めだかのめ
掲載日:2013/05/03
月高き刻限のことだった。Hはテラスの茶黒い椅子に腰掛け、水槽に泳ぐ数匹のメダカを眺めていた。月の光でぼうっと浮かび上がる水槽内では、存在しないはずの流れに乗るようにメダカが漂う。Hはメダカの目を見つめた。まぶたを持たないメダカの目は、体の大きさに比して、嫌に大きく感じられた。
そう思いながらじっと見つめていると、Hはメダカの目の中に、広く奥深い青空が映っていることに気がついた。ちょうど数羽の白い鳥がその空を横切っているところだった。鳥の鳴き声まで聞こえたかもしれない。そんな青空を見ていると、徐々に夕刻に近づいたのか、空は群青色に変わり、そうして夜空になった。散りばめられた星々が煌めいている。星々は段々とこちらに近づいてきて、やがて大きな銀河として映し出された。
Hはメダカの瞳に小宇宙を見出したのだった。
もっとも、その小宇宙がメダカのものだったのか、或いはHのものが映し出されていたのかは知れないが。




