無って
仮面はこの世界の成り立ちをひと通り説明した。
ここには天国と地獄、あと無という世界があるらしい。
わたしは訊ねた。
「無…ってなんですか?」
「自殺した人間が行く場所ですよ」
と即答。
自殺したら別の世界があるなんて…
知らなかった。
あのときのことをわたしは思いだしていた。
交通事故に遭った彼。
わたしのせいで殺してしまったと思った。
でも、彼は自殺じゃないと話してくれた。
だから、きっと無ではないはず。
地獄か天国なら会えるかもしれない。
けど…
無なら、わたしは彼に会えないってこと。
考えているわたしに仮面は、質問をした。
「あなたは振り返って幸せな人生でしたか?」
「はい、色々あったけど、わたしは十分に生きましたから」
さっきの女の子の顔がまだ浮かんでくる。
あの子は、わたしの何分の一も生きてないんだよ。
もう少し、生きていたかっただろうに…
「あなたは、優しいですね、今も自分のことを考えていない」
あっ、また失敗。
ここじゃ心が読めるって、つい忘れてしまう。
なら、どうせばれちゃうだろうし、気になってたあのことを訊いてみよう。
「ひとつ伺ってもいいです?」
「ええ、どうぞ」
「死んだ人間がふたりに分裂することなんてありますか?」
ずっと疑問だったこと…
彼はほんとに天国にいけたのかどうか?
二人でひとつ、
だったら彼の行動はどう考えても地獄行き。
「どうして、そんなことを…」
「もう昔のことですが、わたしの好きだったひとが善と悪のふたつに別れたんです。かれが死んだあとの話ですが」
「なるほど、そんなことがありましたか」
「はい…善のかれがわたしを守ってくれて、結局、二人とも消えてしまいました」
仮面は少し間をおいて答えた。
「わたしは、あくまで役人ですから残念ながらそこまではわかりません」
「そうでしょうね、変な質問ですみません」
「でも…」
わたしは、首を傾ける。
「ありえない話ではないでしょう。肉体と違って、心は塊じゃないですから分裂もするかもしれません。あなたの優しい気持ちが、その人に届いたなら善が悪に勝る可能性はあります。あくまで可能性ですけど…」
「だとしたら、あの人はわたしを天国から見守ってくれていた、と?」
「さっきの少女と、ちょうど逆の例ってことでしょうかね」
あの女の子にはまだ悪があった。
だから、地獄に行ってしまった。
彼はその悪に打ち勝った。
だから天国に行き、わたしを見ていてくれた。
「なら、わたしの考えは間違ってなかったんですね…よかった」
仮面が少しだけ、頷いたように見えた。




