タバコ
あの場所に到着すると、そこには先客がいた。
あの人だ。
わたしは見えないように隠れて、その姿を見てた。
彼は、たくさん置かれた花束の前にしゃがんで、手を合わせている。
悲しそうな横顔。
あの人も、やっぱり悲しいんだ。
ごめん、あなたを少し誤解してたかも…
やっぱり、彼の親友だったんだね。
あの人は立ち上がると信号のほうに歩いていく。
あれ?
信号まだ赤だよ?
車が来てる…
危ないっ。
わたしは、目を閉じた。
でも、悲鳴もブレーキ音も聞こえない。
車の通り過ぎる音がするだけ。
目を開けると、そこにあの人はいなかった。
わたしの見間違い?
とりあえず、事故は起きてない。
わたし疲れてるの、かな…
あの人に続いて、わたしも花束の前にしゃがむ。
お線香の代わりに、タバコが置かれて…
まだ火がついている。
そういえば、いつだったか二人でこっそり学校のトイレで、タバコを吸ってるのがばれて先生に怒られたって言ってたっけ。
線香の代わりにタバコって…
なんか、あの人らしいね。
わたしは、タバコ吸う人なんて嫌いだから!
って、彼に怒ったけど…
もう、吸えないんだもんね、一本くらいいっか。
ここで、あなたは死んだんだ。
まだ、うっすらと道路に紅い跡が残ってた。
痛かったよね、しんどかったよね。
わたしのせいで…ほんとにごめんなさい。
目を閉じて、手を合わせた。
「じゃ、そろそろ時間だな」
後ろから再び声がした。
わたしは振り返って見上げる。
この前より、さらに色黒になってる彼。
まるで、何かに焦げたみたい。
見ていて、痛々しい。
「せいぜい、おれの辛さを味わって死になよ」
わたしは、もう何も抵抗してないのに…
あなたは、なんでそんなに冷たいの?
もうすぐ、そこにいくんだから…
もう少し、優しい態度を最後くらい見せて欲しかった。
でも、それも勝手なわがままか。
わたしは、信号の前に立った。
国道だから、この前のときより車の速度が速い。
通り過ぎるたびに、風が体中に当たる。
突き刺すような冷たい風が。
足が前に進まない。
彼が真後ろから冷たく言う。
「さあ、行けよ」
前を見たら怖くて進めない。
足元だけを見て、少しずつ前に進む。
そのとき…
あれ?
なんか、おかしい。




