた。

「観覧席であるなら、ここを戻られて階段を降り、左へ行けば出ることが出来まする。外へ出られるのなら、右へ。ここを上がっても、貴賓席があるだけで、他には何もありませぬわ。私も混雑が苦手であるので、上へ参ろうかと思うたのですけれど、小さくしか見えないなあと思って。戻ろうかと思うておりまする。」

栄は、そこの窓から下を見た。

「確かに。しかし、我も混雑は好きではないので、もう少しここで。」

相手は、微笑んで頭を下げた。

「はい。では、ごきげんよう。」

相手は、それは美しい女だった。気の強そうな、凛とした雰囲気があるのに、気は珍しい癒しの気と、それに何か誘うような気も混じっているような気だった。

蒔は横へと潜んで相手が通り過ぎるのに任せた。栄は、すぐにその後を追って、相手の行く先を目で追った。すると、階段を降り始めた維月は、前から昇って来た男…月の宮の王だ…に、話し掛けた。

「あら、蒼?もう借り物競争終わったの?」

とても、他人ではない感じだ。すると、蒼も駆け寄った。

「母さん!靴、貸して!」

維月は、びっくりして言った。

「え、競技中っ?!いいけど、私の靴なの?!え、え?」

「妃の靴なんだよ!母さん、維心様の妃なんだから、母さんの靴でもいいんだ!」と、靴を拾うと、駆け出した。「ありがとう!維心様は、筆頭重臣を探してらしたよ!」

蒼は、そのまま走っていく。競技の最中らしい。維月も、何かを考えていたようだったが、急に駆け出して急いで降りて行った。

蒔は、茫然とそれを見送っていた…あれは、陰の月だ。噂の、龍王が溺愛しているという、転生しても正妃に迎えたほど執心している、龍王妃。

蒔は、身震いした…確かに、捕まれば逃れることなど出来ないほどに、慕わしい気だった。あれは、確かに龍王であろうとも抗えぬであろう…。珍しいものを見た。

「蒔。」栄の声に、蒔は慌てて振り返った。栄のことを、忘れていた。栄は、蒔をじっと見て言った。「このこと、頼達には言うでないぞ。あれらに、無用な心配を掛けることになってしまう。」

蒔は、顔色を青くした。まさか、栄…。

栄は、蒔の顔色を見て、真剣な顔で頷いた。

「龍王妃であるとは、思わなかった。」栄は、見る見る思いつめたように、目を潤ませた。「あのような気、初めてであった。なので、席を立って行くのを見て、追って来たのだ。まさか、我が一目でこのような気持ちに囚われてしまうとは…。龍王妃など、本来話すことも出来ぬ。我らなど、足元にも及ばぬ高い位置に居る女であるのに。分かっておるのに、我は…!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ