第5話 それでも、剣を取る
深夜。
街の外れ。
誰もいないはずの工業地帯に、
サイレンの音が響いていた。
探索者ギルドからの
緊急警報。
『中規模ゲート発生。
座標、工業地帯南区画』
亮は、
ベッドから起き上がる。
「……来たか」
嫌な予感が、
当たってしまった。
スマホを確認する。
同時刻。
あみのギルド用端末にも、
通知が届いているはずだ。
亮は歯を噛み締める。
「行かせるわけには……」
一方。
あみは、
装備を身につけていた。
「中規模って……
Dランクじゃ無理でしょ……」
だが、
ギルドからの招集だ。
断れない。
工業地帯。
空間が、
大きく歪んでいる。
黒い渦。
小型ゲートとは、
明らかに違う。
集まったのは、
Bランク数名、
Cランク多数、
Dランク少数。
あみは、
端で待機していた。
「無理しない、
無理しない……」
自分に言い聞かせる。
ゲートが、
開く。
現れたのは、
人型の魔物。
黒い鎧。
赤い目。
周囲の魔物とは、
明らかに格が違う。
「……幹部級だ」
誰かが呟く。
戦闘が始まる。
Bランクが突撃する。
だが。
吹き飛ばされる。
「ぐあっ!」
Cランクが魔法を放つ。
効かない。
「そんな……」
戦線が崩れる。
遠くから、
亮はそれを見ていた。
完全隠蔽を維持したまま、
建物の屋上。
あみの姿を見つける。
「……くそ」
亮は決断する。
隠す。
守れない。
亮は、
屋上から飛び降りる。
着地の衝撃を、
完全に殺す。
人型魔物の背後。
見えない剣を形成。
一閃。
魔物の腕が、
吹き飛ぶ。
「――何者だ」
魔物が喋った。
周囲が凍りつく。
亮は答えない。
さらに踏み込む。
二閃。
三閃。
だが。
魔物は、
完全には倒れない。
「貴様……
この世界の者ではないな」
亮の動きが止まる。
魔王軍。
間違いない。
「勇者の匂いがする」
亮は舌打ちする。
「……黙れ」
亮は、
ほんの一瞬だけ、
出力を上げる。
見えない剣が、
淡く光る。
一撃。
人型魔物は、
霧となって消えた。
静寂。
周囲のダイバーたちは、
言葉を失っている。
亮は振り返らず、
その場を離れる。
あみは、
遠くからその背中を見る。
「……お兄ちゃん?」
声にならない声。
確信が、
生まれてしまった。
その夜。
ネットは、
再び荒れた。
『無名剣士、幹部級撃破』
亮は、
スマホを見て溜息をつく。
「……やっぱり、
隠れられないか」
だが。
あみの無事な姿を思い出す。
「……それでもいい」
守れた。
それだけで、
十分だ。




