揺らぐ
(バカなことは、やめろ)
また、声が聞こえた。
彼は、まだいる…
急に力が抜けて、ナイフが手から落ちる。
「あなた、なの?」
(ああ)
「…どこ?」
わたしは、周りを見わたす。
(傷は大丈夫か?)
「これくらい、平気。あなたは、どこ?」
(おれは…もういない)
「でも、声が」
(声じゃない、おれの心さ)
あなたの心、それはわかってる。
影になったときもそうだった。
わたしの心をあなたは感じ取っていた。
わたしたちは心で会話してるんだよね。
だけど…
その影はさっき消えたはず。
(あいつの言った通りだ。おれにはずっとお前を暖かく見守ることなんかできない。それだけ好きだったんだ。あれくらいで心が揺らぐとはな)
あなたの心が揺らいだ。
だから、あいつがまた現れたのか。
でも、それはわたしを心配してくれたから。
わたしをそんなに好きでいてくれる人なんて…
あなた以外にいない。
「わたしには、あなたが必要なの。死んでるとか関係ない!」
わたしは見えない彼に向かって声をあらげて言う。
(大丈夫、ちゃんと空からお前を見てるさ)
それって、天国に行くってこと?
もういない、ってそういうこと?
わたしを守るため、影になってずっと一緒にいてくれるんじゃなかったの?
これじゃ話が違うよ…
「そんなの、やだっっっ!」
わたしは、めいっぱい叫んだ。




