第10話 名を捨て、名を名乗る
夜明け前。
湾岸第七区は、
戦場の跡だった。
瓦礫。
焦げたアスファルト。
横たわる探索者たち。
医療班が、
必死に治療を行っている。
亮は、
瓦礫の上に立ち、
空を見上げていた。
「……分身で、
あの強さか」
背後から、
足音。
「葛城亮」
振り返ると、
桜庭源次。
「もう、
隠すのは無理だな」
「……ああ」
「世間は、
無名剣士の正体を
探し始めている」
亮は、
少し黙る。
「公開します」
桜庭が、
眉を上げる。
「条件がある」
「妹の情報は、
一切出さない」
「住所も、
顔も」
桜庭は、
頷く。
「約束しよう」
同日。
探索者ギルド、
緊急記者会見。
カメラのフラッシュ。
壇上に立つ、
フードの男。
ゆっくり、
フードを外す。
「私は、
葛城亮」
「異世界で、
勇者と呼ばれていた」
会場が、
凍り付く。
「これからも、
人類側として戦う」
「だが、
英雄になる気はない」
「守りたい人を、
守るだけだ」
その瞬間。
世界は、
彼の名を知った。
葛城亮。
勇者帰還者。
家。
テレビの前。
あみが、
拳を握る。
「……バカ兄」
だが。
笑っていた。
その夜。
亮は、
ベランダに立つ。
「……もう、
逃げない」
遠くで、
サイレンが鳴る。
戦いは、
始まったばかりだ。




