痣の秘密
椅子に腰かけるとレヴィン殿下の顔色はだいぶマシになった。
「ご迷惑をかけてすみません、叔母上」
「そんなことはございません。それと、叔母上はやめてください。私は王族ではないのですから」
「なにを言いますか。叔母上は先王のれっきとした娘。私にとっては実の叔母以外のなにものでもございません」
殿下はきっぱりと言い切った。
バッカランド家が国王派で本当によかったと思う。
もし公爵派だったら、僕はこんないい人を敵に回さなければならなかったのだから。
「そうだ! おもしろいものがありますよ」
地下納骨堂の依頼でもらった【からくり細工の卵】を披露するとしよう。
殿下の手は冷たすぎたので僕はクォールに卵を渡した。
「クォール様、これを手のひらで温めてみてください」
「金属の卵をですか?」
恐る恐る手にしたクォールだったけど、生まれたヒヨコに大喜びだ。
殿下もたいそう喜ばれて、めずらしく興奮している。
「これほどの珍品は滅多にないぞ。いいものを見せてもらった」
「お気に召したようでなによりでございます」
殿下は大きなため息をついた。
「きょうは久しぶりに楽しかった。今夜はぐっすり眠れそうだよ。最近、眠りが浅くて困っていたんだ」
「眠りが? でしたら、こちらをお持ちください。プルルフの実です。一切れ食べればぐっすり眠れますから」
「プルルフだって? たしかめずらしい果物なんだろう?」
「近頃は見かけなくなっているそうですね。私は遠乗りのときにたまたま見つけました」
「ありがとう、セドリック。近いうちに私の部屋に遊びに来てくれ。叔母上もぜひおいでください」
僕とクォールはていねいに頭を下げた。
と、殿下が質問してくる。
「ところでセドリック、どうして叔母上の部屋の前にいたのだ?」
「そ、それは……」
答えに窮する僕をクォールが助けてくれた。
「私たちは友人なのです。薬草園で偶然顔を合わせましてね。それからいろいろとお話をするようになりました」
「はい、そうなのです。クォール様には薬草のことを教えていただいております」
嘘は言っていない。
殿下の叔母さんは僕の彼女だぜ! なんて言えないもの。
いまのところは……。
そう考えると、クォールが王族でないのはいいことだったのかもしれない。
王族だったらいろいろ面倒だったかもしれないけど、男爵くらいなら家格だってじゅうぶん釣り合うもんね。
レヴィン殿下が退出されて、僕も兄さんのところへ戻った。
「兄さん、お待たせしました」
「かまわん、王太子殿下と一緒だったのだろう?」
「たまたま廊下でお会いして、話が盛り上がってしまいました」
「うむ。バッカランド家は国王派だ。王太子殿下と仲良くするのは悪いことじゃないさ。殿下はお元気そうだったか?」
「きょうは小康状態だったようです。さすがに全快とまではいかないようですね」
「そうか……」
国王派の貴族たちは王太子殿下が王位を継承されるのを期待している。
本音では殿下にもう少し丈夫になってもらいたいのだろうな。
「ところで、セドリック……」
兄さんが不意に話題を変えてきた。
「首筋に痣ができているが大丈夫か?」
「痣?」
あっ!
それはたぶん痣ではなくクォールがつけたキスマーク……。
服を脱いだらわかるのだが、けっこういろんなところについている。
ノエルに見つかったらまた嫌味を言われてしまうかもしれない。
「ふむ、こんな痣がついてしまうほど剣術の修行をしているのだな」
「は……? はいっ! バッカランドの子弟として兄上の護衛は当然の責務ですから」
「そうか……」
普段は厳しいメドナ兄さんの顔に肉親の優しさのようなものが垣間見えた。
「セドリック、これからもよろしく頼むぞ」
「お任せください!」
あぶねえ……。
兄さんが勝手に誤解してくれて助かったよ。
レベルのあがった治癒魔法で痣を消しつつ、僕は帰りの馬車に乗り込むのだった。
その夜、エビスタでレベルを上げながら僕はレヴィン殿下のことを考えていた。
幼いころから病弱だった殿下は宮廷から出たことがほとんどない。
僕が町や郊外の話を聞かせてあげると、いつも嬉しそうにしている。
たまに羨ましそうにも……。
殿下をエビスタに連れてきてあげることができたらきっと喜んでくれるはずだ。
それにはやはり【黎明の神器・弐式】が必要だ。
「さて、今夜ももう少し頑張りますか」
いま取り組んでいるデイリーミッションはこんな感じだ。
【デイリーミッション フラウのイヤリング】
花屋のフラウの大切な指輪が盗まれてしまいました。
犯人は西の森のピクシーのようですが、どのピクシーがイヤリングを盗ったのかわかりません。
イヤリングが見つかるまでピクシーを倒してください。
報酬:経験値、100レーメン、フラウの情熱的なキッス
報奨金は少ないけど悪くない経験値がもらえそうだ。
まあ、【情熱的なキッス】はおまけだな。
チラッとみてきたけど、フラウは素朴でかわいらしいこだった。
鼻の周りのそばかすと、巨大な桃みたいに大きなお尻が魅力的だったな。
べ、べつに触ろうとは思っていないぞ!
僕は紳士なんだから……。
さあ、西の森へ向かうとするか。
***
少し時間がかかったけど、僕はフラウのイヤリングを取り戻すことができた。
【賢者の指輪】のおかげで魔力の回復が少し早くなったから、そのぶん討伐は楽になっている。
特に【スワローテイル】と【初級治癒魔法】はいつもよりたくさん練習できた。
それにしても、フラウのキスは確かに情熱的だったなあ……。
イヤリングを渡したら激しく抱きついてきたから、支えるふりをしてお尻を触ることもできた。
ものすごくボリューミーだった。
フラウはぜんぜん怒っていなかったし、ペナルティもなくてよかった。
実は、悪いことをしたら経験値を没収されるんじゃないかと不安に感じていたのだ。
ミッションはクリアしたし、レベルも上がったし、キスは情熱的でお尻にも触れた。
あらゆる結果に満足しながら僕は眠りにつくのだった。
冒険の記録
【ジョブ】魔法剣士 (レベル17)
【スキル】二段切り (レベル10)
火炎剣 (レベル8 次のレベルまで 92/100%)
霞抜け (レベル7 次のレベルまで 45/100%)
スワローテイル(レベル8 次のレベルまで 19/100%)
【魔 法】初級治癒 (レベル10)
【装 備】燕の剣、鋼の剣、
革の胸当て、厚手の服、皮の腕当て、皮のグローブ、
革のブーツ、旅人のマント、旅人の帽子
賢者の指輪
【持ち物】ポイッチュ×10、傷薬×3、解毒薬×2、身体強化薬×14
【所持金】7950レーメン
【ヴィレクト金貨】3枚
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