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セドリック様は引きこもりたい! ~侯爵家の次男坊は神々の創った仮想世界に夢中です  作者: 長野文三郎


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喧嘩の後ほどイチャラブは盛り上がる


 兄さんの出仕もなく、きょうは朝から時間があった。

 ついにこの日がやってきた!

 休日って、これほど尊いものだったんだね……。

 世間知らずの僕はちっとも知らなかったよ。

 労働の後の【黎明の神器】は最高だ!

 ということで、僕は喜びを噛みしめながら【黎明の神器】を使い、さっそく依頼解決に勤しんでいる。

 ところが、これからというときにウィンドウが開いた。


【外部より呼び出しを受けています】

 ログアウトしますか? ▶はい  いいえ


「いま、いいところなのにぃ!」


 僕のレベルは18まで上がっていて、目標である20まではあと少しだ。

 おそらくあと一つか二つ依頼をこなせば19になるだろう。

 それなのに呼び出しをくらうなんて……。

 だけど、事情をよく心得たノエルが不要不急の呼び出しをかけるはずがない。

 おそらく、なにか重要なことが起きているのだ。

 僕は不承不承ログアウトを選択した。


「ノエル、なにかあったの?」

「リューネ様がいらっしゃいました」

「リューネが?」

「はい、とてもご機嫌斜めのご様子で、セドリックはいるか? とおっしゃられまして……」


 ご機嫌斜め?


「僕、なにかやらかしたかな? 数日前、一緒にケステムの銀山を見つけてから会っていないんだけど……」

「それがいけないのですよ! 女の子は毎日でも会いたいし、会えなければ手紙くらいほしいものです」


 めんどくさっ!


「はぁ……」

「ため息なんてつかないでください。クズがばれますよ」

「バレてもいいよ。こういう人間なんだから……」

「いいから身支度を整えてください。まだ、パジャマ姿なんですから」


 着替えを終えた僕は重い足取りでリューネの待つ応接間へ向かうのだった。



 紅茶を出したノエルが退出するとリューネが会話の口火を切った。


「最近はずいぶんと忙しいみたいね」

「なんのことだよ?」

「毎日のように宮廷に行っているみたいじゃない」

「兄さんの護衛だよ。それは前に話しただろう?」

「あら、それだけかしら?」


 鋭い視線でリューネは僕を睨みつけた。

 クォールとの逢瀬おうせをどこかで聞きつけてきたな。

 気を付けてはいたけど、宮廷にはたくさんの人がいる。

 使用人たちの間から噂が広まったとしても不思議ではない。

 だが自分から墓穴は掘りたくないぞ。

 とりあえず、とぼけておこう。


「他になにがあるの?」

「あなた、頻繁ひんぱんにクォール男爵の部屋へ行っているらしいじゃない」

「そのことか……」


 やっぱりバレていたか。


「お付き合いしているの?」

「まあね。サルモネールの事件で、僕が助けたことがクォールにバレてしまったんだ。それがきっかけだよ」

「ふーん……」


 不機嫌なリューネはつまらなそうにティーカップをもてあそんでいる。


「気に食わないの?」

「べつに……」

「だったらなんでそんな顔しているんだよ? そもそも、他の女性とも自由に恋愛を楽しめ、と言ったのはリューネじゃないか」


 初対面の日に言われた言葉だぞ。


「それは! ……そうだけど…………」


 振り上げた拳の落としどころがわからなくなっているのか、リューネはそっぽを向いた。


「クォールさんとは毎日会っているみたいね」

「調べたのか?」

「たまたま耳に入ってきたの!」


 案外、リューネの父親であるエンゲルス殿が調べたのかもな。

 彼が本気になれば衛兵からの情報は筒抜けだ。


「僕は兄さんの護衛をやっているから、しょっちゅう宮廷に行くんだよ。そのついでさ」

「好きなの?」


 とつぜんの質問に僕は少しためらった。


「好きじゃなきゃお付き合いしないよ」

「だったら……私はどうなるの?」


 かりそめの付き合いから僕らの関係ははじまった。

 本当はここまで仲を深めるつもりはなかったのだ。

 改めて考えてみると、僕とリューネは当初の予想を超えて心を通わせている。

 ぶっちゃけ、僕はリューネのことも好きなのだ。


「好きだよ」

「え……」


 ポカンとした表情でリューネは顔を上げた。


「好きじゃなかったらここまで一緒にいられないよ。僕はそんなに我慢強い人間じゃない。認めるよ、僕は君が好きだ」

「本当に?」

「もちろんさ」

「じゃあ,証明できる?」


 それは困ったな。

 人の気持ちなんて目に見えるものじゃない。

 だからこそ、人は行動で態度を示さなきゃならないんだ。


「あと三日だけ待ってくれないか。三日たったら僕にとっていちばんの秘密を君に打ち明けるよ。そのときに大事なアイテムも見せるつもりだ」


 三日以内に特別ミッションをクリアしてリューネをエビダスに招待するのだ。

 僕にとって最大の秘密を打ち明けるのだから、信頼の証明になるんじゃないのかな?

 ところが、リューネは首を横に振って僕の提案を拒否する。


「三日なんて待てない。私はいますぐ証明してほしいの!」


 女の子って、どうしてこんなに我がままなの?

 そんなことを言われたら、もうこうするしかないじゃないか……。

 ソファーに座るリューネの隣に僕は腰かけた。

 二人の距離は3センチと離れていない。

 ここまで近づいたのははじめてのことだ。


(いいのか?)


 僕は目で問いかける。


(さっさとしなさいよ!)


 リューネの視線は挑発的だった。

 こういう表情のリューネは嫌いじゃない。

 焦らすようにゆっくりと抱き寄せて、一気にくちびるを奪った。


「ん……ん……んぁ……」


 どうしてだろう?

 リューネの声だけでなく、キスそのものが甘く感じる。

 ミッションでフラウともキスをしたけど、こんな感じではなかったよな。

 これが現実リアルってこと?

 時間とともに緊張でこわばっていたリューネも体の力を抜き、僕の動きに合わせて舌を動かしている。


「プハッ……」


 一度は口を離した僕たちだったけど、視線が合うともう止まることはできない。

 どちらからともなく再び求めあい、僕らは再び長いキスを交わすのだった。



 リューネが帰ると僕は気合を入れて【黎明の神器】をかぶった。

 あと三日でレベル22に到達し、特別ミッションをクリアするのだ。

 そうすれば、みんなとエビダスで会える!

 その夜の【燕の剣】のうなりは、いつもと一味違った。


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