年上の彼女
持ち帰った鉱石には銀が大量に含まれていた。
専門家が鑑定した結果だから間違いないだろう。
銀山が見つかったことで父上は秘蔵のワインを開けた。
「浮かれるのはまだ早いですよ。現地をきちんと調査してからでないと……」
お小言を言いながらメドナ兄さんも笑顔を隠しきれていない。
かなり有望な鉱山のようだと専門家が言っていたからだ。
このぶんなら僕のお小遣いも無事にアップするだろう。
「僕はそろそろ部屋へ……」
「おいおい、もう一杯くらいつきあいなさい。父といるのはそんなに嫌か?」
「おまえの働きには私も感謝しているのだ。たまにはゆっくり話そう」
本当は【黎明の神器】で遊びたいのだが、父上と兄さんがそれを許してくれない。
まあ、たまにはこんな日があってもいいか……、
その夜は親兄弟がそろって和やかな時間を過ごすことができた。
遠乗りで疲れていたけど、夜はなんとかレベルをひとつ上げてから寝た。
【ジョブ】魔法剣士 (レベル16)
【スキル】二段切り (レベル10)
火炎剣 (レベル8 次のレベルまで 73/100%)
霞抜け (レベル6 次のレベルまで 10/100%)
スワローテイル(レベル7 次のレベルまで 84/100%)
【魔 法】初級治癒 (レベル9 次のレベルまで 29/100%)
【装 備】燕の剣、鋼の剣、
革の胸当て、厚手の服、皮の腕当て、皮のグローブ、
革のブーツ、旅人のマント、旅人の帽子
賢者の指輪
【持ち物】ポイッチュ×12、傷薬×3、解毒薬×2、身体強化薬×14
【所持金】7850レーメン
【ヴィレクト金貨】3枚
推奨レベル20のスペシャルミッションに取り掛かるまでもう少しだ。
こいつを解決すれば【黎明の神器・弐式】がもらえるから頑張らないと。
ノエルたちと組んで冒険ができれば効率はさらに上がるんだろうなあ。
難しい依頼だって仲間がいればなんとかなるかもしれない。
そうすれば、経験値もおかねもずっと楽に稼げるだろう。
おかねが貯まったらエビスタで馬を手に入れたい。
生物は空間収納にはしまえないので、現実世界から持っていくことができない。
じつは、庭にいた蟻ですでに実験済みだ。
馬を手に入れたら、もっと遠くまで旅ができるぞ。
夢がどんどん広がっていくなあ。
今回わかったのは【スキル】のレベルの最大値は10だということだ。
おそらく魔法もそうなのだろう。
こうしてはっきり数値化されると安心するね。
とりあえずは魔法剣士のレベルを上げつつ、スワローテイルをレベル10にしよう。
***
情事を終えた部屋には生々しい空気が充満していた。
うつぶせの状態でクォールの豊かな胸に手を置いたまま僕は謝る。
「ごめん、きょうはこのまま少し寝かせてもらえないかな?」
「寝不足? 夜は他の貴婦人と忙しかったのかしら?」
僕の足の付け根の辺りでクォールの手がもぞもぞと動いた。
「痛いよ。そんなのじゃないさ。夜は本当に忙しくて……」
「本当に? たしか、エンゲルス家のリューネさんともお付き合いをしているんでしょう?」
「そうだけど、リューネと夜には会ってないよ」
「だったら、どんな悪さをしているのかしら?」
「それについてはいつか説明するから……」
ことが終わってすぐ寝るのはさすがに失礼だと思い、僕は必死で会話をしている。
気を抜くと秒で眠りに落ちそうだぞ。
ピロートークって大変だなあ……。
「なんだか本当に疲れているのね。私のことはいいから少し眠って」
優しい声をかけながらクォールは僕の髪の毛をなでてくれる。
「うん……そうさせてもらおう……かな……」
頬にクォールのくちびるが触れた気がしたけど、確かめることもできないで僕は眠りに落ちた。
***
ベッドから起き上がると僕を見つめるクォールと目が合った。
「おはよう。よく眠れたかしら?」
すでに服をきちっと着こなし、髪型もメイクも整っている。
先ほどまでの淫らな感じは一切なく、清楚なお姉さんに戻っていた。
それに比べて僕はといえば、まだ裸のままで髪もボサボサだ。
なんだか恥ずかしくなってくるなあ。
「おかげでスッキリしたよ。そろそろ兄さんのところに戻ってないと……」
差し出された下着を受け取り、シャツを羽織る。
「はい、レモン水よ。これを飲んでから行ってね」
最後に服装をチェックしてもらって、僕は部屋の外へ出た。
「また来るよ。お土産のリクエストとかない?」
「なんだってかまわないわ。セドリックが来てくれるんなら」
廊下で別れの挨拶を交わしていると意外な人物がこちらにやってきた。
「王太子殿下、ご無沙汰しています」
僕らは慌てて膝を折った。
青白い顔に汗を浮かべて殿下はゆっくりとこちらへやって来る。
お付きの人々も心配そうに殿下を見守っているぞ。
原因不明のご病気で苦しんでいるけど、きょうは少し調子がいいのかもしれない。
「叔母上、こんにちは。セドリックも久しぶりだね」
王族ではなくてもクォールは先王の娘だ。
レヴィン殿下にとっては事実上の叔母にあたる。
他の王族はクォールを無視すると聞いたけど、レヴィン殿下はきちんと挨拶するのだなあ。
やっぱり優しい人なのだ。
「殿下、このようなところでなにをしていらっしゃるのですか?」
「リハビリだよ。ずっとベッドで横になっていると歩き方を忘れてしまいそうでね」
儚げにレヴィン殿下は微笑んだ。
体調がよくなったので、体力をつけるために歩いているのだろう。
だけど、顔色が悪すぎるぞ。
クォールも心配したのか殿下に声をかける。
「よろしければ私の部屋で休んで行かれませんか? お茶を用意いたしますので」
「それはありがたい。セドリック、君も付き合ってくれるんだろう? 久しぶりに話をしよう」
「もちろんです」
僕はお付きのひとりに声をかける。
「監査庁にいる兄に伝言をたのむ。セドリックはクォール様のところで王太子殿下とお茶をいただくと」
「はっ、承知いたしました」
メッセンジャーが離れていくのを確認してから、僕は再びクォールの部屋へ入った。
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