悪い心
振り返るとそこに彼がいた。
黒くない、前までの彼。
彼は言った。
「お前は、操られてるんだ」
「…操られてるって?」
彼がすまなさそうに、
「おれの邪心がお前をそうさせてた…」
と言って頭を下げる。
邪心って、悪い心だよね?
じゃあ、どっちも彼ってこと?
わたしの頭は混乱。
でも、この声はいつも聞いてた懐かしい声色。
「正直、おれはあいつから話を聞いたとき、嫉妬したし、お前に対して憎しみを抱いた」
当然だよね…
「それでおれの心はバラバラになったんだ。そして死んだあと、おれの悪い心がお前にとりついた。おれは勝てなかった」
勝ち、ってそういうことだったのか。
「でも、お前がおれとのことを思い出してくれたり指輪を大切に守ってる姿をみて…」
もう、わたしの影は何もしゃべらない。
「おれの悪い心、弱い心はもう消えたんだ」
さっきまで話してたのはあなたの悪い心だった?
それが消えたから、影はしゃべらなくなった?
わたしは彼に目で語りかける。
彼は暖かい眼差しで応える。
それからわたしに、
「おい、これ忘れ物だっ」
そう言ってわたしに携帯を手渡した。
「壊れてはないみたいだけど、もう凶器には使うんじゃないぞ」
彼は笑いながら言う。
いつも見ていた笑顔。
二日しか経ってないのに、なんか懐かしかった。
「おれは死んでもお前をいつも見てるからな」
彼はそう言い残して、わたしの影に吸い込まれていった。
まるで夢を見ているようだった。
でも、ちゃんと彼に会えた。
彼の笑顔をもう一度、見れた。
たとえ、夢でもいい。
わたしは嬉しかったんだ。




