くたびれヒーロー
太郎は疲れていた。
怪人ローション仮面との激闘——全身をぬめりで包まれながらも死力を尽くし、シャワーを四十分浴びてやっと人間に戻ったばかりだ。もはや自炊などという高尚な営みに割くエネルギーは残っていない。
万年金欠の身でありながら、太郎はコンビニへと足を向けた。
贅沢か? そう思うかもしれない。だがコンビニを舐めるな。季節のスイーツ、ホットスナック、弁当、おにぎり——疲弊した現代人の砦として、あの蛍光灯の白い光はいつだってそこにある。暗闇の中に浮かぶあの光を見るたびに、太郎は思う。ヒーローより先に発明されたものが、もしかしたら人類を一番救っているんじゃないかと。
そして今夜も、奴はいた。
俺を食え。
鶏の唐揚げ弁当・特盛、580円(税抜)。パッケージ越しにすら伝わってくる脂の照りと、むっちりとした存在感。誰が抗えようというのか。太郎には無理だった。人類には無理だと思う。少なくとも、ローション仮面に勝てる人類よりずっと多くの人間が、この唐揚げには敗北しているはずだ。
戦利品の弁当と、脂を胃ごと洗い流すためのストロングゼロを一本。
レジへ向かおうとした太郎の足が、止まった。
雑誌コーナー。蛍光灯の下に並んだ背表紙の群れ。その中の一冊が、確かに太郎の目を引いた。
——『週刊ヒーロー ちょっとえっちなヴィラン特集号!』
太郎は紳士である。
ゆえに、断じて「ちょっとえっちな」という七文字に反応したわけではない。ヒーローたる者、『週刊ヒーロー』を読まずして何がヒーローか。純粋な使命感と職業倫理——その二点のみに従い、静かに手を伸ばした。
表紙はすこしつるりとしていて、ページをめくるとざらりとした紙の感触が指に馴染む。
ああ、これだ。なんとなく、懐かしい。
ガキの頃はよく親に買ってもらって読んでたっけな。ヒーロー図鑑に技の解説、必殺技ランキング。あの頃は純粋だった。今の俺だって純粋だ。動機は同じだ。絶対に。
ノスタルジーを感じながら期待を込めてページを捲る。
さてさてどんなヴィランちゃんが俺を待っているのか——。
「超セクシャニズム! 植物型ヴィランのここがエロい! 超花粉大爆発サービスシーン!!」
太郎はそっとページを閉じた。
三秒、沈黙。
……きっと疲れているのだ。ローション仮面との激闘で、視覚情報の処理能力が低下しているのだ。だから今見たものは読めていない。白昼夢に近い何かだ。見ていない。
見ていないが——花粉か、と太郎は思った。なるほど、植物型ヴィランに花粉。理にかなっている。理にかなっているが、それはそれとして今夜はもう考えない。
太郎は弁当とストロングゼロをレジに差し出した。雑誌は棚に戻した。当然だ。紳士だから。
家に帰って、ストゼロを飲んで、唐揚げを食って、何もかも忘れよう。
——明日も、どこかで誰かが困っているだろうから。




