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セドリック様は引きこもりたい! ~侯爵家の次男坊は神々の創った仮想世界に夢中です  作者: 長野文三郎


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新スキル


 新しく覚えたのは【ソード・ファング】と【フラッシュ】か。

 さっそく試してみたいけど、屋内では問題があるな。

 だけどここは兵屯所。

 きっとどこかに練兵場があるはずだ。

 偉そうにしている髭の兵隊長に聞いてみよう。


「練兵場はどこですか?」

「通路の奥を左である」

「使ってもよろしいですか?」

「うむ!」


 城のときと同じであっさり許可が下りたぞ。

 やっぱりここも警備は厳しくないようだ。



 練兵場に人はなく、ひっそりとしていた。

 それでは新しく覚えた技を試してみるとするか。

 まずは【ソード・ファング】から。

 コントロールパネルによると、剣と魔力を組み合わせて衝撃波を発生させることができるらしい。

 どれ、あそこに打ち込んである杭をめがけて……。


「ソード・ファング!」


 バシッ!


 おお、杭の表面が弾け飛んだ!

 衝撃波が当たった場所は小さくえぐれ、周囲には細かい木片が飛び散っている。

 中距離攻撃ができるようになるなんて、テンション爆上げじゃないか!

 威力は大きくないけど、目標到達までのスピードも悪くない。


「射程距離はどれくらいだ?」


 杭から少しずつ離れて試してみる。

 その結果、最大有効射程は15メートルほどだとわかった。

 それ以上離れてしまうと、ほとんど威力を発揮しない。

 弓矢のようにはいかないわけか……。

 だが【ソード・ファング】の使いどころは多い。

 詠唱がないから魔法を使う敵に対して距離を詰める時間が節約できる。

 牽制にも使えるだろうし、応用範囲は広そうだ。

 スキルのレベルを上げれば攻撃力も増すだろう。

 さっそくレベルを上げていこう。

 と、その前に魔法の【フラッシュ】を確認しないとな。

 こちらは光魔法の一種で、剣に魔力を込めて使うそうだ。


「フラッシュ!」


 ほおっ!

 剣がまばゆく発光したぞ。

 しかも光の方向は術者の思いのままに操れる。

 これ、かなり使えるかもしれない……。

 殺傷能力はないけど、強力な目つぶしになると思う。

 日中の効果は薄いが、夜や暗い場所なら間違いなく敵の視力を潰せるはずだ。

 初見だったら避けようがない。

 他にも、光量を落としてカンテラのような使用法も可能なのか。

 剣の刀身が光るから洞窟の中などでは便利そうだ。

 レベルを上げれば光が増し、瞬間的に動けなくなるほどのショックを与えることができるらしい。

 こちらも練習していくとするか。

 って、明日はレヴィン殿下に【万能薬】を届けなければならないんだった!

 そんな日に間違いがあってはならない。

 残念ではあるが、今夜は早めに寝るとしよう。

 ログアウトした僕はプルルフの実を一口かじってぐっすりと眠るのだった。



 すっきりと目覚めている僕を見てノエルが固まっている。


「セドリック様が朝から目覚めているなんて……」

「おいおい、僕をダメ人間扱いしないでくれよ」

「昼間は恋人のところに入り浸り、夜は仮想世界三昧。ダメ人間の自覚がないのですか?」

「うっ……」

「まあ、今朝はきちんと起きたのだから誉めてあげましょう。よく、頑張りましたね」


 褒められると余計にダメ人間を実感するよ……。


「たまにはこんな日もあるさ。きょうはレヴィン殿下にお会いするからね」

「王太子殿下に?」

「その予定さ。手紙を書くから、至急届けて返事をもらってきてくれ」


 僕はその場で手紙を書いた。


 朝食も終わりころになって、レヴィン殿下からの返事が届いた。

 きょうは体調がよろしくないが、寝室でよければ遊びに来てほしいと書いてある。

 きっと無理をしてくれているのだろう。

 すぐにでも行って【万能薬】を飲ませてあげたい。


「兄さん、僕は少し早めに宮廷へ行っていてもいいですか? レヴィン殿下にお会いしたいのです」

「殿下に?」

「少しお話がありまして。明るい時間なら襲撃もないと思うのですが」

「そうだな……。わかった、いいだろう」


 残っていたパンを口に詰め込み、コーヒーでそれを流し込む。

 大急ぎで朝食をすませた僕はすぐに出かけるのだった。



 お部屋にうかがうと、殿下はベッドに横たわったままだった。

 ベッドサイドにはウィットン卿が悲しそうに立っている。

 ウィットン卿はレヴィン殿下が生まれたときからお世話をしている生え抜きの侍従だ。

 殿下のことを自分の子のように愛しているから、殿下のようすに耐えられないのだろう。


「こんな姿ですまないね。きょうはあまり具合がよくない」

「そのようなときに面会をお願いして申し訳ありません」

「気にするな、セドリックの顔を見ていたら元気が出てきた。本当だぞ」


 僕に気を使うことなんてないのに、レヴィン殿下は苦し気な笑顔を作った。


「殿下、きょうはいいものを持ってまいりましたよ」

「ほう、それは楽しみだな。【からくりの卵】、【プルルフ】、セドリックはいつだって私を喜ばせてくれる。いつか恩返しをしないとな」

「恩返しなど考えないでください。僕はずっと殿下の優しさに助けられてきたのですから」


 あの舞踏会の夜からずっとだ。

 笑いものになった僕を社交界に引き留めておいてくれたのは殿下なのだから。


「それで、きょうはなにを見せてくれるのかな」

「こちらです」


 黄色い液体の入った小瓶を僕は取り出した。


「酒……ではないようだが……?」

「これは【万能薬】です。これをお飲みになれば殿下のご病気もよくなるはずです」


 レヴィン殿下もウィットン卿も困惑している。


「い、いきなりの話だな。【万能薬】など、聞いたこともない代物だ……」

「信じられないお気持ちはわかります。ただ、僕を信じて飲んでいただくことはできないでしょうか? 毒見なら僕が引き受けますので」


 僕は誠意を込めてレヴィン殿下に説明した。

【黎明の神器】や、その中でのミッションも含めてである。


「にわかには信じられんが、セドリックが私に嘘をつくとも思えない」

「これが【黎明の神器】です」


 空間収納から【黎明の神器】を取り出して殿下に手渡した。


「…………」


 しばらく【黎明の神器】を見つめていた殿下がつぶやいた。


「カール、グラスを用意してくれ」


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