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セドリック様は引きこもりたい! ~侯爵家の次男坊は神々の創った仮想世界に夢中です  作者: 長野文三郎


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最終話


【黎明の神器・弐式】を手に入れて二週間が経過した。

 あれから毎日のようにみんなで遊び倒して、僕のレベルはかなり上がっている。



【ジョブ】魔法剣士    (レベル32)

【スキル】二段切り    (レベル10)

     火炎剣     (レベル10)

     氷冷剣     (レベル10)

     霞抜け     (レベル10)

     スワローテイル (レベル10)

     ソード・ファング(レベル10)

     ブレードライド (レベル10)

     ダンシングソード(レベル8 次のレベルまで 82/100%)


【魔 法】初級治癒    (レベル10)

     フラッシュ   (レベル10)

     ダミー・シャドウ(レベル7 次のレベルまで 19/100%)

     

【装 備】雷鳴剣ブロンテス

     ガルーダの胸当て、ウラレスのバックラー、千年竜の革グローブ、

     タクティクスブーツ、火炎マント、シルフィの帽子

     賢者の指輪

【持ち物】解毒薬×3、身体強化薬×12

【所持金】182345レーメン

【ヴィレクト金貨】9枚


 新しく覚えた【ブレードライド】は剣に乗って空中を飛翔するスキルだ。

 移動が速く、楽になったので使いどころが多い。

 仲間と一緒に行動するときも、これのおかげで偵察任務が楽になった。

 あっという間にレベル10になってしまったほどだ。

 次に【ダンシングソード】だが、これは遠隔操作で剣を自在に操る技。

 いまのところ一本の剣しか操れないけど、【ダンシングソード・改】になると二本の剣を使いこなすことができるようになるらしい。

 扱いは難しいけど、死角からの攻撃ができるので非常に有効だ。

 魔法では【ダミー・シャドウ】を覚えた。

【フラッシュ】と同じく光魔法の一種で、空間に自分の幻影を映し出す魔法である。

 実態のない分身で敵を惑わせるのに役立つ。

 こうしてみると装備もいいものがそろってきたなあ。

 でも、僕は籤運が悪いのか、いちばんいい【ウラレスのバックラー】でもSRなんだよね。

 リューネなんて【閃光のガントレット SSR】、クォールだって【妖精王のブーケ SSR】を持っているのになあ……。

 創造の石(神級)はいまのところ3個しかないので、当分は神級のリールを回すことができない。

 難しい依頼をクリアしてなんとか集めないと。

 スキルや魔法のレベル上げ、神級の石を集めること、やりたいことはいっぱいある。

 それなのに現実は悲しく、自由な時間というのは少ない。

 本日は朝から、僕は宮廷へ来ている。

 大事な会議があるとかでメドナ兄さんに引っ張り出されたのだ。

 だが、文句ばかりは言っていられないぞ。

 なんと、きょうは兄さんだけでなく父上も一緒なのだ。

 ベルーノ公爵が呼びかけ、国中の貴族たちが集められ、国王陛下の前で緊急の会議を開く、とのことだった。


 父上たちと大広間に入っていくと、すでに大勢の貴族たちが到着していた。

 広間の右側は国王派、左側には公爵派が集まっている。

 クォールも男爵として参加しているな。

 僕らの仲はまだ秘密ということになっているので、話しかけるのは自重しよう。

 おや、エンゲルス殿の横にリューネも来ているじゃないか。

 重要な会議ということで連れてこられたのだろう。

 軽く手を振ってみたら、そっぽを向かれてしまった。

 恥ずかしがらなくてもいいのに、公の場だとリューネはいつもこんな感じだ。

 イチャイチャしているときはあんなに甘えてくるのになぁ……。


 国王陛下が入室されて、一同は膝を折ってあいさつした。


「皆の者、よく集まってくれた。本日はベルーノ公爵が緊急の動議を取り上げたいとのことである。ベルーノ公爵、はじめたまえ」


 ベルーノ公爵は小男ながら覇気を全身にまとったような人だ。

 けっして美男子ではないのだが、人を惹きつける迫力のようなものを持っている。

 それが善なるものであれば、僕も彼を好きになっていただろう。

 だが公爵は類い稀なる才能を持ちながら、それを自分のためだけに使うエゴイストだ。

 また人をさいなむ癖があり、自分に対する批判を許さない。

 ぶっちゃけ、僕は彼が嫌いだった。

 前進み出たベルーノ公爵は朗々たる声で演説をはじめた。


「本日、お集まりいただいたのは、国の行く末について協議するためであります。ここにおられるほとんどの方が心配し、心を痛めていることでしょう……」


 口をつぐんだ公爵に陛下がたずねる。


「心配とはなんのことだ?」

「もちろん、王太子殿下のことでございます」


 陛下は長いひげをしごきながら頷く。


「みながレヴィンのことを気にかけてくれて嬉しく思うぞ。だが、心配はいらん。最近のレヴィンは体の具合もすっかりよくなり、元気にしているのだ」

「本当にそうでしょうか? 噂によると、ここ二週間ほどはお部屋に引きこもられたままで、侍従たちもお姿を拝見していないと聞いておりますが?」

「いや、それは……」


 陛下が口ごもっている。


「陛下、改めてお考え下さい。失礼ながら、病弱な殿下が王太子では、民の不安は治まりません。国の安寧のため、子々孫々に渡る未来のために決断する時ではございませんか?」


 大広間には何百という貴族が集まっていたが、口を開くものは誰もいなかった。

 誰もが固唾を飲んで陛下を見守っている。

 その陛下が広間の後ろを見てにっこりとほほ笑んだ。


「おお、レヴィン。ようやく来たのだね」

「遅参したこと、お詫び申し上げます」

「よいのだ。さあ、こちらに」


 国王派と公爵派の間を通ってレヴィン殿下が前に出てきた。

 殿下のお姿に全員が言葉を失っているなあ。

 それも無理からぬことか。

 だって、殿下のお姿は以前とはまるで違っているから。

 一目で病気とわかる青白い顔はなくなり、いまは生気に溢れている。

 カサカサだった肌はつやつやとして、体の筋肉が増し、姿勢がよくなったせいで背まで伸びたように見えるのだから。

 レヴィン殿下は前まで進み出てベルーノ公爵の手を取った。


「お久しぶりです、公爵。私の噂をされていたようですが、どんな話でしょう? ひょっとして縁談でも持ってきてくださいましたか?」

「そ、それは……」


 殿下のジョークに笑ったのは僕とリューネとクォールだけだったけど、それが国王派の貴族たちに伝染していく。

 殿下はみんなの方に向いて大きな声を上げた。


「長らく病に臥せっていたが、もう問題ない。これからは政務に励むゆえ、みなもよろしく頼む」


 会場中が拍手に包まれ、僕も穏やかな気持ちになる。

 本当によかったなあ。

 はじめてレヴィン殿下をエビダスに連れて行った時にはどうなるかと思ったんだけどね。

 殿下ってば、よろよろの体のくせにジョブを【重騎士】にするんだもん。


「許せ、ずっと憧れていたのだ」


 そう言われちゃうと逆らえなかったのだ。

 みんなで殿下のチュートリアルを助け、レベルが5を超えるくらいからだったかな?

 殿下のお体が目に見えてよくなったのは。

 10を超えたら、よくなるを通り越して、かなり逞しくなった。

 レベル22になった今ではトゲ付きのヘビーシールドで【シールドバッシュ】をガンガン決めるくらいに体力がついている。

 あのシールド、3キロくらいあるのに殿下は軽々と扱うもんなあ……。

 変われば変わるものだ。

 もっとも、それは殿下だけじゃない。

 ノエルは暗殺者として対人系では無敵の強さを誇っている。

 暗躍スキルも豊富で先日は夜這いをかけられた……。

 なんというか、プレイがはじまるまでまったく気がつかなかった。

 リューネは【弓使い】になった。

 剣と弓の両方を極めるそうだ。

 父の後を継いで軍務につき、やがて将軍になるのが夢だそうだ。

 クォールは【錬金術師】になり、様々な素材を集めている。

 爆弾とか、トラップとか、魔法薬とか、かなり危険なものを扱っているぞ。


「そのうち、自分でサルモネールたちに復讐をしますわ」


 と、笑顔で言っていた。

 やりすぎないといいけどね……。

 ま、あいつらにはご愁傷様、とだけ言っておこう。

 こんな感じに、僕らは【黎明の神器】で楽しんでいる。

 それぞれ忙しくなってしまうと思うけど、今後も楽しいひと時を共にしていきたいものだ。

 貴族たちで騒がしい大広間で、大きなあくびをかみ殺す。

 今日も今日とて、僕は寝不足だった。


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ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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