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鉄の味

彼が笑いながら近づいてくる。

でも、夕方に見せてた笑顔じゃない。


あざけるような笑みで言った。


「それはもういい。おれがこの手で殺してやるよ」


でも、それはできないって。

だから、自殺させようとしたんじゃなかったの?


彼の手を見る。

あのときと同じ、ナイフが握られていた。

いや、正確には握ってない。

彼の手の前で、ゆらゆら浮いている。


「ほんとは、おれと同じ思いをさせて自分で死んでほしかったが…いつも邪魔が入るみたいだしな」


あの優しい彼はどこにいったの?

さっき、あの人と一緒にいたから?

わたしの気持ちが永遠じゃないって思うから?


でも、それが彼の出した答えなら…

いいよ。わたしの命はあなたのもの。


わたしは、立ったまま一歩も動かなかった。

目も閉じず、彼が近づいてくるのを待つ。


ナイフがわたしの心臓に迫る。

服に突き刺さった。


い、痛いっ。


彼はわざとゆっくり、わたしが苦しむのを

楽しむように少しずつナイフを進めていく。


ナイフがゆらゆら揺れながら、

左右に傷口をおし広げる。

グジュ、グジュッ…


肉体がえぐり取られていくような痛み。


わたしは両手を力いっぱい握りしめ、必死に唇を噛みしめた。


口のなかに鉄の味がじんわり広がってくる。


でも、彼も同じ痛みを味わったんだから…

わたしも、しっかり耐えないと。


だんだん、服が紅く染まってきた。


「さあ、あと少しの辛抱だぞ」


にやりと、彼が笑った。


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