決められたこと
親ガチャ。
この世界では、それがすべてだ。
人は生まれた瞬間に決まる。
職も、立場も、結婚相手も。
変わらない。
変える必要もない。
それが決められたことだからだ。
彼は、完璧だった。
決められた通りに動き、
決められた通りに笑い、
決められた通りに生きていた。
誰よりも正確で、
誰よりも“正しい”。
俺は、それを見ていた。
同じ紙を持っているはずなのに、
俺は、時々ずれる。
少しだけ、遅れる。
少しだけ、違うことを考える。
例えば——
笑うはずの場面で、
一瞬だけ、何も感じなかったことがある。
その瞬間、
頭の奥が強く痛んだ。
思考が押し戻される。
「違う」と、
何かに言われた気がした。
次の瞬間には、
ちゃんと笑っていた。
何もなかったように。
でも、彼は違う。
一度も、ずれない。
間違えない。
迷わない。
考えない。
ただ、正確に生きている。
怖いと思った。
あれは、本当に人間なのか。
ある日、彼が言った。
「すべて、分かっている」
笑いながら。
「でも、それでいい」
その言葉に、
違和感はなかった。
むしろ、自然だった。
それが、この世界の正しさだからだ。
俺は、紙を見た。
そこには書かれている。
「彼を理解するな」
少しだけ、息が止まる。
理解した瞬間、
戻れなくなる気がした。
視線を上げる。
彼は、まだ笑っている。
完璧なまま。
一度も、揺らぐことなく。
俺は、考えるのをやめた。
それが、正しいからだ。
——そう思ったはずなのに、
ほんの少しだけ、
遅れた気がした。
当たり前の中にある違和感は、
本当に間違いなのか。
それとも——




