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第5話 失踪宣告の通知書

 冒険者ギルド。

 ヤマトは掲示板を見ていた。

 Eランクになったので、今まで受けられなかった依頼を受けられるようになった。

 当然、ランクが高い依頼のほうが報酬も多い。


「……これにしましょうか」


「結局また配送依頼かよ」


 しばらく悩んで1つの依頼書を手に取ったヤマトに、退屈そうにしているクロが愚痴った。


「もうちょっと割の良い仕事にしろよ。せっかくランクが上がったんだからさぁ」


「これだって『割の良い仕事』ですよ?

 報酬が今までの2倍です」


「マジ? え? なんで?」


「Eランクの仕事だからでしょうね」


「なんでEランクなんだ? 配送はFランクじゃないのか?」


 クロは首を傾げた。

 ヤマトがこれまでに受けてきた依頼はすべて配送。そしてFランクだった。

 なのでクロは、てっきり「配送はすべてFランク」と思っていたのだ。

 しかし、そんなわけがない。


「速達とか危険とかでランクは上がると思いますよ。

 Fランクの配送依頼は『ただ届ければいい』という内容ですから、たとえば『氷を溶ける前に届けろ』とかいう依頼はありません」


「ダイハードマンの配送は速達だったけどな」


 しかも危険だった。

 魔物があふれそうなダンジョンからの配送だったので。


「そういう仕事だったら、やめておきます。怖いので」


「やめるなよ。行けよ。せっかくだからさ」


「でもクロは戦ってくれませんからね」


 そういう契約じゃないから、とクロは戦うことを拒否する。

 巻き込んで戦わせるのも契約違反だ。


「ちょっとぐらい良いもの食わせろよ~」


「贅沢は敵です」


「戦時中か!」


「欲しがってはいけません、勝つまでは」


「戦時中かて! 何に勝つんだよ」


「一汁一菜」


「戦後か! 食糧難の標語じゃねーか」


「一汁一菜でよい」


「最近か! 『という提案』じゃねーよ。食わせろよ」


「だが断る」


「露伴か! もう何の脈絡もねーじゃねーか」


 騒ぐクロをいなしながら、ヤマトは受付カウンターへ。


「公文書の配送ですね。荷物は失踪宣告の通知書です」


 公文書とは、国や領地といった公的機関が発行した書類だ。国として何をしてどうなったかを記録するもので、支配を盤石にするための資料として活用するのが目的である。要するに「国家の業務日誌」だ。

 ひとくちに公文書といっても議事録からパンフレットまで多岐にわたるが、失踪宣告の通知書もこれに含まれる。しかもかなり重要な扱いだ。失踪宣告を受けると「死亡した」とみなされるので、たとえば冒険者ギルドに通達されて口座を凍結したり、その相続人から相続税を取り立てたり。

 再発行が可能で、到着の遅延もそれなりに許されるから「配送依頼としての重要度」は低めになるとはいえ、文書自体が持つ影響力は大きい。ゆえに冒険者ギルドもFランクでは受けられない設定にしている。


「ライト教会で通知書を受け取ってください。配送先は失踪人の娘ジェーンさんです。ジェーンさんは商業区の服屋サードストリートの店主です」


 受付嬢から説明を聞いて、まずはライト教会へ。

 そして通知書を受け取り、商業区へ向かう。

 商業区には様々な店が軒を連ねており、この街で生活していれば誰でも定期的に訪れることになる。

 ゆえに目的の店はすぐに見つかった。もっとも、ヤマトがその店に入るのは初めてだったが。


「こんにちは。黒猫ヤマトです」


「いらっしゃいませ。サードストリートへようこそ。

 貴族が作らせた新品の服を、役者がお下がりで貰って、3度目にこの店へ。

 いい服が揃ってますよ」


 家内制手工業の世界だ。服だってすべて手縫いで作られている。つまり「新品の服」は、イコール「オーダーメイド」である。

 ゆえに平民が新品の服を買うなんてことは金銭的に不可能。新品の服を買えるとしたら、よほどの大富豪だ。

 ならば平民はどうやって服を手に入れるのか? 答えはこういう店だ。古着屋である。その中でもこの店は「高級店」に当たる。なにしろ「原形」が残ったまま売っているのだ。


「あ、いえ。買い物に来たのではありません。荷物のお届けに参りました」


「あら、ご苦労さまです」


「荷物はこちらです」


「失踪宣告の通知書? ……ああ、親父の」


 封を開けて、中身を取り出し、さっと目を通す。

 父親の失踪宣告だというのに、店主ジェーンの反応は冷ややかだった。

 ヤマトは驚いた。

 そしてジェーンは、ヤマトが驚いたことに気づいて、少し気まずく思った。親が死んだと聞かされて平然としているのは、外聞が悪い。つい言い訳するように、聞かれてもいない事を話しだした。


「昔から、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。家に帰ってくる事なんて滅多にない男だったんですよ。どうも他の女のところへ行ってたようで……そんなだから、私って幼い頃は『オトーサン』という名前の男の人なんだ、って思ってました」


「にゃはははは! ジョナサンとかネイサンみたいに、ってことか」


 クロが笑う。

 人の失敗を笑うことを、ヤマトはしない。

 だが今のジェーンは、笑ってくれるなら助かると思った。父親の死を冷淡に受け止めることへの体裁を取り繕うだけでいいから、そんなに重い話にするつもりはないのだ。


「失踪宣告って、たしか行方不明になったまま7年で出るんでしたっけ?」


 ジェーンが通知書をヒラヒラ振って言う。


「そうですね。

 災害や遭難といった状況では1年ですが、そうでなければ7年以上すぎたときに、利害関係がある誰かが申し立てると失踪宣告が出ます」


「あ、そうか。じゃあ誰かが申し立てた……?」


 ジェーンは首を傾げた。

 あんな浮気者の放蕩男に、誰がどんな利害関係を持つのだろう?

 おおかた借金の取り立てか何か……と考えたが、すぐに打ち消した。あの男なら、お金に困ったら女にたかるだろう。業者から借金などしないはずだ。外見がいいわけでもないのに、どうしてあれが女に不自由しないのか不思議だ。世の中の女はよほど見る目がないのだろう。

 ……などと思考がそれて、ジェーンは大きなため息をついた。


「もう15年以上も見てないのに、今更こんな……ねぇ?」


 ジェーンが申し立てるわけもなく。

 通知書を受け取ったところで、どうしろと?

 鼻で笑って、ジェーンは封筒からもう1通の手紙を取り出した。


「これだって、余計なお世話ですよ」


 それはライト教会からの手紙だった。

 ――この度はご家族のご不幸を心よりお悔やみ申し上げます。同封した薬は、束の間ひどい悲しみを和らげてくれるものです。この薬を役立てることなく、ご家族がご自身で前を向けることを祈っておりますが、もしどうしても耐えられないときはお役立てください。

 いやいや……。

 バカか、と。

 アホか、と。

 あれが今さら死亡扱いになったところで「ひどい悲しみ」など、あるわけない。

 お悔やみ申し上げてもらうほど「不幸」だとも「家族」だとも思ってないのだから。

 クシャクシャっと丸めて、ゴミ箱にポイ。


「せっかく配達してもらったのに、ごめんなさいね。

 こんな通知も薬も、私には必要ありませんよ。

 よかったら使います?」


 ヤマトは書類を差し出した。

 仕事をこなすのに荷物をくすねるのは問題だが。

 受取人が「いったん受け取った後に」どうしようと、受取人の自由である。


「こちらに受領のサインさえいただければ」


 もちろん使う予定はない。ひどい悲しみなど感じていないので。

 しかし「くれる」というなら……何かのときに役立つかもしれない。

 ちょっとした「おすそわけ」を受け取って、ヤマトは正規の報酬を受け取りに戻ることにした。






 悪魔の誘惑は、ジェーンには聞こえなかった。

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