潜む悪
「あんな小さな女の子をどうして?」
わたしは、強い口調で訊いた。
「理由は簡単、両親を殺したからですよ」
またまた、思いがけない答えが返ってくる。
わたしは敵意をこめながら、
「はぁ? あんな小さな女の子が、大人を殺せるわけないでしょ!?」
完全に素に戻った口調で言い返す。
「おっしゃる通り。たしかに現世での扱いは事故でした」
「…事故?」
「ライターで遊んでたら、火がついて燃え広がって家はほぼ全焼。両親はその場で死亡が確認。彼女は煙をあまり吸い込まず、一命を取りとめましたが…数日後に死亡。そして、ここに来たわけです」
「事故なのに、どうして地獄なのよ!」
彼のことを思い出していたのかもしれない。
必死で女の子をかばおうと反論。
「たしかに、他の裁判官なら天国に送って、家族に再会させてあげるでしょう。でも…」
「でも?」
「再会しても、きっとまた同じ繰り返しですから」
この人、ほんとに裁判官?
頭がおかしいよ。
言ってる意味が全然、わからない。
天国でも繰り返すって、また殺そうとするってこと?
天国じゃもう死なんてないでしょ?
すると、それを察知したように彼は言った。
「あ、いい忘れましたが、天国といっても現世に似た世界がまたあるだけで、あなたの考えているイメージとはきっと違います」
心、きっちりと伝わるんだったね。
あのとき彼から学んだこと忘れてたよ。
「でもあんな小さな子を地獄って…」
「わたしには、わかるんです。あの子の中にはまだ悪が残ったまま。火をつけたのも、両親に対する完 全な殺意でしたから」
「彼女は両親に会えるのを喜んでたのに?」
「あの子の中に潜む悪が、また殺せるとでも思って笑ったんでしょう」
「なんでそこまでわかるんですか。そんな神さまみたいな…」
「神さまなんて大げさですよ。わたしは裁判官として悪を見抜いて裁いただけのこと」
あんなに小さな女の子なのに、悪って…
目の前の相手を睨んだまま、わたしの怒りは収まらなかった。




