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逃げる
わたしは、早足で家に急ぐ。
なるべく、人のいる通りを選んでいく。
でも、わたしにはわかる。
彼はいまも、ついてきてる。
学校を出てからも、ずっと気配を感じていた。
何度も後ろを振り返るが、彼の姿はない。
死んでるから見えないだけ?
ほんとは、ずっとわたしを近くで見てるの?
もう一度、振り返ったとき、
「そこじゃないって」
ついに彼のあの乾いた声がした。
どこ?
周りを見渡すが、彼はいない。
知らない人が通り過ぎるだけ。
そのとき、そらが急に曇った。
いや、正確にはわたしの上だけが。
足元を見ると、わたしの体を横切るように影ができている。
上か…
どうしたらいい?
いや、彼は霊なんだ。
てことは、どこに逃げても無駄。
彼から逃げる場所なんて、ない。
わたしは、あきらめた。
そして、覚悟を決めた。
「わかったわ、あなたの好きにして。わたしが殺したんだよね。みんな、わたしのせい」
頭を上げて彼に向かって言った。
「やっと、わかったか。ただ、おれは死んでるからお前を殺せない。言ってる意味わかるよな」
と言ってニヤリと笑う。
不敵な笑み。
彼のあんな表情、初めて見た。




