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リューネとの出会い

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【黎明の神器】を脱ぐとノエルの不安そうな顔があった。


「申し訳ございません、セドリック様」

「どうしたの?」

「そろそろお茶の時間でして……」


 その言葉にちょっとイライラしてしまう。


「お茶? そんなの要らないよ。きょうはキャンセルで!」

「そうは参りません。本日はゲストがいらっしゃるんですよ。侯爵もメドナ様もご出席されるのです」

「あ、そうだった」


 なんたらいう令嬢とその父親が遊びに来るんだったな。

 僕が十七歳になったことで、父上と兄上はそろそろ結婚のことを考えているようだ。

 お見合いとかはまだないけど、その前段階として様々な令嬢をお茶会に招いている。

 きょうのお茶会もその一環なのだろう。

 めんどくさいったらありゃしない!


「はぁ、行きたくないなあ」

「そんなことをおっしゃってはいけません。お客様に失礼ですよ」

「結婚なんて考えたくないよ。僕にはノエルがいてくれればそれでいいさ」

「またそんなお戯れを……。セドリック様の地位ですと、最低でも三人の奥様を持たなければならないのですからね」


 人口保全法か……。

 数十数年前に流行した疫病以来、大陸では男子の出生率が大幅に落ち込んでしまった。

 赤ん坊の生まれる確率は女子が5に対して男子は1である。

 このままでは人口が減ってしまうということで、余裕のある者は重婚が推奨されているのだ。

 男にとってウハウハなシチュエーションだと思うだろう?

 だけど、現実はそれほどいいことばかりじゃない。

 数が減っているので、男はどんどん肩身が狭くなっているのだ。

 僕は通っていないけど、王立学院や士官学校などでも男の立場はかなり弱くなったと聞いている。

 おかねのない農家の次男などは裕福な家の女性に買われるなんてことまで起きているのだ。


「三人も妻を娶ったら僕の居場所なんてなくなっちゃうんじゃないかな?」

「そんなことはありませんよ。セドリック様が奥様たちときちんと向き合えばいいのです」


 それが面倒なんだよ、という言葉を僕は飲み込む。

 やっぱり結婚はまだ早い。

 しばらくは気楽な今の生活を続けて、エビダスで遊んでいたいというのが僕の本心だった。



 お茶会はいまひとつ盛り上がらず、微妙な雰囲気だった。

 ゲストはエンゲルスという真面目そうな騎士とその娘。

 先の大戦で多くの武功を立て、いまでは近衛軍の軍団長を務める人物である。

 無骨ながら豪快な人でもあり、この人の話は面白かった。

 問題はエンゲルス殿の娘であるリューネ嬢だ。

 美人ではあるが、やけに挑戦的な目つきをしていて、僕に対する受け答えもぞんざいだったのだ。


「リューネさん、なにかご趣味はありますか?」

「ありません」

「観劇や芸術などは?」

「行きません。興味がないので」

「…………」

「…………」


 あまりにひどいありさまにエンゲルス殿が終始フォローするくらいだった。


「申し訳ございません。娘は殿方とお話するのに慣れていませんでな。男手ひとつで育てたので武芸ばかりを叩き込み、貴婦人としてのしつけを疎かにしてしまいました」

「気になさらないでください。昨今は軍でも女性の将官が増えていますよね。リューネさんもゆくゆくは入隊されるおつもりですか?」

「そうですね。そのつもりで鍛錬しています」


 会話を広げるつもりのない僕は鍛錬のことには触れず、お茶を一口すすって黙った。

 この娘が未来の妻?

 考えられないよ。

 ただ、どんな人間にも探せば一つくらい共通項はあるものだ。

 この場合、お茶会を終わらせたいという一点で、僕とリューネの意見は一致していた。

 言葉なく意思を疎通させ、不毛な時間を切り上げにかかる僕とリューネはよき戦友だった。

 初対面の男女が行う共同作業としては悪くない手腕を発揮したと思う。

 彼女は家に帰って武術の鍛錬でもするのだろう。

 僕も部屋に戻りエビダスの世界へ行くのだ。

 時間を無駄にする気はない。

 僕らの努力が実りついにエンゲルス殿が帰る段になって、僕はリューネに向き合った。


「本日はありがとうございました」

「こちらこそ」


 なにげないやり取りだったけど、僕らの間には友情に近いものがあったと思う。

 僕らは互いを認める目礼を交わしあった。


 エンゲルス親子が帰るとメドナ兄さんが不機嫌な感想を漏らした。


「なんだあれは? あのような女子はバッカランドにはふさわしくないな」


 だけど、父上の意見は違った。

 父上はポッコリと膨らんだお腹をさすりながら、残ったスコーンをまだ食べている。


「気性のまっすぐなよい娘ではないか。私は嫌いじゃないね」

「たしかにエンゲルス殿の軍における影響力は無視できませんが……」


 僕にとってはどうでもいい話だ。


「そろそろ部屋に戻ります。読みかけの本がありますので……」


 もそもそと口の中であいさつして、僕はそっと部屋を退出した。



 自室に戻ると部屋着に着替え、ベッドにダイブした。

 その様子をあきれ顔で見ていたノエルに厳命する。


「夕食まで誰も取り次がないこと。僕は【黎明の神器】を調査するから」

「はあ……。リューネ・エンゲルス嬢にお礼の手紙を書かなくてよろしいのですか?」

「必要ないよ。先方も書いてこないから」

「どうして?」

「なんとなくわかるんだ。お互いそういうのはなしで済まそうって雰囲気だったからね」


 彼女が令嬢らしいメッセージを寄こすとは思えない。

 僕も余計なことはせず、エビダスの世界へ飛び込むとしよう。


「それじゃあ!」


 ノエルに手を振って、僕はログインした。


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