早く続きがしたい!
新作です。
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困惑する僕にミネルバさんが説明してくれた。
「どなたかは存じませんが、セドリック様を呼んでいる方がいらっしゃいますね」
きっとノエルだな。
「チュートリアルは切りのいいところです。いちど戻られてはいかがでしょう?」
本当はもっと続けたいのだけど仕方がない。
いちど戻ってノエルを安心させるとするか。
「わかりました。戻ることにします」
「それではログアウトを選択してください。コントロールパネルは念じればいつでも開きます」
コントロールパネルとは、あの半透明な板のことだな。
「それでは、またよろしくお願いします」
僕はミネルバさんに別れを告げ、ログアウトを選択した。
【黎明の神器】を脱ぐと、目に涙をためたノエルの顔が見えた。
「セドリック様! よかった……」
「心配をかけたみたいだね。僕はどんな様子だったの?」
「ずっと呼びかけていたのですがお返事はなく、たまに指先がピクピク動くだけでした。それで、失礼とは存じましたが体をゆすりました」
それで【外部より呼び出しを受けています】の表示が出たんだな。
「私、なにか悪いことをしましたでしょうか?」
「いや、いいんだ。これからもこういうことはあるかもしれない。もし用事ができたら今回のように体をゆすってくれ。すぐに戻ってこられるかはわからないけど……」
ログアウトにもタイミングは必要だ。
「あの、戻ってくるということは……【黎明の神器】が動いたということでしょうか?」
「そうなんだよ!」
僕はノエルに【黎明の神器】の世界やミネルバさんについて説明した。
「まだまだほんの一部を体験しただけだけど、本当にすごいんだ。僕はこれからエビダス中を回ってみるつもりさ。というわけで、また行ってくるよ。チュートリアルの続きを受けないと」
「なりません」
【黎明の神器】をかぶろうとする僕の手をノエルが止めた。
「どうして?」
「昼食のお時間です」
「食べたくない。それより【黎明の神器】だよ」
むこうでポイッチュを食べれば空腹は満たされるだろうし、他にも食べ物はあるかもしれない。
だが、ノエルは僕を諫め続ける。
「セドリック様、メドナ様に叱られてもよろしいのですか?」
「うっ、それは……」
兄さんはマナーに厳しい。
仮想空間に入り浸りたいという理由で昼食をすっぽかすなど、許してくれるはずがないのだ。
それに【黎明の神器】のことは誰にも教えたくなかった。
だって、取り上げられるかもしれないから。
どうせ僕しか起動できないのなら、僕だけのものにしておきたい。
いまは……。
やりつくして、遊び飽きたら倉庫に戻しておくつもりである。
それまでは僕が独占しておくとしよう。
「さあ、準備をしましょう。今日のメニューにはセドリック様の好きな茄子のグラタンがありますよ」
「うん……」
たいして食欲はわかなかったけど、僕は身支度を整えるのだった。
お昼ご飯を食べ終わると僕はノエルを連れて自室に駆け戻った。
もちろん【黎明の神器】で遊ぶためである。
僕はノエルに向かって釘を刺す。
「いいかい、【黎明の神器】のことは誰にも内緒だからね。部屋には鍵をかけて、取り次ぎはノエルがやってね」
「承知しました」
「それと、緊急のとき以外は呼び出さないでくれよ。僕は忙しいんだから」
「忙しい?」
「侯爵家の者として【黎明の神器】を探るのは当然の務めなんだ。いいね?」
本音は【黎明の神器】で遊びたいだけだけど、こう言っておかなければ恰好がつかない。
素直なノエルはすぐに信用してくれた。
「わかりました。セドリック様、ここは私にお任せくださって、どうかご存分にご探求ください」
「ありがとう。じゃあ、行ってくるね!」
寝室のベッドに横になると、僕はワクワクしながら【黎明の神器】をかぶった。
ログインすると、そこは前回ログアウトしたのと同じ場所だった。
だけどミネルバさんの姿はない。
「ミネルバさん?」
遠慮がちに呼んでみたけど、返事はなかった。
チュートリアルの続きを受けるには、どうすればいいのだろう?
そういえば、コントロールパネルは念じれば出てくる、とミネルバさんは言っていたな。
あそこに手がかりが書いてあるかもしれない。
期待を込めてコントロールパネルを呼び出すと、予想どおりだった。
【チュートリアル2 ~ジョブを選ぶ~】
これを選択すればいいんだな。
でも、ジョブってなんだろう?
簡単に言えば職業ってことだけど、エビダスの世界では仕事を決めなければならないのだろうか?
ちなみに、リアルの僕はいまのところ【無職】だ。
いずれ父上から小さな領地を譲り受けて【領主】になるのだろう。
選択肢として、宮廷の役職についたり、軍務に就いたりすることも可能だ。
もっとも、そんなものに興味はないけどね。
どうせならリアルで就くことのない職業を選んでみたいなあ。
とにかく、チュートリアル2を始めてみるか。
パネルを押すとミネルバさんが現れた。
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