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維月が、維心の対から十六夜と自分の部屋へと戻って来ると、そこでは十六夜と箔炎が座って話していた。入って来た維月を見た十六夜は、維月に手を出した。

「ああ維月。もう行くのか?」

維月は、頷いて十六夜の手を握った。

「ええ。ごめんなさいね、ゆっくり出来なくて。こっちへ来ようとしても、此度は里帰りではないって、維心様が怒るんだもの。」

十六夜は、苦笑して維月を抱き寄せた。

「ああ、あいつはいつもそうだ。いいよ、またすぐに迎えに行くから。確かに今回は、ごたごたを収めに来ただけだもんな。」

維月は、箔炎が居るので少し遠慮がちに十六夜を見た。十六夜は、それでも抱き寄せた腕を放さなかった。

「何を遠慮することがある?ここはオレ達の部屋なんだぞ。」

箔炎が、それを聞いて頷いた。

「まあ確かに。別に我は気にせぬよ。前の我ならうるさかったであろうが、今は主らの母を心底想うておるからな。」と、立ち上がった。「では、維心がうるさいであろう?龍の宮へ向かうか。」

維月は、頷いた。

「はい。もうあちらを出る前から、早く戻れとそればかり。十六夜に、少し挨拶に出て来ると言っただけなのに。」

箔炎は笑った。

「どこまであれは心配性なのか。主を側から離したくなくて仕方がないのだろうの。では、行くか。」

箔炎は、そう言って歩き出して、側の壁にかけてある額にふと目が行った。それは美しい文字で書かれた和歌だ。それは、陽華が好んで眺めている、人の世の歌集に収められている歌のうちの一つだった。

きみがため 惜しからざりし 命さえ ながくもながと 思いけるかな

箔炎がそれを見てじっと佇んでいるのに気付いた維月が、ポッと頬を染めた。

「ああ…それは、あの、とても美しい文字でしょう?」

箔炎は、頷いた。

「維心の字よ。あれは、滅多に己で筆を取らぬが、我はあれの字を知っておるからの。」

維月は、バレたか、というような顔で十六夜を見た。十六夜は、苦笑して言った。

「維月に向けて、維心が書いた和歌らしいぞ。維月が和歌なんて書けないから、もうある和歌から探して書くのがいつものことらしい。これは、前世に書いたもんなんだ。維月が気に入って、ずっと持ってたから、こうして飾っといたらいつでも見れるだろうってさ。」

維月は、赤くなったまま下を向いた。

「維心様は、とてもお優しいから。その、こういうものをくれる時って。これを見ると、その時のことが想い出されて、とても暖かい気持ちになるので。」

箔炎は、維月も本当に維心を想っているのだと微笑ましい気持ちになった。

「そうか。主らは真に思い合っておるのだな。片割れの十六夜だけではなかったか。」と、またその和歌を見た。「良い和歌を見た。我は、昔この歌を見た時には意味が分からなかったものだが、今は分かる。まさに、我の気持ちそのまま…陽華に、送ってやりたいもの。維心ほどに、美しい文字は書けぬがの。」

そうして、まだ苦笑している十六夜と三人で、その部屋を出て出発口へと急いだのだった。


十六夜と蒼に見送られて月の宮を飛び立った維心と維月、箔炎は、将維と維明が待つ龍の宮へと到着した。

宮の到着口には、しかし将維と維明のほかに、箔翔と帝羽も待っていた。維心が、何事かと思いつつも無表情で抱いていた維月を下ろして皆の前に立つと、将維が頭を下げた。

「お戻りをお待ちしておりました。」

維心が、頷いた。

「箔翔の顔まで見えるが、何事か。もはや王であるのだから、軽く遊戯に参ったという訳でもあるまい。」

それには、箔翔が答えた。

「は。昨日は確かに維明に会う為に参ったのですが、その後父上に確認したいことが出来、お待ちしておりました。」

箔炎が、維心に並んだ。

「ならば宮で待てばよかろう。なぜにわざわざここで。」

将維が、横から言った。

「とにかくは、こちらへ。ここでお話するようなことでもありませぬので。」

維心が、頷いて維月の手を取った。

「ならば我の居間へ。維月が居っても良いの?」

将維は、頷いた。

「はい。特に問題はないかと。」

維月には、何のことなのか皆目見当もつかなかったが、それでも黙って維心について、居間への慣れた道を歩いた。その後ろから、箔炎と将維、それに箔翔、維明、帝羽が続いて、ぞろぞろと向かったのだった。


居間へ着くと、維心はいつもの定位置の椅子に、維月を伴って座った。皆、思い思いの椅子へと散って座る。見ると、将維と維明はこちら側、箔炎は窓際、箔翔と帝羽は並んで維心に向かい合う形に座っていた。維心は、皆が座るのを待って、言った。

「して、箔炎に何を確認させようと言うのだ。帝羽も居るが、これに関係することか?」

将維は、維心の察しがいいのに驚きながらも、頷いた。

「は。まずは、これをご覧ください。」

将維は、そう言って箔翔と帝羽に頷き掛けた。二人は黙って、同時に手のひらをひっくり返すと、その上にポッと気を発生させた。

二人共に、橙色に近い赤い気が揺らめいている。それを見た維心は、一瞬息を飲んだ。

「維心様?」

維月が、横から不思議そうに維心を見上げる。維心は、ハッとして維月を見ると、黙って自分も同じように手の平を返して気を発生させた。

その色は、青白い色だった。

「これは、何でしょうか?」

維月が、横からその気を指でつんつんと突付いて言った。維心は、くすぐったそうに微かに息を漏らして笑ったが、言った。

「我の気。こうして、色を見ることも出来るのだ。何の力も篭めず、ただ己の気だけを出すとこうして真実持っている色が出る。」

と、維明と将維に頷き掛けた。二人も、同じように手のひらを返して気を発生させる。維心と全く同じ色の気が、そこに現われた。維心が、それを見て言った。

「よう見ると分かるであろう?僅かに違うが、我らの色はほぼ同じ。同じ血縁であるということだ。稀に、違った血であってもそっくりの色が出ることがあるが、それでもそんなことは滅多にない。これらが我の血筋である証であるな。」

維月は、それを聞いて口を押さえた。ということは、帝羽と箔翔は…。

維月が箔炎を見ると、皆が同じように箔炎を見ていた。箔炎はその意図を察して、ため息をついたかと思うと、手の平を返して自分の気を発現させた。

その色は、帝羽と箔翔と全く同じ、橙色に近い赤色だった。

「…主の子か。」

維心が言うと、箔炎は、頷いた。

「そのようよ。どうやら龍であるが、しかし気は我と同じ。ならば主は、安芸(あき)の子か。」

帝羽は、びっくりしたように目を見開いた。それが、母の名だったからだ。

「母を、覚えておられるのか。」

箔炎は、頷いた。

「我が相手をした、唯一の龍であったからの。あれは維心の結界内にも住まず、たった一人北の離れた位置にたった一人で暮らしておった。暮らし向きも貧しいようで…最初に会った時は、あれは房というには粗末過ぎる、納屋のような場所に住んでおった。」

帝羽は、眉を寄せた。

「しかし…母は、小さな物ではあるが、きちんとした屋敷に住んでおり申した。我も、そこで10になるまで居ったので。」

箔炎は、頷いた。

「そう。我が与えたのだ。あれが我の相手をする代わりに、住む場所が欲しいと言うたのだ。妃の扱いはせぬと言うたら、そうではなく、一夜と引き換えに、屋敷をくれと。それからは何も、決して言わぬからと。なので、面白いことを言う女だと思うて、龍であったが相手をした。我はの、もしも己の子が出来た時に、龍には血で負けるゆえ、万一のことを考えて、決して龍は相手にせなんだのだ。だが、唯一相手をした龍のあれは我の子を宿したのであるの。あの約束通り、あれは何も言うてこなんだゆえ、分からなかった。」

帝羽は、その事実を聞いて、下を向きながらも、答えた。

「母は…決して父の名を口にはしませなんだ。その地位さえも言わぬまま、病で亡うなった。」

箔炎は、目を見開いた。

「…死んだか。」そして、視線を落とした。「まあ、体の強い方ではないようであったからの。ゆえ、どうしてもまともな住処が欲しかったようだった。真実、あの一夜だけしか会ってはおらぬが、あのようなことを言うた女は初めてであったので、覚えておるよ。」

そう、維月にも通じるような芯の強さを感じる女だった。箔炎がそう思いを馳せていると、維心が言った。

「では、主はこれが己の子であると認めるのであるな。」

箔炎は、じっと帝羽を見つめた。気を読んでいるのは、その目で分かった。帝羽が、緊張気味にしていると、しばらくして、箔炎は頷いた。

「間違いなく、我の気。こやつは、我の子ぞ。箔翔よりは、数十年年下であるな。」

箔翔は、ホッとしたように帝羽を見て微笑した。帝羽は、戸惑いがちに微笑して返した。維月が、それを見て袖で口を押さえて嬉しそうに微笑んだ。

「まあ、良かったこと。箔翔には弟が居ったのでございまするわね。箔炎様にも、お子がたくさん居られて心強いこと。帝羽は、とても優秀な神であると聞いておりまする。血は争えないということでしょうか。」

それには、箔翔が嬉しげに答えた。

「は、維月殿。我は維明と帝羽の三人で立ち合いを致しましたが、帝羽には全く敵わなんだ。もっと精進せねばと、維明とも話しておったところなのだ。」

維月は、頷いた。

「維明にも、良い競争相手が出来て良かったわ。そう思いませぬか、維心様?」

維心は、維月に微笑み返した。

「確かにそうよな。維明にも、兄弟が居っても良いのやもしれぬぞ。維月、そろそろもう一人どうか?」

維月は、少し赤くなりながら言った。

「ま、まあ…このような場でそのような。娘が出来たら育てるのに自信がないとおっしゃっておったのは維心様でございまするのに。男とは限りませぬのよ?」

維心は、お構いなく維月を抱き寄せて頬を摺り寄せた。

「良い。のう、もう一人。前世は六人も居ったのに、今生は維明だけとは心もとないの。維明も、寂しいであろうて。」

維月は、困って皆を気にしながら言った。

「もう、維心様。後で。後でお話し致しましょう。」

箔炎は、呆れたように手を振った。

「維心、主は変わったの。そのように妃に甘えおってからに。しかし、維月も主を想うておるという。主らはそれでうまく行っておるのであろうて。」と、立ち上がった。「さて、では我の確認は済んだの。地の宮へ行く前に、鷹の宮へ寄って帝羽のことを皆に話しておこうぞ。正式に、我の第二皇子と告示する。」

帝羽は、急いで立ち上がった後、頭を下げた。箔炎は、頷いた。

「その後、どうするかは主次第ぞ。我は、もう宮を離れた隠居の身。主に対して何某かせよなどとは言わぬ。龍であるし、鷹ばかりの宮では過ごしにくかろうし、希望があれば申してみよ。我が希望がなるように話をつけよう。」

箔翔が、慌てて立ち上がった。

「父上、我は帝羽に政務を手伝ってもらいたいと思うておりまする。我が宮へ。」

箔炎は、あからさまに眉を寄せて箔翔を見た。

「政務を?主な、あれぐらいの政務、己で出来ずにどうする。何のために龍の宮で修行させておったと思うのだ。ここでこなせるなら、ここより少ない政務の我が宮なら楽であろうとの配慮からであるのだぞ。まさか、まだ慣れておらぬのではないだろうの。そういえば、宮はどうしたのだ。遊んでおるのだから、政務は滞りないか?」

箔翔は、それを聞いて気まずそうにした。玖伊からは、早く早くとせっつく書状が、今朝からひっきりなしに来ているのだ。箔炎は、それを見て大げさに溜め気を着いて見せた。

「いい加減にせよ。もう子供ではないのだぞ。王なのだ。鷹を任せておるのに。」と、維心を振り返った。「ああ、維心。ではもうしばらく帝羽の世話を頼んだぞ。我は箔翔を連れて宮へ戻り、これのことを話して参る。然る後にあちらへ連れて参って、皆に告示の宴でも開こうほどに。それからのことは、帝羽次第ぞ。」

維心は、維月の手を取って立ち上がった。それを見た将維も維明も、同時に立ち上がる。

「では、主の子を預かっておこうぞ。臣下達にも、それ相応の扱いを命じておく。」

維心が言い、箔炎は軽く会釈した。

「よろしく頼む。ではの。」

そうして、箔翔を軽く睨むと、先に立って歩いて行った。

箔翔は、維明と帝羽に小さく肩をすくめて箔炎について出て行ったのだった。

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