ベンチ
翌日、わたしはいつも通り制服に着替えて、
行ってきます、と言って家を出た。
いつもと違ったのは…
わたしの左薬指にあの指輪があったこと。
と、家を出て学校と反対の方向に歩いていたこと。
死ぬ決心は、一晩、寝ても変わってなかった。
ただ、その前に行きたい場所があったんだ。
冬のこの時期は、さすがに人もまばら。
しかも平日だし、当たり前か。
わたしは、あのときのベンチを探す。
あ、あそこだ。
わたしは、ひとりベンチに座る。
懐かしい公園。
初めて彼に告白された場所。
あのときは、周りにはカップルばかりだったけど…
今日は親子連れと、サラリーマンが数人だけ。
ひとり、じっと座っていると寒くなるくらい今日は冷え込んでる。今晩あたり、雪かもな。
あのあと、何度もこの公園に来たよね。
ふたりの思い出の場所。
雨が降ってるのに、ベンチに座ってひとつだけ傘をさして、ぼんやりと二人で景色を眺めてたこともあったなぁ。
それだけなのに、幸せだった。
何もしなくても、ただ一緒に寄り添ってるだけで、あなたを感じてるだけで、心は満たされてた。
今になって、あのころの気持ちに気づくなんて…
あなたの家に行く前にここに立ち寄ればよかった。
かもね。
でも、今さら思っても仕方ない。
あなたはもう戻ってこないんだから。
「その通り、後悔なんか無意味なだけだ」
後ろから声がした。
「やっと、決心したみたいだな」
わたしは素直に、うん、と答える。
「でも、もう少しだけここにいさせてね。あなたとの思い出をしっかり焼きつけてから死にたいの」
「勝手にするがいいさ」
そういい残すと、彼の声はもうしなかった。
いつまで見ていても、飽きなかった。
わたしは、2年間の思い出に浸っていた。
目の前を、小学生たちが通り過ぎる。
あ、もうこんな時間なんだ。
太陽の光が弱々しくわたしを照らす。
そろそろ、行かないとね。
ありがとう、わたしたちの思い出の公園。
わたしは、立ち上がってあの場所に向かった。




