二人の気持ち
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体を大きく揺さぶられて目が覚めた。
「セドリック様、いつまで寝ているんですか? もうリューネ嬢をお迎えに行く時間ですよ!」
「んあ……?」
頭が働かない。
それに目がチカチカする。
なんだか世界が黄色味がかっているぞ。
明け方まで【黎明の神器】で遊んで、寝たのは夜明けごろだったもんなあ……。
僕、どれくらい寝たんだろう?
だが悔いはない!
レベルが上がったからだ!!
【ジョブ】魔法剣士(レベル5)
【スキル】二段切り(レベル3 次のレベルまで47%)
火炎剣 (レベル2 次のレベルまで26%)
【魔 法】初級治癒(レベル2 次のレベルまで22%)
【装 備】銅の剣・厚手の服・革のブーツ
【持ち物】ポイッチュ×6、傷薬×1
【所持金】323レーメン
【ヴィレクト金貨】2枚
新しく覚えた火炎剣が便利で、つい頑張っちゃったんだよねえ……。
火炎攻撃が苦手な敵が相手だと、おもしろいように技が決まるのだ。
火炎剣を極めていけば、他の属性魔法の剣技も手に入るのかな?
楽しみすぎだ。
もっとも、そのせいでリアルの僕はボロボロなんだけど……。
「ノエル……コーヒーはあるかな?」
「ご用意できています」
優秀な専属メイドはベッドテーブルにコーヒーセットを用意してくれてあった。
「遅刻は厳禁ですよ。悪い噂はすぐに広がるんですからね」
「広がったっていいよ。僕は結婚なんてしたくないんだから……」
「バカなことをおっしゃらないでください。コーヒーを召し上がったら、すぐにお着替えです!」
「ん~……」
ノエルに急かされながら、なんとか支度を整えた。
エンゲルス邸に到着するとリューネはもう前庭で僕を待っていた。
父親のダヴィッド殿も横に立っていてニコニコと笑いかけてくる。
「セドリック殿、娘の我がままに付き合っていただきありがとうございます。ご迷惑ではありませんでしたか?」
「とんでもない。僕も遠乗りは大好きです」
嘘ではない。
馬に乗って出かけるのは好きだ……った。
ちょっと前まではね。
でも、いまは【黎明の神器】に夢中なのだ。
できれば早く帰りたい。
「セドリック様、まいりましょう」
リューネは言葉少なに僕を促した。
愛想がないのは初対面のときと変わりない。
このこはどういうつもりで僕を誘ったのかな?
おそらく、恋愛感情ではないと思う。
その辺のところはあとで確かめるとしよう。
城門を出て、僕らは西の草原までやってきた。
軍人を目指しているだけあってリューネの馬術は洗練されており、僕よりずっと巧みに馬を操っている。
「この先に小川があるわ。そこで馬を休ませましょう!」
速度を緩めることなくリューネが提案してきた。
よかった、これで少し休憩できるな。
寝不足の僕はすでに疲れていた。
気持ちの良い場所だった。
広々とした草原には初夏の千草が咲き乱れ、爽やかな風が花々の香りを運んでくる。
馬は嬉しそうに水を飲み、甘い花をつまんで噛んでいる。
四人いる護衛たちも僕らから少し離れたところで休憩していた。
これだけの距離があれば、僕らの会話は彼らの耳に入らないだろう。
僕はずっと気になっていたことをリューネに聞いてみることにした。
「どうして僕を遠乗りに誘ってくれたの? とても意外だったんだ」
単刀直入に切り出すとリューネは小さなため息をついた。
「あなたには先に謝っておかなければならないわね。お察しでしょうけど、私、恋愛に興味はないの」
「はじめて会ったときからそれは感じていたよ」
「両親は私のためにお茶会や舞踏会、お見合いなどをセッティングしてくれるけど、私にとっては時間の無駄。でも、あなたとお付き合いしているという既成事実ができれば、そうしたことはなくなるでしょ? だから……」
「つまり、僕をダシにしたんだね」
「ごめんなさい。でも、あなたの邪魔はしないつもり。どうぞ他の人と自由に恋愛をして」
う~ん、じゅうぶん邪魔されているんだけどなあ。
遠乗りがなければ【二段切り】のレベルはさらに上がっていたかもしれない。
複雑な僕の顔を見てリューネは懇願する。
「たまにこうして付き合ってくれるだけでいいわ。なんとかお願いできないかしら? あなたならわかってくれる気がしたんだけど……」
お付き合いのふりか……。
そんなことをする義理はないのだが、僕にとっても悪くない話かもしれない。
リューネとお付き合いが始まったとあれば、お見合いの頻度だって少しは落ちるだろう。
そうなれば【黎明の神器】で遊ぶ時間が増える!
「この話は僕にも利があるようだね。わかった、君と結婚を《《前提としない》》お付き合いをしてみよう!」
「とても助かるわ! セドリック・バッカランド様、今後ともよしなに」
はじめて見るリューネの笑顔はまぶしかった。
笑うとこんなにかわいいのか……。
仮面のお付き合いが少しもったいなく思えるほどだ。
まあ、いいけどね。
僕には【黎明の神器】がある。
だけど、リューネの真意がわかってホッとしたな。
のんびりした気分で改めて周囲の景色に目をやると、あることに僕は気がついた。
「あれ? あの丘は……」
「どうしたの?」
川の位置はここで、なだらかな斜面が続いて、街はあっちの方角……。
間違いない!
あれは【黎明の神器】に出てきた丘であり、【試練の入り口】があった場所じゃないか!
この世はエビダスの世界をモデルにして作られている。
だったら、現実に【試練の入り口】の洞窟が存在していても不思議じゃない。
よし、確かめてみよう!
僕は馬に飛び乗り丘に向かって駆け出すのだった。
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