斜め前
うとうとしながら、午後の授業を受ける。
そのとき、
「眠いよな」
あっ、彼!
…じゃなくって、
あいつ、の声が聞こえた。
うとうとの夢からの声、じゃないよね?
彼の席に目をやった。
うっすらと背中が浮かび上がってる。
まるで影のように…
他のみんなは気づいていない。
やっぱり、わたしだけ見えてるんだ。
あいつの声が、耳元あたりで聞こえる。
「机にこんなもん置きやがって。それで終わりか、寂しいもんだな」
わたしは、小声でささやく。
「教科書、返してよ」
「はぁ?」
呆れたような反応。
「何も知らないんだな。おれはやってないぞ 」
「…でも、ないの」
「そんなことするのは、こいつさ。まぁ、よく見てなよ」
あいつの背中越しに腕が伸びていく。
そして、斜め前の席を指差した。
その指先にわたしは目を向ける。
きれいな黒髪がサラサラと揺れてる。
あの子は…
たしかあの人に告白して振られたって
いつだったか噂された子。
わたしより全然、可愛くてクラスの人気者、
あの人の女の子バージョンって感じ。
あの子が…?
「少しは状況が理解できたか?」
頭のなかを整理していく。
あの人と戻ってきたとき、
たしかに輪の真ん中に彼女はいた。
ご飯のとき、
友達はあの子のグループに入って、一緒に食べていた。
…そういうことか。
彼女に言いくるめられたんだね。
恋愛が絡むとなんか、人間って卑怯だな。
女子は特に…
あ、でも、わたしも同類か。
「お前はずっと、その環境で暮らしていくんだ。 これからも、しんどい思いをするだけだぞ」
あいつが真面目ぶって話をしていく。
だけど、結局はわたしを殺したいだけ。
やつからの死の誘い。
のったらだめ。
だめ。
だ…
でも、事実かもしれないな。
人間なんて、みんな自分勝手なだけ…
指差された子の背中を授業が終わるまで、
ずっと睨みつけながら考えていた。




