第7話 隠していた名前
朝。
葛城家のリビングは、
妙に静かだった。
テレビはついている。
だが、
誰も見ていない。
亮は、
ソファに座ったまま、
考え込んでいた。
――もう、限界だ。
あみは、
キッチンでマグカップを持ったまま、
立ち尽くしている。
兄が、
何かを隠している。
確信している。
「お兄ちゃん」
あみが口を開く。
「昨日の工業地帯のこと」
亮の肩が、
僅かに揺れる。
「私ね……」
あみは、
勇気を振り絞る。
「見た」
沈黙。
「無名剣士の人」
亮は、
ゆっくり顔を上げる。
「背中、
お兄ちゃんだった」
逃げ場は、
もう無い。
亮は、
長く息を吐く。
「……あみ」
名前を呼ぶ。
「話さなきゃ、
いけないことがある」
テーブルを挟んで、
二人は向き合う。
「俺は……」
言葉が詰まる。
「異世界に、
行ってた」
あみは、
瞬きをする。
「は?」
「召喚されて、
戦ってた」
笑われると思った。
信じてもらえないと、
思った。
「……本気?」
あみの声は、
震えている。
「勇者として」
あみの口が、
ゆっくり開く。
「勇者……」
亮は頷く。
「だから、
強い」
「だから、
隠してた」
あみは、
俯く。
「なんで……
言ってくれなかったの」
「言ったら、
普通に生きられなくなる」
「危ない目に、
巻き込みたくなかった」
あみは、
拳を握る。
「……バカ」
顔を上げる。
涙が、
溜まっている。
「お兄ちゃんが、
一人で背負う方が、
嫌だよ」
亮は、
言葉を失う。
「怖かったんでしょ?」
「……ああ」
「それでもさ」
あみは、
涙を拭く。
「それでも、
お兄ちゃんでしょ」
胸が、
熱くなる。
「勇者でも、
無職でも」
あみは、
小さく笑う。
「私の兄だよ」
亮は、
俯いたまま、
小さく頷く。
「……ごめん」
「もう、
一人で決めないで」
「ああ」
二人の間に、
静かな時間が流れる。
その日。
亮は、
一つ決めた。
妹には、
隠さない。
それだけで、
少し楽になった。
だが。
外の世界は、
待ってくれない。
ギルドは、
すでに動いている。




