第2話 映ってはいけない剣
小野裕子は、
スマートフォンの画面を見つめていた。
「……配信、開始」
軽く深呼吸してから、
カメラを自分に向ける。
「やっほー、裕子ちゃんねるです!
今日は夜のソロ探索だよー!」
コメントが流れ始める。
〈待ってました〉
〈今日もかわいい〉
〈無茶すんなよ〉
裕子は十七歳。
Cランク配信ダイバー。
探索と戦闘を配信し、
投げ銭と広告収入で生活している。
正直に言えば、
戦闘は得意ではない。
だが、
目立たなければ生きていけない。
「今日はね、
倉庫街方面で
反応が出てるらしいの」
夜の倉庫街は、
人気が少ない。
街灯の光が弱く、
影が濃い。
「Cランク想定だから、
たぶん大丈夫!」
自分に言い聞かせるように、
裕子は笑う。
だが。
歩き始めてすぐ、
違和感を覚えた。
空気が重い。
肌が、
ひりつく。
「……ちょっと、
嫌な感じ」
地面から、
黒い霧が滲み出す。
ゲート。
「聞いてないんだけど……」
裕子は後退する。
霧の中から、
魔物が現れた。
犬型。
鋭い牙。
「ちょ、ちょっと待って!」
短剣を構える。
コメント欄が荒れる。
〈逃げろ〉
〈Cランクじゃ無理〉
〈援軍呼べ〉
裕子は通信ボタンに
指を伸ばす。
その瞬間。
魔物の体が、
縦に割れた。
「……え?」
裕子は固まる。
何が起きたのか、
理解できない。
次の瞬間。
画面の端に、
一人の男が映る。
黒髪。
パーカー姿。
手には、
何も持っていない。
だが。
空気が、
歪んでいる。
男が一歩踏み出す。
見えない剣が振るわれる。
魔物は、
抵抗する間もなく消えた。
静寂。
「……誰?」
裕子の声が震える。
男は振り返らない。
そのまま、
闇へ消える。
「ちょ、待って!」
叫んでも、
返事はない。
コメント欄が爆発する。
〈今の何〉
〈剣見えない〉
〈人間?〉
裕子は、
スマホを握り締める。
心臓が、
うるさい。
「私……
とんでもないの、
映しちゃった……?」
その夜。
裕子は、
迷った末に
切り抜き動画を投稿した。
タイトル。
『正体不明の剣士』
数時間後。
再生数は、
一万を超えた。
二万。
三万。
勢いが止まらない。
コメントが増え続ける。
〈本物ならヤバい〉
〈異世界帰還者?〉
〈ギルド案件だろ〉
裕子の手が、
震える。
「……どうしよう」
怖い。
でも。
少しだけ。
嬉しい。
自分の動画が、
注目されている。
その感情を、
否定できない。
同じ頃。
葛城亮は、
自室で天井を見つめていた。
嫌な予感が、
消えない。
「……誰かに、
見られたな」
溜息をつく。
もう、
隠れきれないかもしれない。
それでも。
亮は決めている。
最後まで、
足掻く。
普通の生活を、
守るために。




