小雪
天気予報では、寒気がやってくるということもあってか、高校2年の井野嶽幌は、今年初めてのなべ料理を作っていた。
「多分、今年初めてのはず」
独り言を言いながら、出しの加減を味見して、鍋のふたを閉める。
ニュースでは、東北の平地で雪が降ったという話をしていた。
「こっちにくるのは、まだ先そうだね」
双子の姉である桜が、居間のテーブルに座ってくる幌に言った。
「とはいっても、時間の問題だけどね。もう小雪なわけだし」
「そういえば、小雪って女優がいたね」
「いるけども、今回のは二十四節気の一つの方だからな。そろそろ雪が降り始めるっていう頃のことを言うんだ」
「だから、こんなに寒くなってきたんだねぇ。そう言えば、今日の鍋って何鍋?」
「鳥つくね鍋。すこし出汁を工夫してみたんだ」
「幌のはいつもおいしいから、大丈夫。きっと今回のもおいしいから」
桜はそう言いながら、テレビをじっと見ていた。
だが、手は幌の方へ向いていた。