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第6話 勇者だった頃

 


 夜。


 


 部屋の電気を消しても、

 葛城亮は眠れなかった。


 


 天井を見つめる。


 


 まぶたを閉じると、

 あの世界が浮かぶ。


 


 思い出したくない。


 だが、

 忘れることもできない。


 


 


 ――召喚されたのは、

 高校二年の春だった。


 


 突然、

 白い光に包まれ、

 気付けば石造りの広間。


 


 見知らぬ大人たち。

 見知らぬ言語。


 


 だが、

 言葉は理解できた。


 


 後で知った。


 


 それが

 【翻訳自動】というスキルだと。


 


 


「勇者よ。

 我らの世界を救ってほしい」


 


 王にそう告げられた。


 


 断る選択肢は、

 与えられなかった。


 


 


 剣を渡された。


 


 ステータスを測られた。


 


 周囲が、

 どよめいた。


 


「史上最高値……」


 


 その日から、

 亮は“勇者”になった。


 


 


 最初の頃。


 


 怖かった。


 


 剣を握る手が、

 震えた。


 


 魔物を斬ったとき、

 吐いた。


 


 それでも。


 


 周囲は言う。


 


「さすが勇者様!」

「希望だ!」


 


 逃げ場はなかった。


 


 


 仲間ができた。


 


 剣士の青年。

 魔法使いの少女。

 回復役の神官。


 


 皆、優しかった。


 


 だからこそ。


 


 失った。


 


 


 魔王城、最終決戦。


 


 罠。


 


 仲間の一人が、

 致命傷を負う。


 


「亮……

 前に進め……」


 


 助けられなかった。


 


 回復魔法を使っても、

 間に合わなかった。


 


 


 次の仲間も倒れた。


 


 亮は、

 叫びながら剣を振るった。


 


 


 魔王を討った。


 


 世界は救われた。


 


 だが。


 


 仲間は戻らなかった。


 


 


 英雄になった。


 


 称えられた。


 


 だが、

 亮の中は空っぽだった。


 


 


「……もう、

 誰も失いたくない」


 


 


 現実世界。


 


 亮は、

 ベッドの上で身を起こす。


 


 額に汗。


 


「……だから、

 隠れたんだ」


 


 強いと分かれば、

 戦場に引きずり出される。


 


 期待される。


 


 死ぬまで戦えと言われる。


 


 それが、

 怖かった。


 


 


 スマホを見る。


 


 あみからのメッセージ。


 


『今日はありがとう。

 無事だったよ』


 


 短い文。


 


 だが。


 


 胸が、

 少しだけ軽くなる。


 


 


「……俺は」


 


 呟く。


 


「勇者じゃなくていい」


 


 でも。


 


 妹が危ないなら。


 


 誰かが泣くなら。


 


 


「……剣は取る」


 


 


 亮は、

 ゆっくり立ち上がる。


 


 覚悟が、

 少しだけ固まった。


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